第115話 馬車好き
今日も、入り口のキッチンには大きな鍋にたっぷりの油が熱せられている。
席に座ると、昨日と同じ初老の男性店員が壁を指さした。
「いらっしゃい、今日のメニューはあれね。」
「あ、本日の揚げ魚が違うんだ。 今日は、湖パーチ、赤ヒレ、岩カマスだって。 アタシ、岩カマスにするわ。」
「なるほど、本当に日替わりなんだな。じゃ、オレは赤ヒレにしよう。」
「岩カマスと赤ヒレねね。ちょっと待っててね。」
初老の店員がキッチンにオーダーを伝えた。
すぐに昨日と同じ、木皿とタルタルソース、スープが運ばれてきた。
「うーん、岩カマス、良い香りだわ。いただきます。」
「頂きます。」
オレの赤ヒレは脂がしっかりのってて、美味そうだ。
「すごいわ、岩カマス、香りが鼻に抜ける感じよ。ねぇ、ちょっと食べてみてよ。」
ネコ娘が、岩カマスを少しオレの木皿に乗せる。
「じゃ、交換な。」
オレの赤ヒレを少し、ネコ娘の木皿に乗せた。
「わぁ、赤ヒレも美味しいね。 揚げ魚って、毎日食べても全然飽きないかも。」
「あぁ、この岩カマス、ホントに良い香りだぞ。 揚げ魚って奥が深いんんだな。」
2日続けて揚げ魚定食を食べた後は、また市場を散策することにした。
「こっちの方が野菜も果物も種類が多いわよね。」
「そりゃ、ゲートの街、国境の街だからな。」
「果物買って帰ろうか? ホテルで食べられるように。」
「欲しい果物があったら買えばいいじゃないか。 あ、ただ、オレは今夜は宮殿城下町へ行こうかと思ってるんだけどな。」
「そうなの? なにかあったの?」
「いや、特にはないけど、なんとなく、な。」
「ふうん。それじゃアタシも一緒に行こうかな。でも、行くんだったら、今果物買ったら邪魔になっちゃうよね。 それなら、今は買わないでおこうっと。」
「別にキミはこっちに居て良いんだぞ?」
「えー? 馬車乗るんでしょ? アタシ、馬車好きだもん。」
「馬車好きだったのか。だから、今日の朝飯でお子様セット食べたんだな?」
「それは違うよ。だって、おもちゃ、何が付いてくるかは知らなかったもん。」
「何がついてくるかは知らなかったけど、おもちゃが付いてくることは知ってたんだよな?」
「ほら、朝ご飯の話はもうおしまい。過去を振り返るより未来を語りましょ。」
「なんだそりゃ? まぁ、どうしてもオレと一緒に行きたい、っていうなら、仕方ないけどな。」
「ちょっと、訂正ね。貴方と一緒に行きたい、というか、馬車に乗って、向こうの街へ行きたい、だけどね。」
「・・・なんかちょっと気分悪いな。」
「もちろん冗談よ。ダンディなレジェンド探偵様と一緒に行きたいわ。」
「・・・それはそれでわざとらしいぞ。」
「ほら、もう、そんなこと良いから、行くなら早く行こうよ、ね。」
「そんなに早く行ったってすることないだろ。」
「市場の友達達と話ししたいのよ。」
「そういうことか、なるほどな。まぁ、それならもう行くか。」
馬車に乗って、宮殿城下町へやってきた。
特に行き先を決めていたわけじゃないけど、なんとなく、市場の噴水前にたどり着いた。
「うーん、やっぱり、ここ、なんか落ち着くよねー。」
「だな。 ここだって、そんなに長くいたわけじゃないけど、ホッとするな。」
「夜ご飯はどうするの? どこかに集合でも良い?」
「うん? 集合? 今からどこかへ行くのか?」
「うん、皆に会ってくるんだ。」
ネコ娘が市場の方を指さした。
「あ、そうか、キミは友達と話しするんだったな。それなら、ここに18時に集合するってことでどうだ?」
「うん、わかった、18時ね。 それじゃ行ってきまーす。」
右手を大きく振って、市場の方に小走りで走っていった。
元気なヤツだな。 さて、オレは、どうしようか。市場を歩いてもしょうがないし。
そうだ、久しぶりにマルティンさんの魔道具屋へ顔を出してみよう。
「こんにちわ。」
大通りの1本裏の道にある、マルティンさんの店のドアを開ける。
「おや? これは珍しいお客さんだ。 レジェンド探偵さんじゃないか、よくきてくれたの。ささ、入って入って。」
店の奥の小さな丸テーブルに案内された。
「今日は一人だけかの?」
「あぁ、ネコ娘は市場で雑談に精を出してる。」
「そうかそうか、そういえば、今はゲートの街に居るって噂を聞いたぞ?」
「あぁ、一昨日からゲートホテルってところに泊ってる。1週間ほど、あっちに居るつもりだ。」
「ゲートの街でなにかあったのかの?」
「いや、特には無い。ただ、オレたちの商売柄、同じところに居ると、集まる情報の幅が広がらないからな。いろんなところを転々としているだけさ。」
「なるほどな。それで、久々にこっちにきたら、お嬢ちゃんは市場のお友達とおしゃべりに夢中ってところかの?」
「まさしくその通りすぎて・・。」
「で、時間を持て余したおぬしだけが、こんな爺の所へ顔を出してくれた、と。」
「いや、別にそういうことじゃないぞ。 いろいろと情報交換したいと思って・・。」
「まぁ、冗談じゃ。 それより、良いお茶があるんじゃよ。ちょっと待っとくれ。」
マルティンさんが笑いながら奥の部屋へ入っていった。




