運だけで武闘大会に出場したら、アイリスの強さのビックリしました
王都の一等地にある超豪華な大豪邸。
ルークとアイリスは、今日もおだやかな一日を過ごすため、揃って王都の街へと出かけていた。
だが、いつもと様子が違う。街のメインストリートは大勢の人々でごった返し、祭りのような熱気に包まれていた。
「あら? 今日は何だか、随分と街が賑わっていますわね」
アイリスが不思議そうに首を傾げると、露店から美味そうな香ばしい匂いが漂ってくる。
「本当だねぇ。何かイベントでもあるのかな?」
ルークが通りすがりの町人に尋ねてみると、町人は興奮気味に教えてくれた。
「おや! ご存知ないのですか? 一週間後に、王室主催の『王都天下一武闘大会』が開催されるのですよ!」
「武闘大会……?」
詳しく話を聞けば、王宮前の巨大コロシアムを舞台に開催される格闘イベントで、参加資格は問わず、剣術だけでなく魔法の使用も全面解禁のトーナメント制。そして何より、優勝賞金は金貨100枚だという。
「へぇ〜! 楽しそうなイベントだねぇ」
ルークがのんびり感心していると、人混みを押し分けて青ざめた顔の男が駆け寄ってきた。
それは、幽霊(?)騒動の依頼人である王宮警備隊長であった!
「お、ルーク様! やはり大会の噂を聞きつけておられましたか!」
「あ、警備隊長さん! これ、王室主催なんだね」
「左様でございます! 我ら警備隊も総出で運営に当たるのですが……ルーク様ももしよろしければ、大会にエントリーしていただけませぬか? 邪神すら退けた伝説の勇者様が参加となれば、大会は最高潮に盛り上がりますぞ!」
「ええっ!? 僕が参加……?」
基本断れない性格のルークは、警備隊長に期待の眼差しで見つめられ、思わず苦笑いを浮かべた。
「う〜ん……まあ、観客の人たちが喜んでくれるなら……参加してみようかな?」
「おおお! 感謝いたしますぞ、勇者様!」
すると、その横でアイリスの目がキランと鋭く輝いた。
「警備隊長様! でしたら、私めもエントリーさせていただけますかしら!」
「えっ、アイリス様もですか!?」
アイリスは意を決したようにルークをまっすぐ見つめた。
「ルーク様……私、一度でいいからルーク様の胸を借りて、本気で剣を交えてみたかったのです。普段のお稽古ではなく、互いに一切の手加減なしの真剣勝負を……!」
「アイリスが……僕と本気で?」
思えば、仲間になってから一度もアイリスと本気で戦ったことはなかった。ルークはアイリスの真剣な瞳を受け止め、優しく微笑んだ。
「うん、分かったよ! アイリスと本気で勝負できるなんて楽しみだな。よろしくね!」
「はいっ! よろしくお願いいたします、ルーク様!」
警備隊長は大喜びで「すぐさま王様へご報告してまいります!」と弾んだ足取りで走り去っていった。
王様に報告すると、国王様は「勇者ルークが参加とな! 大会は大成功間違いなしじゃ!」と大層お喜びになられたという。
◇
だが——その3日後。
ルークたちが再び街へ出ると、おかしな噂が広まっていた。
「おい、聞いたか? 今度の武闘大会、あの『邪神や魔王すら退けた真の勇者』が出場するらしいぞ!」
「マジかよ!? 冗談じゃねぇ、そんな怪物に勝てるわけないだろ!」
「俺、優勝狙ってずっとトレーニングしてたけど、死にたくないから辞退するわ……」
そう、ルークの規格外すぎる知名度と伝説のせいで、「勝てるわけがない」「怪我どころじゃ済まない」と恐怖した出場辞退者が次々と続出してしまったのである!
「「「辞退します!」「俺も辞退で!」「命が惜しいです!」」」
みるみるうちに出場者名簿がスカスカになってしまい、頭を抱えたのは王様であった。
「ひえぇぇ! このままでは大会が立ち行かなくなってしまうぞ! 誰か……誰か勇者ルークに挑む度胸のある猛者はおらんのか!?」
焦りまくった王様は、なりふり構っていられなくなり、緊急事態として優勝賞金を『金貨100枚』から一気に【金貨1000枚】へと爆上げ発表したのである!
◇
そして、大会当日。
金貨1000枚という目が眩むような大金につられた猛者が集まり、何とか合計8名のトーナメント表が完成した。
熱気あふれるコロシアムの控室で、ルークたちの元へ青ざめた顔でコソコソと忍び寄ってきた二人の男がいた。
一人は、先日の警備隊長。 そしてもう一人は——ルークの力?でスパルタ校と化した魔法学校の校長であった!
「ゆ、勇者ルーク様ぁ……お久しぶりでございます……」
「あ、校長先生に警備隊長さん! 二人も出場するんだね!」
二人は死にそうな顔でガクガクと膝を震わせた。
「違います……王様から『盛り上げるために出場せよ!』と強制命令が出されたのです……! 頼みますルーク様、どうか……どうか手加減を……ッ!」
「私めも……勇者様をお誘いしたことを激しく後悔しております……どうか命だけは……命だけはお助けくだされぇぇぇ……っ!」
「あはは……大丈夫だよ、怪我させないように手加減するから安心してね」
ルークの苦笑いに、二人は「神よ……!」と胸を撫でおろしたのだった。
◇
いよいよ開幕した武闘大会!
運良く(相手にとっては運悪く)、ルークの1回戦の相手は魔法学校の校長であった。
「王都一の魔法使い」と称される校長は、観客の歓声を浴びながら、震える手で杖を構えた。
「くっ……行くぞ! 【エクスプロージョン(超爆炎華)】ッ! 【アイスストーム(極大氷結嵐)】ッ!」
コロシアム全体を揺るがすような大魔法がルークへと連続して襲いかかる! ……が、ルークは軽くステップを踏みながら、すべて手加減して回避&防御。
およそ10分後。
「よし、そろそろ反撃……」
ルークがそう呟いた瞬間——全魔力を一気に放出し切った校長が、青白い顔で膝から崩れ落ちた。
「ぜぇ……ぜぇ……も、魔力が……底をつきました……参りましたぁぁっ!」
「えっ、まだ僕何もしてないのに!?」
1回戦——ルーク、手加減して避けていたら相手の魔力が尽きて不戦勝気味に勝利!
◇
続いて2回戦(準決勝)。 ルークの相手は、王都一の剣豪と謳われる警備隊長であった。
「勇者様! 覚悟を決めてお挑みいたします! たやぁぁぁぁぁっ!」
キン! カキン! キン!
警備隊長は死に物狂いの猛攻撃をルークに浴びせる! ルークは相手の剣筋を壊さないよう、受け太刀に徹して優しく捌いていく。
10分は経っただろうか……息を荒らし、腕をガクガクと震わせる警備隊長。 必死の連撃で完全に握力と腕のスタミナが切れたその瞬間!
ルークが「えいっ」と軽く押し返しただけの剣に、警備隊長の剣がパシーンと弾き飛ばされてコロシアムの床へ転がった!
「ぐはっ……! う、腕の力が重力に耐えかね……降参でございますぅぅ!」
2回戦——ルーク、攻撃を凌いでいたら相手のスタミナが切れて勝利!
◇
そして——いよいよ迎えた【決勝戦】!
反対側のブロックから勝ち上がってきたのは、当然のごとくアイリスであった! アイリスはここまでの試合、現役Sランク剣士としての圧倒的な実力で相手を全員「一瞬(瞬殺)」で退けてきており、会場の観客たちは大興奮に包まれていた!
「すげぇぞアイリス選手! 全部一撃だ!」 「もしかして、あの勇者様すら倒してしまうんじゃないか!?」
万雷の拍手と歓声が湧き上がるコロシアムの中央。
「ルーク様……参ります!」
アイリスの目がキリッと真剣な勝負師の光を宿す。 その手には愛剣が握られ、身に纏う気迫はまさに現役Sランク剣士そのもの!
爆風のような踏み込みとともに、アイリスが襲いかかってきた!
「っ……速い!?」
アイリスの放つ一撃一撃は、これまでの相手とは比べものにならないほど鋭く、重い! ルークは両手に持ち替えた剣で必死に防ぐが、アイリスの隙のない怒涛の連撃に防戦一方となってしまう!
(やばい……ッ! 手加減する余裕なんて全っ然ない! アイリス、本当に強い……!)
ルークが冷や汗を流し、完全に後手へ回ったその時であった。
足を高速で滑らせながら猛攻を繰り出すアイリスの右足が——コロシアムの石畳の、ほんの数ミリほど隆起した**【床の段差】**に、わずかに引っかかったのである!
「あっ……!?」
ほんの一瞬、アイリスの完璧な軸がブレ、体勢が崩れる!
だが、そこは流石のSランク剣士。アイリスは崩れそうになる体勢を無理やり強靭な体幹でねじ伏せ、そのまま全身の筋力を込めてルークへ渾身の切り下ろしを放った!
「たやぁぁぁぁぁっ!!」
しかし——軸がブレた状態で放たれたその斬撃は、本来の威力を正しく刀身に乗せられていなかった。
「うわっ!?」
ルークは必死の思いで、斜め下からの角度で咄嗟に剣を差し出し、アイリスの刃を受け止めた!
その瞬間——!
アイリスが全身の体重を乗せて放った絶大な踏み込みの威力と、軸がブレてタメの効かない刀身、そしてルークが絶妙な角度で差し出した刃が、奇跡的な『テコの原理』の角度でガチッと噛み合ってしまったのである!!
「な……っ!??!?」
アイリス自身が放った強烈な踏み込みの衝撃が、テコの原理によってそのまま手元へ一気に跳ね返り! アイリスの指からスポンと力が抜け、愛剣が綺麗な放物線を描いて空高く跳ね上がったのである!
遠くの石畳に、乾いた音を立てて転がるアイリスの剣。
「……あ」
空になった自分の右手を見つめ、目を丸くするアイリス。
静まり返るコロシアム。
やがてアイリスは、ふっと晴れやかな笑顔を咲かせると、ルークに向かって淑女の礼をとった。
「……参りましたわ、ルーク様!」
「「「うおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーっ! 勇者ルークの優勝だぁぁぁぁぁっ!!」」」
ワーーーーーッ!!
コロシアム全体が揺れるほどの割れんばかりの歓声が巻き起こった!
◇
表彰式を終え、大豪邸への帰り道。
ルークは手渡されたずっしりと重い革袋——**【金貨1000枚】**を抱えながら、申し訳なさそうにアイリスへ声をかけた。
「ごめんねアイリス……最後の決着、なんだか僕の運が良かっただけで勝っちゃって……」
するとアイリスは、ルークの横顔を愛おしそうに見つめながら、弾んだ声で答えた。
「何をおっしゃいますの、ルーク様! 勝負の最中に訪れる偶然も、土壇場でそれを引き寄せる強さも……すべて含めて『ルーク様の実力』ですわ!」
「アイリス……」
「それに、ルーク様と本気で剣を交えることができて、私、とっても楽しかったです!」
飛び切りの笑顔を見せるアイリスに、ルークも「うん! 僕もすごく楽しかったよ!」と笑顔を返した。
だが——大豪邸へ到着し、ずっしりと重い金貨1000枚の袋をテーブルに置いた瞬間、ルークはガバッと頭を抱えた。
今回も賞金欲しさではなく、ただの親切心と楽しむために参加しただけなのに、望んでもいない莫大な金貨1000枚を獲得してしまったルーク。
今回もまた爆増してしまった資金を抱えながら、ルークと仲間たちの、優しく賑やかで規格外な日常は、これからもどこまでも続いていくのであった——!




