第105話 カルガ
「あそこだわ。」
ネコ娘が指さす先には、店頭に大きな提灯がある、ちょっとレトロな感じの店があった。
「ほぉ、見た目は良い感じだな。でも、あれを匂いで見つけたのか?」
「そうよ? 鶏肉が焼けるすごく良い匂いがしてるじゃない? 感じない?」
「いや、全然わからなけどな。」
店の前まで来た。
「あ、横の煙突から煙が出てるな。うん、確かに鶏肉が焼ける匂いだ。」
「それ、大通りまで匂ってたわよ?」
「いや、今感じた。オレはキミみたいに鼻ヒクヒクできないからな。」
「なに、その鼻ヒクヒクって。なんか可愛くない感じよね。」
「いや、オレが言いたいのは、可愛いとか可愛くないとかじゃなく、その能力が凄いなって意味だぞ?」
「なんか、ちょっと腑に落ちないけど、まぁいいわ。ここにする?」
「あぁ、試してみよう。」
ガラガラガラ・・。
扉を開いて店内に入る。
「らっしゃっせー。奥の方空いてますよー。」
焼き場に居るのが大将だろうか、元気が良い。
壁際の2人掛けの席に座った。
「いらっしゃい。お飲み物はなにしましょ?」
黒いエプロンをした店員がすぐにやってきた。
「オレはビールだな。キミは?」
「アタシもビールにするわ。」
「はい。ビール2つーっ」
店員が厨房の方へ向かって大きな声で注文を通した。
「カルガは焼きますか?」
「・・かるが?」
「あ、もしかして、お客さん、初めてかい?」
「うん、アタシたち、この街も初めてだよ。」
「そうかい、ごめんね。 カルガってのは、鶏ももを丸ごと焼いた、ここの名物料理なんだよ。 みんなが頼むんだけど、焼くのに時間が掛かるんで、最初に聞いちゃってるんだよね。」
「名物料理か。いいな、それを頼む。」
「カルガは、岩塩、香草、スパイスって3種類の味付けがあるんだけど、どれにする?」
「うーん、どれも美味しそうだね。どうする?」
「3種類だろ? 悩むくらいなら全部頼めば良い。 3つとも頼むよ。」
「はいよ、カルガ、岩塩、香草、スパイスね。 あと、カルガはちょっと時間掛かるんで、すぐできるつまみも頼んどいたほうが良いよ。」
「そうだな。おすすめはなんだ?」
「人気があるのは、鶏レバーパテと鶏皮の煮凝りとかかな。」
「おぉ、いいな、鶏レバーパテと鶏皮の煮凝りも頼むよ。」
「はい、鶏レバーパテと鶏皮の煮凝りね。」
店員が厨房へ向かっていった。
「はい、ビール2つ、おまちどうさん。」
別の店員がビールを2つと、カラカラの実のローストが乗った小皿を持ってきた。
「こっちの街でも、突き出しの定番はカラカラの実のローストなんだね。」
「まぁ、違う街とは言っても、同じヴァルトベルクだからな。」
「それじゃ、まずは宿を移った記念に、乾杯しましょ。 はい、乾杯!」
「あぁ、乾杯。」
ビールを流し込んだ後、すっかり慣れた手つきで、カラカラの実のローストから実を取り出して、口に放り込む。
そしてまたビールをグビっと。
「鶏レバーパテと鶏皮の煮凝り、おまちどうさん。」
テーブルに木皿が2枚置かれた。
「あ、アタシ、ビールお代わりお願いします。」
「よし、オレもビールもらおうか。」
「はい、ビール2つですね。」
店員が厨房の方へ行った。
「この、茶色いこんもりと何かが持ってあるのがレバーパテだよな? で、このクラッカーに塗って喰えってことだよな?」
「たぶんね。こっちの琥珀色のゼリーみたいなのが煮凝りなのは間違いなさそうだから。 アタシは、こっちの煮凝りから食べてみるわ。」
「そうか。じゃ、オレはレバーパテだな。 結構量があるから、かなり塗っちゃっても大丈夫な感じだな。」
「あれ? これ、意外とさっぱりしてるよ? 鶏皮だから、もっと脂っこいかと思ってたけど、薬味のユズが爽やかだ。」
「こっちは、めっちゃ濃厚だぞ。 うん? 更に後から胡椒とハーブの香りが来るんだな。 レバーだけど、まろかかで変な臭みもないな。」
「へぇ、おもしろそう。交換しようよ。」
ネコ娘が、さっと、2枚の皿を入れ替えた。
「うわ、濃厚でクリーミーだね。煮凝りと正反対で、この2つ、セットで食べると面白いね。」
「うん、これはさっぱりしてるな。あと、食感も面白い。」
「はい、おまたせしました、岩塩カルガ、香草カルガ、スパイスカルガです。」
大きな木皿が3枚置かれた。
「ボリュームあるねー、これ。」
「デカいな。3個頼んだのは多すぎたか?」
「大丈夫、アタシ、頑張って食べるよ。」
「まぁ、別に無理して喰うことはないからな?」
「アタシ、この岩塩カルガから食べてみるね。」
「まぁ、シンプルなのを先に食べとかないとな。オレもそれから食べたいよ。」
「じゃ、アタシが切り分けるね。」
ネコ娘が岩塩カルガを手際よく切り分ける。
「鶏肉もかなりジューシーだよ。ちょっと期待しちゃうな。」
パクっ。
「うん、柔らかくてジューシーだ。炭火の香ばしい香りもついてて、塩だけなのに、味が深いよ、これは美味しいわ。」
「それじゃ、オレも。」
パクっと。
「そうだな、悪くない。」
「だからさ、美味しい時にはちゃんと美味しいって言っていいんだよ?」
「悪くないってのは美味しいと同意だろ。」




