クレアリーナ王国
「あの、すみません、でした……。」
しばらく泣き続けていたが、ふと我に返るとそういえばまだ名前も知らない赤の他人じゃないかと思って、そんな相手にわんわん泣いてしまった事実に少しの恥ずかしさを覚えていた。
「気にするな。嬢ちゃん名前を聞いても良いかの?」
「あ、はい。霧峰斬子です。」
「んん?嬢ちゃん異世界人かの?」
「え?あ、そうです。」
日本人の名前はこの世界の人たちにとってはやはり異様なのだろう。
「なるほどのぅ……ということは嬢ちゃんが居た場所的に召喚者はメイビスのヤツかのぅ……。懲りずにようやるわい。」
「え、えと、メイビスさんをご存知なんですか?」
「一応王女じゃ。わしでなくとも知っとるじゃろうな。それと言葉は崩せ、丁寧な言葉を使われるとむず痒くてたまらん。」
「う、うん……。」
というか私が聞きたかったのはそうじゃないんだけどな。
言い方が王女様に対するそれじゃなかったから気になったんだけど。
「まあそうじゃな。ヤツは何というか狂人……と言った方が良いじゃろうな、うん。」
「狂人?」
あ、良かったちゃんと話してくれるんだ。
「うむ。ここ10年くらいかのぅ……割と最近の話なのじゃが、魔の付くものが世界に蔓延り始めたんじゃ。」
「それ、メイビスさんも言ってたけど、結局なんなの?」
「会えば分かるのじゃが、いやーな感じを漂わせたヤツじゃな。原因はわかっとらんのじゃが、動物やモンスター……果ては人にまで"魔"がつき始めたのじゃ。」
「その、魔というのはなんなの?」
「わしらがそう呼んでおるだけで、いやーな感じのヤツじゃな。」
抽象的過ぎてわかりにくいな。
「えと、そのいやーな感じ?それ自体のことを魔と呼んでいるってこと?」
「まあそんな感じじゃな。厄介なのは、魔の付くものは身体能力が桁違いに強く、天職によるスキルも大幅に向上されとる上自我が何か別のものに乗っ取られとるようになるのじゃ。」
「乗っ取られる?どういうこと?」
「間違いなくそやつの意思で言うとるはずなのじゃが、負の感情の方にほぼ強制的に引っ張られておるような感じじゃな。」
「誰かが憎い、とか?」
「そうじゃな、そういった類いのものじゃ。生物は皆少なからずそういった負の感情を持ち合わせておる。それは仕方のないことじゃ。むしろそれが無いとおかしいとわしは思う。」
それは私もそう思う。
負の感情がない人というのはつまり、悪人にさえ憤りを感じる事がないような人だ。




