第114話 木製の馬車
「もしもし? ルームサービスお願いします。 え? あ、302号室です。朝食のメニューってなにかしら? はい、あ、ちょっと待ってね。 ねぇ、メニューはね、コンチネンタルブレックファストとゲートブレックファスト、あと、お子様セットだって。」
「ふーん、じゃ、オレはコンチネンタル頼んでくれよ。」
「わかったー。 あ、もしもし? コンチネンタルを1つと、お子様セットを1つお願いします。 15分? はい、わかりました。じゃ、お願いします。」
チンっ。
ネコ娘が受話器を置いた。
「おい、キミ、もしかして、お子様セット頼んだか?」
「ちょっとね、あまり食欲なくて、ね。」
「そうなのか? キミが食欲無いなんてな。熱でもあるのか? 大丈夫か?」
「大丈夫よ、ありがとう。」
しばらくベランダで、ボーっと外を見ながら、ネコ娘と風に吹かれていた。
コンコンコン
「ルームサービスです。」
「あ、来た来た。 はーい、今開けまーす。」
ボーイが大きなトレーを持ってベランダへやってきた。
「ここ、このテーブルにお願いね。」
ネコ娘がベランダの小さなカフェテーブルを指さしている。
「外で喰うのか?」
「こっちの方が気持ちいいじゃない?」
ボーイがカフェテーブルの上に皿を置いて、出て行った。
「へぇ、これがコンチネンタルブレックファストって言うんだ。トーストと、バター、ジャム、それにハムとチーズとゆで卵。小さなサラダもついてるんだね。へぇ、なんか、ちゃんとセットになってるね。」
「まぁ、ホテルの朝飯の定番セットみたいなもんだからな。 それより、キミのそれはなんなんだ?」
「アタシの? 可愛いでしょ? ほら、こんがり焼けたミニホットケーキが2枚。この黄色いがミニオムレツ。それに、赤いタコさんソーセージが2匹。隣はハッシュポテト、そしてプリン、ほら、ちゃんとクリームの乗ってるの。」
「それって、見事に季節感も地域性もない、子供特化型のメニューだな。ってか、その隣の、そのリボンが付いたのはなんだ?」
「これ? さぁ、なんだろうね? さ、ほら、食べようよ。」
「いやいや、そのリボンの付いた包み、気になるだろ。 なんだよ、それ。」
「これは食事の後のお楽しみってことで、先に食べようよ。」
「うん? あ、もしかして。お子様セットって・・。」
「わかったわよ、開けますよ、開ければ良いんでしょ。まったくもう。」
ネコ娘がリボンをほどいて、包みを開けた。
「うわっ、可愛いー。ほら、見てー。」
木製の馬車が出てきた。しかも、荷台にはなぜかネコが乗ってる。
「・・なんなんだ、それ?」
「あ、これ、ゼンマイが付いてるよ。 巻いてみるね。」
ギィー、ギィー・・。
カタカタカタカタ・・
ネコ娘が床に馬車のおもちゃを置くと、荷台のネコが首が左右にカクカク動かしながら、馬車が走りだした。
「やだー、かわいいわー。」
「・・・・・朝飯にしようか。」
「ほら、だから、アタシが先に食べようって言ったのに。」
「なぁ、もしかして、お子様セット頼んだのって、そのおもちゃが欲し・・」
「いっただきまーす。 さぁ、最初はたこさんソーセージから食べちゃうぞー。」
「あのな、人が喋ってるところに上から被せるな、って言ってるよな? それに、食欲なかったんだよな?」
「ほら、せっかくのお料理が冷めちゃうよ? 食べよ? ね?」
「・・あぁ。」
久々に、妙に落ち着く、というか、安定感と既視感のある朝食を食べたおかげで、なんだかリラックスできた。ゆっくりと食後のコーヒーを楽しむ。
カタカタカタカタ・・
・・その脇で、意味不明なネコを乗せた馬車のゼンマイおもちゃが走り回ってる。
「なぁ、そのおもちゃ、おもしろいのか?」
「めっちゃ面白いよ。 ほら見てよ、このネコちゃんの動き。可愛いよねー。」
「・・いや、オレにはそのセンスがよくわからん。」
ネコ娘は飽きもせずにネコを乗せた馬車のおもちゃでひたすら遊んでる。
時計の針はそろそろ11時半を指そうとしていた。
「なぁ、昼はどうするんだ? 外に行くならそろそろ出ないと。」
「え? ランチ? そうね、行きましょう。アタシもう、お腹ペッコペコなの。」
「はぁ? キミ、食欲無いからお子様セット頼んだんだよな?」
「うん、もう治った。すっかり治った、全然治ったよ。はやくランチ行こ。」
多少、いや、かなり納得出来ない気分ではあったが、そこは押し込めて、ネコ娘と市場まで歩いて来た。
「昼の市場って、この揚げ魚の香りが良い感じよね。」
「揚げ魚か、昨日の昼にも喰ったよな。」
「そうなんだけど、昨日とは魚の匂いが違うのよね。」
「そんなもんなのか? まぁ、ここの定番料理らしいし、オレは今は特に喰いたいってものは無いから、なんでもいいけどな。」
「それじゃまた、新鮮な魚の匂いを信じて行きましょうか。 クンクン・・・こっちね。 あら? あれって、昨日と同じ店だわ。」
確かに、ネコ娘が指さした先には、昨日の昼に入った、白い暖簾の店があった。
「いつでも新鮮な魚がある店ってことなのかもね。でも、昨日とは匂いが違うのよ?」
「じゃ、行ってみるか?」




