運だけでレアモンスターを倒しまくったら、爆速でAランク冒険者になりました
シルトの村で念願の温泉を満喫し、さらに『簡易温水シャワー装置』の発明とロイヤリティ契約まで結んだ僕たちは、新しくシャワーを備え付けた快適な馬車に揺られながら、王都へ続く街道を進んでいた。
御者台で馬のたづなを握りながら、隣に座るアイリスがふと思い立ったように真剣な表情を向けた。
「ルーク様。以前お話しした通り、王都で魔王討伐や魔王軍関連の大規模なクエストを受注するには『Aランク以上』の資格が必要です。そろそろ本格的に、Aランクを目指すためのレベル上げを行いませんか?」
アイリスの言葉に僕は大きく頷いた。
ギルドの規定では、冒険者カードに記載されるレベルが『301以上』に達した時点で、自動的にAランク冒険者として認定される仕組みになっている。現在の僕たちのレベルは101。あと200以上もレベルを上げなければならない計算だった。
「200レベルか……普通にモンスターを倒していたら、何ヶ月かかるか分からないですね」
僕が少し弱気になっていると、日の入り前に到着したミルバの村の食堂で、思いがけない貴重な情報を耳にすることになった。
夕食のスープを口に運んでいた時、近くのテーブルにいた男性たちが興奮気味に話していたのだ。
「聞いたか? この村の南にある広大な草原に、滅多にお目にかかれない超絶レアモンスター『シルバーリキッド』が出没しているらしいぞ!」
「ああ、あんな小さな、銀色に輝く流体ボディの奇妙な魔物だろう? 最弱モンスターみたいな見た目のくせに、身体が頑丈な鉄で覆われていて、魔法が一切効かないっていう……」
「それだけじゃないぜ。逃げ足が尋常じゃなく速い上、攻撃も身体のどこかにある『急所』に正確にヒットしないと1ダメージも与えられないんだ。しかも流体の身体だから急所の場所が見た目じゃ一切判別できない。倒すのは不可能に近いが、万が一倒せたら一気にレベルが跳ね上がるらしいな」
(身体が鉄で、魔法が無効で、すぐ逃げて、倒すと破格の経験値……これって完全に、転移前の世界で遊んだRPGに出てくるメタル系モンスターじゃないか!)
まさかこの世界にもそんな夢のようなモンスターが存在するとは。
「ルーク様、あの噂のシルバーリキッド……!」
「うん、明日早速その草原へ行ってみよう!」
僕たちは期待に胸を膨らませながら、早めに床に就くのだった。
◇
翌朝、僕とアイリスは村の南に広がる見渡す限りの大草原へとやってきた。
普通なら何日捜索しても出会えないと言われる超絶レアモンスターだったが、ここでも僕の【運∞】の力が遺憾なく発揮された。
草原に足を踏み入れてわずか5分。足元の草むらが揺れたかと思うと、太陽の光を浴びて銀色に輝く流体体のシルバーリキッドが、向こうから吸い寄せられるように僕の足元へ跳び跳ねて現れたのだ。
「で、出ました! こんなすぐ遭遇できるなんて……!」
アイリスが驚きの声をあげる。
目の前で揺れているシルバーリキッドに対し、僕は腰の剣を抜き、ためしに軽く一振りの物理攻撃を繰り出してみた。
流体で絶えず形を変える身体のどこに急所があるのか、僕自身にはまったく分からなかった。しかし、僕の振り下ろした刃は【運∞】の誘導によって奇跡的な角度と軌道を描き、モンスターの核となる唯一の急所を的確に一撃で貫いたのだった。
硬質な音を立てて、シルバーリキッドは一瞬で消滅ドロップした。
「さすがルーク様! 一撃で急所を射抜くなんて、神業のような精度です!」
アイリスが目を輝かせて拍手を送ってくれた。
早速冒険者カードを取り出して確認してみると、たった1匹倒しただけでレベルが10以上も跳ね上がっていた。
「すごい経験値です……! これなら簡単にレベル301まで到達できそうですね!」
しかし、ここでひとつ問題が浮上した。
僕の場合は【運∞】の恩恵で適当に攻撃しても急所に命中するが、アイリスにとっては見た目で判断できない急所を正確に突くのは至難の業だった。
だが、ここでさらなる幸運な事実が判明する。
本来であれば遭遇した一瞬後に凄まじい速度で逃げ出してしまうはずのシルバーリキッドが、なぜか僕たちの前では一切逃げ出そうとせず、その場にとどまり続けてくれたのだ。僕の幸運数値が、モンスターの「逃走本能」すら狂わせてしまっているようだった。
「アイリス、このモンスターは逃げないみたいだから、落ち着いて何度も攻撃を打ち込んでみてください。僕は極力サポートに回りますから!」
「はい、頑張ります!」
僕は魔法でアイリスの回復に徹し、アイリスが何度も剣を振るって急所を引き当てるまで安全にサポートした。
僕たちは日日が暮れるまで草原でシルバーリキッド狩りを続けた。
さらに、このシルバーリキッドはリング状アイテムをドロップしていた。
モンスターが消滅した跡に、七色に輝く美しい指輪が残されていたのだ。
「このリングなんでしょうね?村に戻ったら道具屋で鑑定してもらいましょう」
結果として、たった1日の狩りで、僕とアイリスの両名ともAランクの条件である『レベル301オーバー』をあっさりと達成してしまったのだった。
◇
夕方、村に戻った僕たちは、入手した大量の『リング』を換金するために村の道具屋を訪れた。
卓の上に光り輝くリングを並べると、道具屋の店主は目を限界まで見開いて完全にフリーズした。
「な、なんだこれは……!? シルバーリキッドがまれにドロップする超絶レアアイテム『神速のリング』が、どうしてこんなに大量にあるんだ……!?」
「あ、草原でたくさん手に入ったので、売りたくて……」
驚愕のあまり震える手で鑑定を行った店主から、総額で『金貨10枚』という信じられないほどの高値が手渡された。
村を出る頃には、僕の所持金は増える一方となっていた。
この異世界に転移してきた当初は、一文無しの着の身着のままで途方に暮れていたというのに、今や手元には金貨120枚を超える莫大な資産が存在していた。
その夜、宿屋で金貨の入った重い袋を見つめながら、僕はアイリスに不安を漏らした。
「旅人として、これほどの大金を常に持ち歩くのは流石に怖いです……。盗賊や悪党に狙われたらどうしようと考えると、夜も眠れません」
すると、アイリスは安心させるように優しく微笑んだ。
「それでしたらご安心ください、ルーク様。冒険者ギルドには、冒険者のお金を安全に預かってくれる口座システムが存在します。しかも預けたお金は、世界中どこの街のギルド支部からでも自由に引き出すことが可能なのですよ」
(へえ! まるで銀行みたい!)
「さらに、ギルドは預かった資金を他の商人や冒険者に貸し出して利息を得るビジネスも行っていますので、預けているだけで定期的に利息が口座へ振り込まれるのです」
「不労所得までつくんですか!?」
(と言っても利息なんてわずかだよね)
このまま大金を持ち歩くのに抵抗がある僕は、大きな街に着いたら即座に預金することを決意したのだった。
大金を持つ冒険者なんていないこの世界、利息だけで冒険できてしまう大金を持っているとは今のルークには知る余地もなかった。
◇
数日後、僕たちはさらに王都へと近づいた大都市『グランデの街』に到着した。
街に入るなり、僕はまっすぐ冒険者ギルド本部へと向かい、手持ちの金貨をほとんどすべて口座へと預け入れた。
さらに、受付窓口で冒険者カードのレベル更新手続きを行った。
カードを魔水晶にかざした受付の女性は、表示された『レベル315』という数値を目にした一瞬、息を止めて激しく狼狽した。
「れ、レベル315……!? アルディスの街でBランクになられたばかりだと記録されていますのに、わずか数日でAランクの基準を突破されるなんて……!!」
ギルド内が悲鳴のような声で騒然となり、大勢のベテラン冒険者たちが一斉にこちらを振り返った。
またしても前代未聞の爆速昇格を果たしてしまった僕たちは、無事に『Aランク冒険者』としての登録を完了させたのだった。
するとそこへ、ギルドの奥から重厚な服を着たギルド長が慌ただしい様子で姿を現した。
「ちょうど良かった、この地域では異例となるAランク冒険者である君たちに、ぜひ受けてほしい特殊な指名依頼が入っているのだ!」
断れない性格の僕は、苦笑いを浮かべながら話を聞くことにした。
「依頼主はこのグランデの街を納める領主様だ。領主様の娘様が、このたび王都の高等魔法学校に入学することになりなしてな。王都までの道のりを、警備がてら安全に送り届けてほしいという内容なのだ」
断る理由もなかったため、僕はその護衛クエストを受諾することにした。
翌日、領主の館へ挨拶に向かった僕たちは、依頼主である領主とその娘に対面した。
応接間に現れた領主の娘を目にした一瞬、僕は思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、可憐という言葉が世界で一番似合うような、儚げで愛らしい金髪の美少女だった。
剣士として凛々しく凛とした美しさを持つアイリスとは、まったく対照的な魅力を持つ少女だった。
「初めまして、冒険者様。エレノアと申します。王都までの道中、よろしくお願いいたします」
エレノアは丁寧にドレスの裾を摘まんで挨拶をしてくれた。
王都までの道のりは、ここから馬車に揺られて約1か月ほどかかるという。
付き添いの父親である領主は、娘の肩に優しく手を置きながら思慮深い表情で語りかけた。
「王都までの道中、途中の街で普通のクエストを受けながらゆっくり進んでいただいて構いません。外の世界は決して平和なばかりではない……若い娘には少し危険かもしれませんが、王都で学ぶ前に、外の世界の厳しい現状をしっかりと自分の目で知ってほしいのです」
娘を溺愛して甘やかすだけのバカ親ではなく、娘の将来を心から考えた非常に理解のある素晴らしい父親だった。
(なるほどなあ……。それにしても、こんな可憐な美少女とアイリスの2人に囲まれて旅ができるなんて、なんだか華やかで楽しそうだな)
前世では女子と話す機会すら一度もなかった僕は、少し胸を躍らせながらそんなことを考えていた。
だが、ふと隣に視線をやると、アイリスがどこか不機嫌そうに唇を尖らせ、僕を視線で射抜いてきていることに気づいた。
「ルーク様……なんだか、とても嬉しそうなお顔をされていますね?」
「えっ!? や、そんなことないですよ!?」
アイリスの醸し出すどこか冷ややかな空気感に冷や汗を流しながら、僕は激しく首を振った。
こうして、Aランク冒険者となった僕とアイリス、そして可憐な領主の娘エレノアによる、王都を目指す新たな3人旅がスタートするのだった。




