第100話 悪い癖?
「そうなの、こちらが、ハードボイルドでダンディな群れない孤高の探偵、レジェンド探偵さまで、好みのタイプは細身で背が高めの妙齢の女性ね。 そしてアタシは、その助手のニーニャ。」
「おい! なんだよ、その好みのタイプってのは。 オレは人を選り好みしたりしないぞ。あくまでもハートで対話する、それがハードボイルドの基本だからな。」
「そう。じゃ、ママみたいなタイプは好みのタイプじゃないのね?」
「・・いや、だから、嫌いじゃないし、どっちかに決めないといけないなら、タイプだって言っても問題ないかもしれなくもない、っていう感じでなくもない。」
「うっわー、めっちゃ遠回しだわー。ママ、聞いた? レジェンドって優柔不断らしいわー。ドン引きしちゃいますよね?」
「フフフ、お二人、面白いですね。」
「いやいや、全然面白くないですよ、コイツが勝手に色んなこと言ってるだけで。」
「お二人のチームワークが良いからこそ、そういうことが言えるんだと思いますよ? とても良いチームじゃないですか。」
「まぁ、ほぼほぼ、アタシのおかげなんですけどね。アハハ。」
「あのな・・。」
「あの、ところで、レジェンド探偵さんってことは、難事件の解決とかお手の物ってことですよね?」
ママが身体を乗り出して聞いてくる。
「えぇ、それはもちろん。というより、ハートに響く位の難事件じゃないと対応しないですかね、オレの場合。」
「実は、ちょっと気になってることがあるの。」
「なんでも相談してくれ。警察からも、他の探偵からも断られたような難解な事件でも、オレにとっては朝飯前だからな。」
「うぅん、そこまで難解な事件ってわけじゃないんだけど、毎日、店の玄関の前にコインが1枚置かれてるの。必ず1枚だけ。ちょっと怖くなるでしょ?」
身を乗り出して聞いてたネコ娘が、明らかに興味をなくした目に変わった。
「・・・コインが置かれる、ね。 ・・うん、そうだな、たぶんこれは高度な罠だ。もしかしたら組織の暗号かもしれない。 相当難解だぞ。 まずはオレが状況をみてみよう。 もう心配しなくて大丈夫だ。」
「はぁ? 今、無理やり話し膨らませたでしょ? で、張り込みはアタシにやれ、とか言うんでしょ?」
「いや、このレベルまでくると、オレが直接対応するほうが良いだろう。」
「ふうん、それなら別に良いけど。 奇麗なママの案件だと丁寧なのね、対応が。」
「何言ってる、レジェンドってのは常に丁寧な仕事の結果だぞ。」
「はいはい。」
「よし、それじゃぁ、早速今夜、店が終わった後から、オレが張り込むよ。」
「あら、レジェンド探偵さんに調べて頂けるなんて光栄だわ。」
「なに、困ってる人を見たら放っておけない、これはオレの悪い癖だな。」
「・・なにが、『悪い癖』だか・・。」
ネコ娘が小さく呟いた。
その後、バーボンロックをオレが2杯、ネコ娘が3杯飲んだ。
「そろそろ帰るか?」
「そうね、もういい時間ね。」
会計を済ませて店を出る。
「オレはこのまま、ここで張り込むよ。」
「あら? 本当に貴方が張り込みするの? ママの案件には相当手厚いのね。」
「だから、ママは関係ないって。オレのアンテナが何かあるって言ってるんだ。」
「あぁ、そうですか、ハイハイ。じゃ、アタシは帰って寝ますよ。明日は宿移らないとといけないんで、チェックアウトまでには戻ってね。それじゃ。」
「あぁ、わかってる。」
『終点』の入り口が見える、少し離れた家の壁に寄り掛かった。
しばらくすると、ドアが開いて、ママが出てきた。
ドアに鍵をかけて、夜道をスーッと歩いて帰っていく。
さて、ここからが本番だ。
この通り、この時間帯には人通りも殆ど無くなる。
壁に寄り掛かったまま、つい、うとうとしてしまう。
何も動きが無い場所での張り込みは、睡魔との戦いだな。
首がカクッとして目が覚めた。 あ、寝ちゃってた・・。
慌てて『終点』の前を見る。 あ、まだコインは置かれてない。
いかんいかん、せっかく張り込んでるのに、寝ちゃってちゃ意味が無いな。
前の世界だったら、ここはコンビニで熱いブラック缶コーヒーでも買ってくるって場面だけど、この世界にはコンビニもブラックコーヒーも無いからな・・。
空はもうすでにちょっと明るんできてる。時間は? あれ? もう5時過ぎだ。
オレ、結構寝ちゃってたんだな。
大きく一度深呼吸のような伸びをして目を覚ます。
羊を数えると眠くなるってやつを、逆にして活用してみようか。
そう、羊の逆と言えば、オオカミだな。よし、オオカミを数え・・ちゃダメだな。
あくまでも逆なんだから、そうか、逆算すれば良いのか。
いくぞ。オオカミがマイナス1匹、オオカミがマイナス2匹、オオカミがマイナス3匹・・って、オオカミのマイナスってなんだよ。 わけわからないな。
一人突っ込みをしているうちに、目が覚めてきた。
うん、やっぱりこれは正しい目覚まし方法だったんだな。と一人で納得した。
ふと、視界の隅に人影が入ってきた。
おっと、誰か来たぞ?




