第106話 謎解き
「いつまでたっても貴方は素直にならないのね。 まぁ、いいわ。次、食べてみましょ。香草とスパイス、どっちが良い?」
「そうだな、じゃ、香草にしようか。スパイスはパンチがありそうだから、最後に取っておこう。」
「香草ね。じゃぁ、またアタシが切るわよ。」
ネコ娘がササっとカルガを一口サイズに切り分けた。
パクっ。
「おー、想像通り香りが凄いわ。 なんか肉なのに軽く感じる。」
「肉なのに軽い? 面白いこと言うな、じゃ、オレも。」
パクっとな。
「香草の香りが抜けて、鼻で食べてるみたいになるな。味は、さっきの岩塩と同じなんじゃないか? これ。」
「そうかもね。でも、香りでこんなに料理って変わるんだね。」
「あぁ、これも悪くないな。」
「出た、『悪くない』・・。」
「スパイスのヤツも切ってくれるか?」
「はいはい、ちょっと待ってね。」
手際よくカルガが一口サイズに切り分けられる。
「どんか感じかな。」
パクっ。
「うっわ、辛っ・・。」
ネコ娘がすぐにビールを飲んだ。
「そんなに辛いのか?」
パクっとな。
「お、すごいなこれ。 舌がしびれるぞ・・。 うん、でもビールにピッタリじゃないか。 全然悪くない。」
「貴方のその『悪くない』の使い方、どうにかならないの?」
「あのな、評価っていうのは加点方式じゃないんだぞ。」
「じゃ、減点方式だって言うの?」
「そうだ。だから欠点が見つからなければ『悪くない』になる。」
「それって、実質は満点ってことじゃないの?」
「いや、それは違うぞ。満点じゃなくて、減点する理由が見つからないだけだ。」
「だから、その状態のことを満点って言うんでしょ。本当に屁理屈ばかりよね。」
「屁理屈ってのは理屈の親戚でもあるからな。」
「はいはい、分かりましたよ、レジェンド様。」
スパイスカルガで更にビールを2杯飲んで、店を出た。
「それじゃオレは予定通り『終点』に行ってくるぞ。」
「素敵なママさんによろしくね。」
「だから、そういうのじゃなくて、結果報告だ。仕事だぞ。」
「へぇ、レジェンド様の仕事って、さんざんビール飲んだ後からでも出来るんだね。知らなかったなぁ。」
「・・・ゴホン。とにかく、行ってくる。」
「はいはい、気を付けてね。」
まだ時間も遅くないし、歩いて・・とも思ったけど、せっかく馬車が走ってるんだから、便利なものは使わないとな。
ってことで、馬車で市場まで来て、少しだけ歩いて『終点』のドアを開けた。
「あら、いらっしゃい。 お一人ですか?」
「あぁ。今日はオレだけだ。」
カウンターには先客が2人。 空いていたママの前の席に座る。
「バーボン、ロックで。」
ママがロックグラスをカウンターへ置いて、バーボンを注ぐ。
トトトト・・。
「ママも一杯どうかな? 乾杯くらいはしたいからさ。」
「あら、ありがとう。 それじゃ、私はビールを頂くわ。」
ママがビールの小瓶を取り出して、自分のグラスに注いだ。
「かんぱい。」
「乾杯。」
バーボンロックを一口飲んで、グラスをカウンターに置く。
「ママ、例の件なんだけど、わかったよ。」
「え? コインの件? もう何かわかったの?」
「あぁ、こう言う人を心配にさせる事は、さっさと片づけるのがオレの主義なんだ。 まず、結論から言うが、心配しなくて大丈夫だよ。」
「そうなの? それじゃなんでコインが置いてあったの?」
「あぁ、少し長くなるけど、最初から説明しようか。 この店は前のオーナーが引退して居ぬきになってて、それを先月から始めたんだったよな?」
「そうよ、先月の12日にオープンしたのよ。」
「その、前のオーナーってのは何かの病気で入院していたらしい。」
「あらあら。」
「そこで、もう一人の登場人物だ。 オーナーには親友が居た。」
「それで?」
「その友人っていうのが、オーナーの病気回復を願って、願掛け代わりに、毎日コインを供えてるっていうのが事件の真相さ。」
「病気回復の願掛け? だから、毎日コインが置かれていたの?」
「あぁ、毎日早朝にその親友が置いてたのさ。」
「そうだったの。 それで、その前のオーナーはどうなったのかしら?」
「その親友も行方を知らないそうだ。 ただ、居ぬきで貸し出されたところを見ると・・・。」
「そうね。 ちょっと悲しいお話ね。」
「そうだな。ただ、コインは、今のこの店に向けられたものでも、ママに向けられたものでも無いってことだ。 まったく無関係。 だから心配ない。」
「そうよね。安心したわ。 なにかのサインかと思ってすごく心配してたのよ。 ホッとしたら、なんだか飲みたくなっちゃったわ。」
ママが残っていたビールを一気に飲み干した。
「それじゃ、もう一杯どうだ?」
「あら、ありがとう。 それじゃ、今度は、レジェンド探偵さんに合わせて、私もバーボン・ロックを頂こうかしら。」
ママがもうひとつロックグラスを出して、バーボンを注いだ。
「コインの謎解きと、レジェンド探偵さんに乾杯。」
「あぁ、なに、こんなのものはお安い御用だ。」
カチン
ロックグラスが、軽くぶつかった。




