第120話 幽霊バー
「そういえば、例の幽霊バーの話はどうなったんですか?」
マスターがフレッドさんの方を向いた。
「あぁ、あれな。どうも男2人、女1人の3人組だったらしいんだ。でも、それ以上の情報は無くて困ってるんだよ。 ただ、その女性ってのが奇麗な人だったってのが近所の噂なんだ。」
「幽霊バー? 怖い話なの?」
ネコ娘が軽く首を傾げた。
「幽霊バーって言っても、お化けが出たわけじゃなくて、閉店したバーなのに、なぜか夜になると電気が点いて、さらには客まで居たって話があるんだよ。」
「えーっ、それ、本当に幽霊なんじゃないの?」
「まぁ、絶対に違う、とは言えないけど、騎士団が確認のために店に入ったら、その、もしかしたら本当の幽霊達は裏口から逃げて行ったんだ。 な? あまり逃げる幽霊って想像できないだろ?」
「あちゃー。それはちゃんと足が生えてそうな幽霊だねー。 ハハハ。」
「だろ? ホント、不思議な話だよ。」
「それじゃ、閉店してるバーを勝手に営業してたってことか?」
バーボン・ロックを一口飲んでから聞いた。
「それが、あまり客が入ってたって話もなくて、もう、目的が分からないんだ。」
「その店って、この近くなの?」
ネコ娘がフレッドさんの方を見る。
「あぁ、向こうの路地裏にある『終点』ってバーだよ。」
ブフッ。
プッ。
オレとネコ娘が同時に噴き出した。
「え? え? どうした? 2人とも?」
「『終点』? 向こうの路地の? レンガと木材が混ざった外壁に、重そうな木の扉がある店のこと?」
「そう、それだよ。何で知ってる?」
「そして、そこのママは奇麗なんでしょ?」
「そういう噂だ。」
「その店のママに、一目ぼれしたのよ、この人。」
ネコ娘がオレの方を指さした。
「オイ、そんなことないって言ってるだろ。困っている人が居たら助ける。それが人として、いや、レジェンドとして当然の行動で・・」
「ちょっと待ってくれよ。キミ達、あの店に入ったことあるのか?」
フレッドさんが大きく両手を振った。
「あるよ?」
「ああ、ある。」
「おいおいおいおい・・ ちょっと詳しく聞かせてくれないか。その3人組を見たのか?」
「うーん、アタシはママだけしか見てないわ。 ママやってる奇麗な人。」
「オレも店員はママさんしか見てないな。」
「そうか。店にはママだけなのか。 それじゃ、他の2人の男はなんだろうな?」
フレッドさんが腕組をする。
「ねぇ、貴方、この前も一人で『終点』に行ったわよね? 鼻の下伸ばして。」
「あのな、その『鼻の下伸ばして』ってのは、キミの単なる想像だろ? あ、あれか、もしかして、キミはジェラシー感じてたりするのか? そうなのか?」
「・・あのね、ジェラシーとかって、1000%の確率で無いでしょ?」
「あの・・ね。 ちょっと良いかな。お取込み中の所大変申し訳ないんだけど、その、また店に行ったってのはなにかな?」
フレッドさんが右手で話を遮るポーズをする。
「あぁ、そうだった。それじゃ簡単に経緯を説明しておこう。 まず、オレとコイツで『終点』に入ったんだ。それは偶然見つけて入っただけだ。 店には客は誰も居なくて、ママだけが居た。 そして、ママから、毎日店の前にコインが置かれて気持ちが悪いっていう相談を受けたんだ。 それをオレが解決した。 で、その報告をしに、オレ一人で『終点』へ行ったんだ。」
ネコ娘は何か言いたそうな顔をしていたが、黙っていた。
「で? 一人で行ったときにも、店にはママしか居なかったのかい?」
「カウンターの中にはママしか居なかったな。 あ、そうか、先客が2人居たな。 ママがオレにコイン事件を解決したお礼にって、手作りのレーズンバターを出してくれたんだけど、それが美味くてな。」
「・・そうか、美味かったんだな。 でも、先客2人の方の話がもっと聞きたいな。」
「あ、そうれもそうだな。 そういえば、オレがママと話してると、常にチラチラをこっちを見てるような気がして、ちょっとジェラシーを感じたな。」
「・・いや、あのジェラシーはどうでもよくて、人相とか恰好とか。」
「それは覚えてないな。」
「・・・そうか。」
フレッドさんが軽く俯いて、ウィスキーの入ったグラスをくるくると回して一口飲むと席を立った。
「失礼、ちょっとトイレに。」
「ねぇ、今の話、もう一度してよ。」
ネコ娘が小声でそう言いながらオレの手を握った。
「また人の記憶の覗き見か? 趣味悪いぞ。」
「あのね、貴方の記憶になんか、興味は全く御座いません。 その2人の客の顔が見てみたいのよ。」
「あぁ、それは分かってるよ。 じゃ、いいか、簡単に話すぞ。 『終点』に行った。ママが手作りのレーズンバターを出してくれた。それ喰って、仲良く喋ってたら、先客2人がチラチラオレを見てた。 はい、これでどうだ。」
「うん。なるほど、この2人なんだ。確かに、ずっと貴方のこと見てるね。それに、この先客2人、飲み物も食べ物の何も置いてないわよ。 これ、客じゃないわね。」
「そうなのか、全然気づかなかったな。 よし、フレッドさんが戻ってきたら伝えよう。」




