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BLOOD  作者: 御火影
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序章

 初樹高校に通う室谷勇治は、大した特技もない至って普通の男子高校生だ。この春高校に入ったばかりの初々しい後輩を横目に彼は校門をくぐる。友達がいないわけではないが、それほど交友関係が広い訳ではなく、一人で過ごすことも多かった。

「おはよう」

既に過ぎ去った校門から、朝の挨拶運動をしている生徒会長の声が響く。よくこんな朝から頑張れるものだ、と内心に思いつつ教室を目指す。

 世界は音で溢れている。音に敏感な彼ではないが、ふとした瞬間に気付くことがある。運動場からは体育会の部活の掛け声、廊下には女子の話し声、校外は近くを走る車のエンジンの音。自分が口を閉じればいろんな音が耳に入ってくる。不快な音、心地いい音、つい注意を向けてしまう音。音に対して身体は休まない。

 三階にある教室に向かう途中、すれ違う知人に出会いあいさつを交わす。それ以上の話はしない。一年と一か月ほどこの高校で過ごしているが、どこか他人との間に壁を作って話してしまう。

 高校に入ったとき、彼は他人との間に壁を作って話すことはなかった。むしろ他の人と話すことを楽しみとしており、色々な集団に顔を出していた。世界の誰よりも人生を謳歌している、そう確信していた。勉強は辛いが、誰かとやれば楽しく終わらせられる。なにより周りより少し賢い彼は他の人に教える立場にあり、ちょっとした優越感も感じていた。

 そんな生活も一年の夏に終わった、高校生活が始まって半年も経たずして。世間一般からすればありふれたことで、それがたまたま彼の身にも降りかかっただけなのだ。だが、彼にはそれが重すぎた。

 人と人が何らかの関係を持てば、そこに摩擦は生じる。付き合いの深さが摩擦を大きくする。その摩擦はやがて人の心をすり減らし、何もしなければいつか人は壊れる。命を絶てば、その人はある意味救われる。死への勇気を出せなければ生きていくしかない。心が壊れようと時間は流れ、日常生活を送らざるを得ない。人は皆どこか無理をして生きている。

 「恋人」という関係は、労力を費やさねばならない。減る心も多いが、増える心も多い。下手なことを言って嫌われたらどうしよう、これをしたら引かれるかもしれない。相手との関係を良好に保つため、無意識下で配慮していることが多い。無意識の配慮は知らず知らずのうちに心を蝕む。

 勇治は失った、今までのキラキラした生活を。中学三年の秋に付き合った彼女からの突然の別れ話。彼女とは別の高校。彼の心を壊すには十分な事件だった。

 以来、彼はキラキラの中心から身を引くようになった。孤立はしたくない、けど、真ん中にはいたくない。彼の心の中はぐちゃぐちゃだった。

 周りももちろん彼の変化に気づく。彼の空元気は火を見るよりも明らかであった。暗く沈んだ顔をほとんど見せることのなかった彼が、ボーッとすることが増えたり、ため息を吐いたり、以前の彼からは考えられない行動が増えた。笑顔も減った。所属していたバスケ部も辞めた。元から強かったオタク気質も磨きがかかった。彼の世界は変わった。


 朝礼が始まる。担任の話を聞き流しつつ、一番後ろの席で勉強をする。彼女に振られてから、勇治は以前に増して勉強するようになった。

 気を紛らわせることができるなら何でもよかった。自分には勉強がある、だから、あんなキラキラはなくても自分の人生は十分キラキラしている。勝手に思い込んでいた、否、思い込ませていた。

 もともと無い知識の上に立つ新たな知識はもろい。だから戻った。どんなに簡単な問題までにも戻った。東大でも京大でもどこでもよかった。世間的に賢いと言われるところに進学できたら、それでよかった。

 心の奥にあるキラキラへの渇望は押し殺した。すべてを力で解決できるだけの財力・権力を手に入れることができれば、世界は必然的にキラキラし始める。そう言い聞かせて、自らを騙した。騙すことで、気を紛らわした。

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