師匠と冒険と修行と8
「おい…アレ……。」
周りからざわつきがあった。
理由は恐らくアナスタシアだろう。
畏怖や羨望、はたまた嫉妬のようなそんな視線と共に……。
アナスタシアはそんな周りを気にすることなくズンズンと進んでいき、受付の前へと歩く。
「あらあらこれはアナスタシアさんではありませんか。今日はどのようなご用件で参られたのですか?」
受付に居たのは艶かしい女性だった。
ギブソンタックでまとめられた黒髪に、大人っぽく色気のある佇まい。
鮮やかな黒色の着物が良く似合う整った顔立ち。
「それに、うふふ…可愛いお客さんもいらっしゃいますのね。」
そして私の姿を見れば、色っぽく微笑みながら言葉を続ける。
この世界では有り得ないと思っていた和服だったこともあり、私は意表を突かれた形になってそのまま固まってしまう。
「かーっ!今日はえらくけったいな格好しとるの!何じゃその服は!」
アナスタシアにとっても見たことない服…なのだろうか?
「この服はユカタなる神聖な服と聞き及んでおります。何でも英雄の国では敷居の高い場所でおもてなしをするための装備だとか。」
「ほぅ?異世界のことかの?実に興味深い話じゃが、それをどうしてお主が身につけておるのじゃ?」
アナスタシアはチラッと私の方を一瞥してくる。
それで何が分かったのか私には理解出来ないが、軽く笑っては受付嬢に向き直る。
「ここにたまたま来てくださった英雄のお一人であり、異例の速さでSランク冒険者になったユウジ様からの贈り物です。こう見えて結構涼しいんですのよ?」
「なるほどのぅ……あの7人目のSランクか!大体納得したわい。」
「そんなことよりアナスタシアさん。ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」
「おぉそうじゃった!此奴の冒険者登録と身分証の発行を頼む。わしが直々に教えとる弟子での。上手いこと計らってはくれんかのぅ?」
「そうですね。本来であれば試験等諸々手続きが必要な案件ですが、アナスタシアさんがそこまで仰るのであればすぐにでもご対応しましょうか。」
「流石モーヤじゃな!では一旦此奴を預けるぞ。」
私はバン!と背中を押されて一歩前へと弾き出された。
「わわっ!」
流れに身を任せることしか出来ない私はよろけながらも受付嬢の前に立つ。
「それではこちらに…アナスタシアさんは少々お待ちください。」
「うむ、任せたぞ。」
私は誘導されるがままに受付嬢の後をついていく。
なんとも言えない居心地の悪さを感じながらも、ここまでスムーズに事を進めることの出来るアナスタシアはやっぱ凄い人なんだと改めて思い知っていた。




