第101話 理由
少し腰の曲がった老人がゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
『終点』の前で立ち止まった。
おっと、いきなりビンゴか?
老人はポケットに手を入れて何かを取り出して、それを『終点』の入り口前に置いた。
ビンゴ!
何かを置いた後、老人は、またしても、ゆっくりと道の向こうへ歩き始めた。
老人がこちらに気づかなくなる距離まで離れたところで、『終点』の入り口へ向かう。
そこにはコインが1枚置いてあった。
やはりそうだ。これで犯人はわかった。次は目的だ。
とりあえず、コインを回収して、老人の後を距離を取って尾行する。
尾行はオレの十八番だ。
5分ほど歩いたとこで、老人は緑の多い公園に入っていった。
公園の入り口で様子を伺う。
老人がブランコの近くのベンチに腰を掛ける。
それじゃ、行ってみるかな。
老人の隣に腰を掛ける。
「今日は天気が良くなりそうですね。」
「えぇ? あぁ、そうですの。」
「朝の散歩は気持ち良いですよね。」
「そうですな、もう少し日が昇ってしまうと、ワシのような年寄りには日差しが強すぎての。今位がちょうど良いんじゃ。 ところで、お宅さんは、この辺の人かね? あまり見かけんお顔じゃが。」
「オレは近くのホテルに泊まってる旅人ですよ。ちょっと朝早く目が覚めちゃったんで、外歩いてみようかって。」
「なるほど。この時間は散歩にちょうどいいからの。 こんな時間じゃが、結構、色んな人がここへ来るんじゃよ。」
「へぇ、この公園に、ですか?」
「あぁ、ほれ、あっちでは太極拳の練習をしておるじゃろ? あれは、八百屋のご隠居さんじゃよ。 それと、ジョギングしとる若者、あれは近所の大学生じゃ。 で、あの人も良く見かけるな、何をしてる人かは知らんけどの。」
老人が指さす先には、ゆっくりと上体を動かす老人と、公園の外周をジョギングしてる若者、それと、水飲み場で顔を洗っている男性が居た。
「ほんとですね。この街は、朝が早いんですね。」
「いやいや、ワシや、ご隠居は年寄りだから早く起きとるだけじゃよ カカカカ」
「あ、そういえば、オレ、さっき向こうの道を歩いてたら、道路にコインが落ちてるのを見つけたんですよ。 こういうのって何処へ届けたらいいんですかね、ほら、コレなんですけど。」
老人にさっきのコインを見せる。
「あ・・これは・・。落とし物・・。うーん、そうじゃの、そうとしか見えんよな。 これを拾ったのは、『終点』ってスナックの前じゃろ?」
「えぇ、そうです。よくわかりましたね?」
「実はの、これは、落とし物じゃなくて、ワシが置いたものなのじゃ。」
「え? 貴方が置いた? なぜ道にコインを?」
「道に置いたわけじゃなく、『終点』に置いているつもりなんじゃが、まぁ、前の道の上に置けば、道に置いたも同じじゃな。」
「なんでそんなことしたんですか?」
「あの『終点』のマスターはワシの親友なんじゃよ。 アイツが入院してから、ずっと願掛けのように、毎日コインを置いておったんじゃ。」
「毎日? 願掛け? で、そのマスターはどうなったんですか?」
「それが分からんのじゃよ。 病院を移ったことまでは聞いたんじゃが、その後の行方が分からんのじゃ。 アイツは家族もおらんでの。」
「そうだったんですか。 でも、きっと、その気持ちはお友達に届いてると思いますよ。必ず元気になりますよ。」
「そうじゃの。ありがとう、旅の人よ。」
老人と別れて、公園を出て宿に戻った。
外はすっかり朝日が昇って明るくなっている。
「あら、おかえり。 なにかわかった?」
「あぁ。コインを誰が置いてるのかも、その理由もわかったぞ。」
「え? もう? 凄いじゃないの。」
「当たり前だ。 それができなきゃレジェンド探偵なんて呼ばれ・・」
「で? 誰だったの?」
「・・だから、人が話してる時には上から被せるなって言ってるだろ。」
「いいからいいから。 誰なのよ?」
「ママは『終点』を居抜きで始めたって言ってただろ。 この話は、その前のオーナーの話になるんだ。 前のオーナーは、何かの病気で入院してたらしい。 で、その親友だっていう爺さんが、マスターの病気が治るようにって、毎日願掛け代わりにコインを置いてたってことだ。」
「なるほど、そういうこと。 でも、結局、店が売られたってことは・・・。」
「あぁ。たぶん。残念ながら、その願掛けはもう届かないし、親友と再会することもないんだろうな。悲しい話だ。」
「そうね。でも、新しいママからすれば、これで気持ち悪いこともなくなって、良かったんじゃないかな。 貴方のこと惚れちゃうかもね。 へへへ。」
「何を下種なことを言ってる。オレみたいなレジェンドはな、そんな・・・」
「昼前には宿移らなきゃだから、早く寝たら?」
「・・だから、人が話してる時に上から被せるのはダメだって・・。 まぁ、言っても仕方ないか。 そうだな、ちょっと休ませてもらうぞ。」
「おやすみ。アタシは今から市場にジュース飲みに行って、戻ってきたら荷物の整理をしとくわ。」
「あぁ、頼むよ。」




