運だけでレベル999の魔法を覚えたら、みんなが幸せになりました
王都の武闘大会で見事優勝を果たしてから、数日後のこと。
ルークたちの大豪邸のリビングには、食欲をそそる芳醇で香ばしい匂いが立ち込めていた。
「ルーク様、武闘大会の優勝、本当におめでとうございます! 今日はお祝いに、私が腕によりをかけて手料理を作ってきましたのよ!」
「わあぁ! すごく美味しそう! ありがとう、エレノア!」
「まあ! エレノア様の手料理ですのね。お心遣い、感謝いたしますわ!」
ルークとアイリスはテーブルを囲み、エレノアの美味しい手料理に舌鼓を打った。
和やかに食事と会話を楽しんでいると、エレノアがふと思い出したようにパンを口に運びながら言った。
「そういえばルーク様。先日、魔法学校の図書室で、とある古い文献を見かけましたの」
「へぇ、どんな本?」
「なんでも……【レベル999を超えた者】にしか扱えないとされる、伝説の古代魔法についての記述ですわ。この世にレベル999に達しているお方なんて、それこそ邪神や魔王すら退けたルーク様くらいしかいらっしゃいませんでしょう?」
「えっ……僕以外に扱えない魔法……?」ルークは目を丸くした。
「ええ。ですが、その魔法は攻撃魔法でも防衛魔法でもないようなのです。詳細は不明と書かれておりましたが……文献には『この魔法は、見る者すべての心を打ち、人々を幸せにする魔法である』と記されていましたの」
「人々を幸せにする魔法……!」
その言葉を聞いた瞬間、アイリスの目が輝いた。
「素晴らしいですわ、ルーク様! 人々を幸せにする魔法だなんて、まさにルーク様にピッタリの魔法ではありませんか!」
「うん……! 人々が幸せになる魔法なら、ぜひ使ってみたいなぁ」
元々人の笑顔を見るのが大好きなルークは、すっかり興味津々になった。
さっそく翌日、ルークは魔法学校へ向かい、校長に頼んでその古書を貸してもらうことにした。
「ふむふむ……えーっと? このレベル999限定魔法を習得して発動するには、特別な二つの触媒が必要……なんだね」
一つ目は、『全属性魔法の宝珠』。 それは、王都から北へ馬車で十日ほど進んだ場所にある、極めて特殊な環境の火山に生息するモンスターが稀にドロップする宝珠だという。
その火山は、山頂付近が年中猛吹雪に見舞われる「雪山の火山」であり、空からは四半刻と置かずに雷が鳴り響き、凶暴な強風が吹き荒れるという凄まじい極限地帯であった。環境があまりに苛烈すぎるため、目当てのモンスターに巡り会うことすら困難を極めるらしい。
「北の雪山火山かぁ……大変そうな場所だねぇ」
「ルーク様、いかがなさいますか?」アイリスが尋ねる。
「う〜ん、幸い僕たちには『空飛ぶ魔法の馬車』があるし、行ってみようか!」
ルークたちが所有する空飛ぶ馬車は、外がどれほど荒れていようと中では優雅にお茶が飲める仕様になっているのだ。
(外で馬車を引く天馬のアルシオンにはちょっと可哀想かな……?)とも一瞬思ったルークだったが、アルシオンは過酷な極限環境などケロッとした顔で飛べる規格外のタフな生き物なので、全く問題はなかった。
「よし、じゃあ出発する前に……もう一つの必要素材を探しに行こう!」
もう一つの必要素材、それは『レベル999用の魔導書』であった。
「そんな高レベルの魔導書、どこにあるのかしら……」と心配するアイリスだったが、ルークたちが王都の隅にある古びた魔導書屋へ行ってみると——あった。
棚の最上段、誰の目にも留まらない場所で、分厚い埃をかぶったまま放置されている『レベル999魔導書』が。
店主いわく「この店を開店して以来、買い手がつくどころか手に取る者すらおらんかった骨董品じゃ」とのこと。ルークはそれを買い取り、準備は完璧に整った!
◇
「それじゃあ、北の火山へ出発進行〜!」
ルーク、アイリス、エレノア、そしてボルトを乗せた空飛ぶ馬車は、天馬アルシオンに引かれて一気に北の空へと舞い上がった。
移動中は快適そのもの。外の景色が緑から白い雪原へと移り変わっていくのを眺めながら、温かい紅茶を楽しむ一同。
やがて、十日分の距離を空路であっという間に踏破し、目的地である「北の雪山火山」へと到着した。
バサッ、バサッ……!
馬車から一歩外へ出ると、そこは言葉を失うほどの地獄絵図であった。 火山の熱気と極寒の冷気がぶつかり合い、猛吹雪が吹き荒れ、空は雷鳴が轟いている。
そんな苛烈な嵐の中、火口のすぐ近くで、ゆらゆらと不気味なオーラを纏う巨大なモンスターの姿を発見した! あれこそが『全属性魔法の宝珠』を持つとされるモンスターである!
「みんな、行くよ!」
ルークが意を決して馬車から飛び出そうとした——まさにその瞬間!
ルークの持つ不可避の【運∞】が、それまで視界を奪うほど荒れ狂っていた猛吹雪と強風、そして雷鳴が、ルークが踏み出した瞬間に一瞬だけピタリと完全に止んだのである!
「今だっ!」
この千載一遇の隙をルークが見逃すはずがない! ルークは超人的な速度で間合いを詰めると、一閃!
吹雪が止んだ奇跡の一瞬でモンスターを一撃で撃破! モンスターが光の粒子となって消滅したあと、そこには虹色に輝く綺麗な『全属性魔法の宝珠』がポツンと転がっていた。
「やったぁ! 宝珠をゲットできたよ!」
ルークが宝珠を拾い上げた直後、再び猛吹雪が吹き荒れ始めたが、すでに目的は達成されていた。
馬車の中へ戻ったルークは、手に入れた宝珠と魔導書を手に取り、自身のスキル【万物鑑定】を発動させた。
頭の中に、レベル999限定魔法の真の詳細と、その圧倒的な効果が流れ込んでくる。
(……なるほど! そういうことかぁ……!)
鑑定結果を読み解いたルークの唇に、自然と楽しそうな笑みが浮かんだ。
「ルーク様? どんな魔法か分かりましたの?」
アイリスが興味津々で尋ねてきたが、ルークは「ふふっ、王都に帰ってからのお楽しみだよ!」とウインクしてみせた。
(アイリスや王都のみんな、ビックリするだろうなぁ……!)
◇
王都へ戻ったルークは、真っ先に王宮の国王様のもとへ向かった。
「国王様、お願いがあります! 今夜の暗くなった頃、王都のすべての民衆に『夜空を見上げるように』とお触れを出していただけませんか?」
「む? 勇者ルークからの頼みとあらばお安い御用じゃが……一体夜空で何が始まるのじゃ?」
「ふふっ、みんなを笑顔にする秘密のショーですよ!」
ルークの言葉に期待を膨らませた国王様は、すぐさま王都全域に「今夜、空を見上げよ」との緊急お触れを発出した。
◇
そして、夜。
漆黒の闇に包まれた王都の街。お触れを聞いた数十万の民衆が、「一体何が始まるんだ?」「勇者様が何かしてくれるらしいぞ!」と、期待とワクワクを胸に広場や屋根の上、通りへと繰り出し、じっと夜空を見上げていた。
大豪邸の広い屋上テラス。 そこには、アイリスやエレノア、無言で静かに控えるボルトが、ルークの姿を見守っていた。
「みんな、見ててね!」
ルークは『全属性魔法の宝珠』を掲げ、習得したばかりのレベル999限定魔法の呪文を唱えた。
「——生まれよ、みんなを照らす希望の光!【グランド・イルミネーション(万華天爛)】ッ!」
ルークの手元から解き放たれた圧倒的な魔法の光芒が、一筋の矢となって漆黒の夜空へと駆け上がっていった!
ポイントとなる上空数千メートルに達したその瞬間——!
夜空全体を覆い尽くすほどの、巨大な深紅の炎の大輪が、ドカンと夜空一面に咲き誇った!
「な、なんじゃあれはぁぁぁっ!?」と民衆が仰天する!
だが、それだけでは終わらない! 直後、心地よい爽やかな風が吹き抜けると、広がった炎がまるで命を得た生き物のように、夜空でクルクルと優雅に舞い踊り始めた!
さらには、四方八方へと幾重にも走る、美しく輝く紫と金の雷光!
そして最後には、あたたかい夜空から、光を反射してキラキラと輝く幻想的な「ひかりの雪」が、フワフワと街全体へ降り注いできたのである!
炎が舞い、風が踊り、雷が走り、雪が舞う——。
転移前の世界でいう「最高峰の花火大会」と「イリュージョンショー」を遥かに凌駕する、全属性の美しさを極限まで融合させた、『夜空の魔法花火ショー』が繰り広げられたのである!
「す、すげぇぇぇぇぇーーーっ!!」 「きれい……! なんて綺麗な光なの……!」 「こんな美しい景色、生まれて初めて見たぞーーーっ!!」
王都中から、割れんばかりの歓声と大歓声、そして感動の拍手が湧き起こった!
屋上にいたアイリスも、感動で大きな目を潤ませながら、夜空とルークの横顔を交互に見つめていた。
「ルーク様……! これが……『人々を幸せにする魔法』ですのね……! 本当に、本当に綺麗ですわぁ……っ!」
「うん! みんな楽しんでくれているみたいで、良かったなぁ!」
空を見上げて無邪気に笑うルークの横顔は、夜空に咲くどんな光よりも眩しく輝いていた。
◇
翌日。
王都を大感動の渦に巻き込んだ素晴らしいショーの功績を称え、感動した国王様からルークへ、感謝の証として**【金貨100枚】**が贈られた。
大豪邸の自室で、ルークはズッシリと重い金貨の袋を前にして、ガバッと頭を抱えていた。
ルークは手元のギルド通帳を開き、溜まりに溜まった資産を計算してみた。
前回の武闘大会までの残高:約金貨2,100枚
今回の王様からの特別謝礼:+金貨100枚
【現在の総資産】:【金貨2,200枚オーバー】(+毎月65枚の不労所得&定期収入)
「う〜ん……またお金が増えちゃったよぉ……」
純粋な優しさと親切心で行動した結果、使う宛てのない資産がまたしても増えてしまったのである。
「ルーク様〜! 本日のお昼は、エレノア様が残してくださった食材で美味しいサンドイッチを作りましたわよ〜!」
アイリスの明るい声と、静かに準備を終えたボルトの姿。
「使い道はわからないけど、みんなが笑顔ならいっか……」
頭を抱えて泣き笑いしながらも、仲間たちの待つリビングへと向かうルーク。
莫大な資産と最高の大豪邸、自由で頼もしい仲間たち、そして使い道すらわからない大金を抱えながら、真の勇者ルークと仲間たちの、優しく賑やかで規格外な日常は、これからもどこまでも続いていくのであった——!




