第112話 組合長
「ところでお二人さんは、こっち来てから、なにか名物料理は食べたかね?」
ガロンさんが片手にグラスを持ったまま聞いてきた。
「さっき、『釜守』で鍋を食べてきたの。それに、昨日の夜はカルガを食べたわ、それも、岩塩、香草、スパイスの3種類も。 あ、ロティスとゲートサンドも食べたわね。どれも美味しかったわ。」
「おぉ、そりゃ、すっかりゲートのグルメを堪能しているようじゃの。気に入ってもらえとるようで、よかったよ。実はワシも『釜守』の鍋は大好物でな。 ただ、今は昔ほど具材が豊富じゃないのが残念なんじゃがの。」
「あら、さっきも色んな具材が入ってたと思ったけど、昔はもっと入ってたの?」
「あぁ、もう食べきれないくらいたっぷり具材があったんじゃがな。 ほれ、最近は物がなかなか入ってこないからの。」
「やっぱり荷物が減ってるのかしら?」
ママが軽く首を傾げた。
「あぁ、荷物の量は去年より確実に3割は減っとるで。」
「まぁ、そんなに減ってたの。だからなのかしら、最近特に食材の値段もじわじわあがってるのよね。 うちもそろそろ値上げしないといけないかしら。」
「おいおい、そりゃ困るぞ。 荷物の量が減って収入も減ってるってのに、ママの所も値上げだなんて、ダブルパンチすぎて、ワシら行くところなくなっちまう。」
「それじゃ、頑張って、荷物の量を増やしてくださいな、組合長さん。」
「そうじゃの・・ また大侯爵様に警戒強化のお願いに行ってみるかの。」
「あの? ガロンさんは組合長さん?」
ネコ娘がママの方を見た。
「うん。ガロンさんはね、城門交易組合の組合長さんなのよ。」
「あら、そうなんだ。 そういえば、城門交易組合ってどこかで聞いたような・・。 あ、昨日、ゲートホテルの2階で看板を見たんだわ。」
「確かに、昨日はホテルで定例会議があったが、なんでそんなこと知っとるんだ?」
「アタシたち、ゲートホテル泊まってるのよ。」
「あぁ、なんだ、そういうことか。」
「ところでガロン組合長、さっき、大侯爵様にお願いにって言ってたけど、なんで警備強化を大侯爵様にお願いするんだ?」
「レジェンド探偵さん、だったかな、その『組合長』はやめてくれないか、ガロンで良いんじゃよ。組合長なんて言われてると、酒が不味くなっちまうさ。 で、なんで大侯爵様かって? そりゃ、街の外の警戒部隊は大侯爵様が担当だからじゃよ。」
「なるほど、街の外の警戒は大侯爵様が担当・・ あれ、それ、前に何処かで聞いたことがあるような気がするぞ。 あぁ、そうだ、大侯爵家が作ってるっていうバーボンを飲んだ時だ。そうか、そんなこと言ってたな。 で、警戒部隊は金がかかるとかなんとかって話だったな。」
「さすが、レジェンド探偵さんじゃ。もう既に色んな情報を知っておるの。 そうなんじゃよ、ワシも何度も大侯爵様に警戒強化を頼んでるのじゃが、もう大侯爵様でも手いっぱいだとかで、なかなか対応してもらえんのだ。」
「あら? そういえば、この前、初めて来たお客さんも、大侯爵家が軍事費用がかさみすぎて、財政が苦しくなってるって言ってたわね。」
ママがレモンサワーのグラスをくるくる回しながら言った。
「ほう、そんな話もあるのかの。 こりゃぁ、街の外の盗賊の問題だじゃ済まないかもしれんの。」
「あ、その盗賊、夜に出没するんで更に対応が大変だ、とも言ってたわね。」
「夜に活動する盗賊? それは厄介じゃの。」
「そうなの? 盗賊とか盗人とかは夜が仕事の時間じゃないの?」
ネコ娘が不思議そうな顔をした。
「そりゃ、街中の泥棒さんらはそうじゃよ。でもな、街の外の夜は、モンスターが大活躍する時間帯じゃぞ。」
「あっ、そうか。 そういえば、シャドーディーラーと一緒に森を抜けた時も、夜はみんなで焚火の周りに寝てたわ。」
「ほう、ニーニャちゃんはシャドーディーラーとも旅をしたのかい。 そうなんだよ、あの旅慣れてるシャドーディーラー達でさえ、夜は行動しないじゃろ。」
「もしかして、それって盗賊じゃなくて、モンスターに襲われてるだけってことはないのか?」
「食料品を扱う商人だけが襲われて荷物が奪われてるなら、モンスター説も否定せんが、少なくとも宝石や金貨は奪われんじゃろな。」
「確かに。 それじゃ、人だけど、夜目が効く、そう、ネコ族の末裔とか?」
「はぁ? いくらアタシでも、そんなに夜目は効かないわよ。 大体、ネコ族の末裔がそんなことするわけないでしょ。」
「まぁ、ネコ族の話は冗談だ。 ただ、盗賊がモンスターじゃなくて人だとしたら、夜にも行動できるってのは不思議なことだな。」
「ただ、今ワシらに出来ることと言えば・・・ ママの店が値上げする前に、沢山飲んどくことくらいかもしれん。 ママ、お代わり。」
「それじゃ、オレも、バーボン・ロック、もう一杯もらおう。」
「アタシも、もう一杯下さい。」
「それじゃ、オレも。」
「こっちもだ。」
「あらあら、今日は盗賊のおかげてお店が賑やかで嬉しいわ。 ふふふ。」




