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運があれば異世界最強! 〜前世最悪だった僕、運だけで無双する〜  作者: 咲夜


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運だけで温泉を奪還し、発明家になりました

アルディスの街で全属性の武器と防具を完璧に整えた僕たちは、買い込んだ物資を馬車に積み込み、次なる目的地である『シルトの村』へと向かって街道を進んでいた。


街道都市アルディスからは思いのほか距離があり、馬車を走らせること6日掛った。


流石に6日間に及ぶ長旅の疲労と汗は身体に着実と蓄積されていた。


「早くお湯に浸かって、身体を綺麗に洗い流したいですね」


御者台の隣に座るアイリスが、少し疲れの見える表情で額の汗を拭いながら呟いた。


「そうだね、アイリス。シルトの村は有名な温泉地だって聞いているから、到着したら真っ先にお風呂へ向かおう」


僕たちは念願の温泉に思いを馳せながら、馬車の速度を早めた。


だが、夕刻近くに辿り着いたシルトの村は、温泉地特有の活気や立ち上る湯気が感じられず、どこかどんよりと暗い空気に包まれていた。


不審に思いながら村の宿屋へ向かい、一刻も早くお風呂に入りたい旨を伝えると、受付の店主は深いため息をついて大きく首を振った。


「お客さん、悪いんだが今はお風呂には入れないんだよ……。実は数日前から急に源泉の湯が枯れてしまってね。村中の温泉が完全に止まっているんだ」


「えっ……温泉が枯れた……!?」


お風呂を楽しみに6日間の長旅を耐え抜いてきた僕とアイリスは、あまりのショックにその場で絶望した。


僕たちが途方に暮れていると、宿屋の前で途方に暮れていた村長が、僕たちの装備を目にして、藁にもすがる思いで駆け寄ってきた。


「旅の冒険者様とお見受けします! 頼みます、どうか我が村を救っていただけないでしょうか! 数日前に急に温泉が枯れてしまってからというもの、この村には誰も立ち寄らなくなってしまったのです……! 源泉の様子を見に向かおうにも、手強いモンスターが居座っていて村人では近づくことすらできません!」


「僕たちで良ければ力になりますよ」


僕が提示のために冒険者カードを見せると、そこにしるされた『Bランク』の文字を目にした村長は、


「び、Bランク冒険者様!? こんな小さな村にBランクの凄腕様が立ち寄ってくださるなんて……!」


と大目玉を丸くして歓喜した。


「なんという幸運! お願いです、冒険者様! 我が村の命綱である温泉が急に枯れてしまった理由を調査し、可能であれば復旧していただけないでしょうか!」


「分かりました! すぐに向かいます!」


報酬以上に「何が何でも今すぐ温泉に入りたい」という強い衝動に突き動かされ、僕はその緊急調査クエストを即座に受諾したのだった。


◇


村長から教えられたマップを頼りに、僕とアイリスは村の裏手にある山道を登り、源泉が湧き出る巨大な洞窟へと向かった。


洞窟の入口に近付くと、内部から香ばしい湯の匂いと賑やかな話し声が聞こえてきた。


忍び足で洞窟の中を覗き込んだ僕たちは、目にした光景に言葉を失った。


そこにいたのは手強いモンスターなどではなく、甲冑を着込んだ数名の『魔王軍の兵士たち』だったのだ。


彼らは村へと続く本来の湯脈を頑丈な蓋で固くせき止め、自分たちの陣地がある山側の谷間へと溝を掘って温泉を強引に引き込んでいた。


どうやら魔王軍の兵士たちもまた、重度の温泉好きだったらしい。


しかし、そんな彼らの個人的な事情など知る由もない僕たちは、激しい憤りを覚えていた。


「またしても魔王軍ですか……! でも、僕たちの待ち望んだ温泉を邪魔するなら、容赦はしません!」


僕の放つ魔法で怯んだ隙に、アイリスの繰り出す洗練された剣技が魔王軍の兵士たちを倒してく。


全属性の宝珠がはめ込まれた万能武器の性能は圧倒的だった。相手の属性や防具に関係なく即座に最大弱点を突く一撃が炸裂し、襲いかかってきた魔王軍の兵士たちは、手も足も出ずに一瞬でノックアウトされた。


敵を完璧に退けた後、僕は源泉をせき止めていた分厚い鉄の蓋に向かって炎の魔法を撃ち込み、綺麗に破壊した。


すると、魔王軍側の溝へと流れていた大量のお湯がピタッと止まり、本来の湯脈を通ってシルトの村の方へと勢いよく流れ出した。


「これで村に温泉が戻りますね!」


アイリスが嬉しそうに微笑んだ。


だが、僕はふと足を止めて考え込んだ。


「うーん……このまま魔王軍側の溝を野放しにしておくと、僕たちが去った後にまた彼らがやってきて勝手に湯を盗んでしまうかもしれないな」


何か良い防ぎ方はないかと周囲を見渡すと、源泉の少し上にある小高い丘の上に、家一軒分ほどもある巨大な丸い大岩が鎮座しているのが目に入った。


「あの岩を使えば……!」


僕は大岩の根本を支えていた硬い土壌に向けて『フレイムバレット』を放ち、土を根こそぎ吹き飛ばした。


支えを失った巨大な大岩は、重々しい音を立てて斜面を転がり落ちていった。


そして、僕の【運∞】の力が働いたのか、大岩は吸い込まれるように魔王軍側の溝へと向かい、まるで最初からあつらえたかのように寸分の狂いもなく溝の入口へすっぽりと挟まったのだ。


「よし、これでもう二度と悪さはできませんね」


完璧な塞ぎ具合に満足した僕は、アイリスと共に晴れやかな気持ちで村へと戻った。


◇


村に戻ると、温泉がかつてないほどの湯量で勢いよく復活したことで、村人たちが大歓声を上げて喜び合っていた。


村長からは涙ながらに感謝の言葉を述べられ、報酬である金貨1枚が手渡された。


その日の夜、僕とアイリスは念願だったシルト村の極楽温泉へと直行した。


広々とした石造りの浴槽に身を沈めると、6日間にわたる長旅の疲労と全身の汗が嘘のように吹き飛んでいった。心身ともに芯から癒やされた僕たちは、その夜、宿屋の快適なベッドでぐっすりと眠りについたのだった。


◇


その頃、山を挟んだ反対側にある魔王軍の野営陣地。


手作りの露天風呂で気持ちよく湯に浸かっていた兵士たちが、急にお湯が途絶えたことに困惑していた。


「おい、どうしたんだ!? 急に湯が出なくなったぞ!」


不審に思っ兵士たちが源泉へ向かうと、そこには源泉を守っていた兵士の姿はなく、破壊された村への蓋、特大の岩で完璧に閉ざされた自分たちの溝が残されていた。


この深刻な失態は、すぐさま陣地を統率する魔王軍幹部『第4将軍バルバトス』へと報告された。


バルバトスは魔王軍の中でも屈指の温泉愛好家であり、陣地に引き込んだ温泉で日々の疲れを癒やすことを何よりの楽しみにしていたのだ。


報告を聞いたバルバトスは、額に青筋を立てて激怒した。


「何だと……!? 私の至高の娯楽であった温泉を奪い、あろうことか溝を巨大な岩で塞ぐとは……!?」


拳を固く握りしめ、身体を激しく震わせるバルバトス。


「許さん……! 私のささやかな温泉ライフを脅かした、顔も知らぬ邪悪な邪魔者め……! いつか必ず突き止め、この手で排除してやる……!」


こうしてルークは自分でも気づかぬうちに、またしても魔王軍の幹部から深い恨みを買ってしまうのだった。


◇


翌朝、温泉のおかげで全身すっきりとした心地で目を覚ました僕だったが、数日間お風呂に入れなかったあの辛い時間を思い出していた。


王都までの旅路はまだまだ長い、数日間街や村に辿り着けないこともあるだろう。


「長旅の途中でも、どこにいても簡単に身体を洗える仕組みがあればいいのに……」


前世の知識を頭の中で巡らせていた僕は一案を思い立ち、シルトの村にある鍛冶屋のもとを訪ねることにした。


「すみません、この馬車の屋根を利用して、温かいお湯が上から出てくる『簡易温水シャワー装置』を作ってほしいんです」


「シャワー……? なんだいそれは?」


頑固そうな鍛冶屋の親方とアイリスが、揃って不思議そうに首をかしげた。


僕は簡易シャワー装置の仕組みを分かりやすく説明した。


「馬車の屋根の上に、平たい鉄製の水タンクを設置します。日中の太陽の日差しで熱を吸収させれば、中の水が自然とお湯になりますよね。そのタンクから配管を伸ばし、先端にコックと、小さな穴がたくさん開いた散水パーツを取り付けるんです。コックを開けば、頭上から温かいお湯が広がって落ちてきて、いつでも簡単に全身を洗い流せます」


僕の説明を静かに聞いていた鍛冶屋は、目を見開いて膝を打った。


「なるほど! 太陽の熱で湯を沸かし、上から散水して身体を洗うってわけかい! そいつは考えたこともなかった画期的なアイデアだ!」


鍛冶屋は即座に作業に取り掛かり、熟練の技術でわずか3日後には完璧な構造を持つシャワー装置を馬車に完成させてくれた。


しかし、実際に試運転をしてみようとした段階で、ひとつ問題が生じた。


「屋根の上の水タンクに、どうやって水を補給するか」だ。


近くの川からバケツで水を汲み上げ、ハシゴを使って屋根の上まで何度も運ぶのはかなりの重労働だった。雨水を溜める構造も考えたが、雨の降らない地域や数日間の日照りが続いた場合には機能しなくなってしまう。


そこで僕は、村の小さな魔導書屋へと足を運んだ。


「一番簡単で、誰でも使える水系の生活魔法の魔導書をください」


店主から買い求めたのは、レベル1の水系魔法『ウォーターショット』の魔導書だった。


本来は掌から小さな水球を放つ程度の初歩的な魔法だったが、今の僕の圧倒的な魔力と【運∞】の力をもってすれば何の問題もなく発動できた。この程度の簡単な魔法であれば、魔法の素人や村人であっても少し練習すれば扱えるようになる。


僕は屋根の近くに立ち、覚えたての水魔法を使ってタンクを満タンにした。


試しに配管のコックをひねってみると、穴の開いた散水パーツからシャワー状のお水が勢いよく広がって出てきた。


さらに、太陽の下に3時間ほど放置させた後、再びコックを開いてみると、日差しの熱を吸ったタンクから驚くほど心地良い温度の温水が流れ出してきたのだ。


「素晴らしいです、ルーク様! これなら旅の途中でも、毎日温かいお湯で綺麗に身体を洗うことができますね!」


その様子を横で見ていた鍛冶屋が、興奮した面持ちで僕の肩を掴んできた。


「冒険者の兄ちゃん! この『簡易温水シャワー装置』、馬車に取り付けるだけじゃなく、一般の家や宿屋の屋根に設置すればどこでも手軽にシャワーが浴びられるようになるぞ! 長旅をする商人や貴族、一般の家庭用としても絶対にバカ売れする!」


鍛冶屋の言う通り、この装置は馬車に限らず、あらゆる建築物や施設に応用できる汎用的な大発明だったのだ。


「俺にこの仕組みを商品として売り出させてくれねえか!」


「ええ、もちろん構いませんよ。僕のアイデアで良ければ自由に作って売ってください」


僕が笑顔で快諾すると、鍛冶屋は真剣な表情でかぶりを振った。


「そうはいかねえ! アイデアを出したのは兄ちゃんだ。商品が売れた分の利益から、あんたにもちゃんと権利料を支払わせてもらう!」


「いえいえ、僕は自分が使えればそれで満足ですから、お金なんて結構ですよ」


前世からの控えめな性格が出てしまい辞退しようとしたのだが、義理堅い鍛冶屋は絶対に引き下がろうとしなかった。


押し問答の末、最終的な妥協案として「シャワー装置が1台売れるごとに、銀貨1枚をルークに支払う」というロイヤリティ取り決めが結ばれた。


売上金の支払いは、冒険者ギルドのネットワークを通じてルークの口座へ定期的に送金される手筈となった。


「それでは、素晴らしい装置をありがとうございました!」


お互いに満足のいく形で契約を交わした僕たちは、鍛冶屋に見送られながらシルトの村を出発したのだった。


その後、この『簡易温水シャワー装置』は馬車だけでなく街の宿屋や一般家庭、貴族の館にまで爆発的な勢いで普及する大ヒット商品となり、ルークの口座へとんでもない額のロイヤリティが自動的に転がり込んでくることになるのだが……今のルークは、そんな未来を知る由もなかった。

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