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 フィザーンの正史にはこう記されている。


『クルタ暦一六〇三年。

 レイカリオ王朝第十七代国王ライコ・ヘイニ・レイカリオ八世が、王朝開闢(かいびゃく)三百年の祝賀中、崩御。胃の腑にできた腫瘍が破れたための大量吐血による。ライコ八世の死と同時、国付き筆頭予見者イルマイラ・アハティネンと、国王付き魔術師バルファイ・カリオニエミがその能力を失う。双方とも、国王の血に触れたことが原因とされるが詳細は不明。

 王太弟ミカ・マティアス・レイカリオ一世が王位を継ぐものの、先王の圧政の影響は大きく、晩年までその対応に苦慮することとなる。

 ミカの後、その三男ユータス・ピア・レンス=レイカリオが王位に就くが四年後、狩猟中の事故により三十六歳で崩御。ユータスの子は王女ひとりであった。隣国ルドルクの王オスカー三世はライコ八世、ミカ一世の妹を母としており、フィザーンの王位継承権を主張し、軍をもって国境を越える。

 それを阻止し、不可侵条約を結ばせたのが、ヨエル・ヴァリス将軍である。

 辺縁の姫君、リュシアン公爵カナデ・キヨミズ=ヴァリスを母とし、魔術師ハイカイネン伯爵レミン・ヴァリスを父に持つ彼は、二十七歳にしてその功績を打ち立てる。

 ヨエルは先王ユータスのひとり娘エルマ王女を妻にし、議会の承認を受けてキヨミズ=ヴァリス王朝フィザーンを建てた。

 このキヨミズ=ヴァリス王朝こそが、フィザーンでもっとも輝き繁栄した王朝であることから、リュシアン公爵カナデ・キヨミズ=ヴァリスのもたらした国益は、当該王朝の開闢(かいびゃく)であったとされている。』


 リュシアン公爵カナデ・キヨミズ=ヴァリスのもたらした国益が、息子による王朝の開闢(かいびゃく)だとするのは、いささか説として弱いのではという意見はあったが、長らくその正史に記されている内容を覆せるほどの異論を唱える者はいなかった。

 が、ある大学生が卒業時に衝撃的な論文を発表し、フィザーンを震撼させた。


『リュシアン公爵カナデ・キヨミズ=ヴァリスの功績はキヨミズ=ヴァリス王朝の開闢(かいびゃく)とされているが、世代が違うため公爵の功績とは言い(がた)い。また、公爵によるその他具体的な功績は格別見当たらない。

 長く続いたレイカリオ王朝の疲弊は、フィザーンが公爵を授かった当時の王、ライコ八世の享楽的な統治によって決定的となっていた。回復できないまでに国は堕落し、高い税によって国民には不満が鬱積、形骸化した軍事力に周辺国から侵略の機会を窺われている状態であった。ライコ八世の急逝がなければ、遅かれ早かれルドルクやディザーブなどから侵攻を受け、全土を侵略されていたとみられる。

 更に、ライコ八世の死に際し、それまでの暴政を(かんが)みると当然起こるであろう周辺国からの侵略や貴族階級の反逆、国民の暴動、動乱、騒擾(そうじょう)等は不思議と起こらなかった。このようなことは異常とも言え、フィザーンのみならず他国においても歴史上みられない。

 よって、公爵の功績について私は以下のように考察する。

 隣国からの侵攻の危機、国民の反乱の危機にある中、堕落王ライコ八世を混乱もなしに身罷(みまか)らせ、周辺国に侵略の機会を与えなかったことである、と。』


 彼女の真実に迫っているのは、正史ではなく実は後者の大学生の説なのかもしれない。

 国主の死という不吉な出来事も、歴史的に見れば、国益である。





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