運だけで農村に行ったら、王都の食事がおいしくなりました
王都の一等地にある超豪華なルークの大豪邸。
広いリビングのテーブルには、湯気が立ち上る美味しそうな料理がズラリと並んでいる。
「ルーク様、お待たせいたしました! 本日の昼食は、採れたて野菜のスープとジューシーなお肉の香草焼きでございますわ!」
アイリスが、満足そうな笑みを浮かべて料理を運んできてくれた。
「わあ、美味しそう! いただきます!」
ルークがフォークでお肉と野菜を一口口に運ぶと、口いっぱいに広がる新鮮な野菜の甘みと、溢れ出るジューシーな肉汁。その絶妙な味わいに、ルークは思わず「う〜ん、美味しい!」と頬を緩ませた。
だが、ふとルークはアイリスの手元に目を向けた。
アイリスは剣士としての厳しい修練の合間を縫って、毎日買い出しや準備を行い、ルークたちのために手をかけて美味しい料理を作ってくれている。
(……アイリスはいつも僕たちのためにご飯を作ってくれてるけど、毎日毎日これじゃ大変だよね。たまにはアイリスにも羽を伸ばして休んでもらいたいなぁ)
ルークは思いやりを込めて提案した。
「ねぇアイリス。いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。でも、毎日作るのは大変でしょ? 今日の夜は、王都で一番評判のいい食堂へ食べに行ってみない?」
「まあ……! ルーク様、お心遣いありがとうございます。ですが、私めはルーク様に料理を作ることが何よりの喜びでございますので、まったく大変ではございませんのよ?」
アイリスは胸の前で手を合わせ、嬉しそうに頬を染めた。しかしルークは笑顔で首を振る。
「ううん、アイリスもたまには外の美味しいご飯を食べて、のんびりしてほしいんだ。二人で街の食堂へ行ってみようよ!」
「そこまでおっしゃっていただけるのなら……はい! 喜んでお供いたします、ルーク様!」
アイリスは嬉しそうに頷いたのだった。
◇
その日の夕方、ルークたちは王都で一番繁盛していると評判の『大衆食堂・黄金の麦亭』へとやってきた。
店内は活気に溢れ、大勢の客で賑わっている。
「いらっしゃい! 空いてる席へどうぞ!」
威勢の良い店主の声に導かれ、テーブル席に着いたルークたち。ルークはメニュー表を見つめ、店主におすすめを尋ねた。
「すみません、一番人気のおすすめメニューをください!」
「あいよ! それなら『新鮮野菜とゴロゴロ肉の特製煮込み』と『ステーキ盛り合わせ』だな! すぐ作るよ!」
しばらくすると、湯気を立てる大きな深皿と、こんがり焼けたお肉が運ばれてきた。
「美味しそうだね! アイリス、食べよう!」
「はい、ルーク様!」
ルークは木製のリレーで煮込み料理の野菜とお肉をすくい、パクリと口に運んだ。
……しかし。
「……オヤッ?」
一口噛んだ瞬間、ルークの動きがピタリと止まった。
(あれ……? 何だろう、これ……? 全然美味しくない……)
口の中に広がるのは、水分やすっかり抜けてモソモソとした出がらしのような野菜の食感。旨味や甘みは一切ない。さらに、お肉を噛みしめてみると……強烈な塩辛さとパサつき。ゴムのように硬く、ジューシーな肉汁など一切溢れてこなかったのである。
向かいに座るアイリスも、お肉と野菜を一口食べた後、不思議そうに首をかしげていた。
「ルーク様……こちらの野菜もお肉も、なんだか水分と肉汁が抜けて硬く、塩辛いだけで味があまりいたしませんわね……」
「うん……たまたまこのお店がハズレだったのかな?」
その日は首をかしげながらお店を後にしたルークだったが、気になったルークは翌日、今度は王都で一番高級と言われる料亭へ足を運んでみた。
しかし——高級料理店で出された料理も、昨日より多少マシな程度で、やはり野菜はパサパサ、お肉も硬く塩辛い干し肉のような味わいで、お世辞にも「美味しい」と言える代物ではなかった。
(う〜ん……どうして王都の食堂のお肉も野菜も、どれも美味しくないんだろう? アイリスが作ってくれるご飯は、あんなにシャキシャキでジューシーなのに……何が違うのかな?)
◇
不思議に思ったルークは、大豪邸へ戻ると、アイリスに尋ねてみた。
「ねぇアイリス。アイリスが作ってくれるご飯のお肉も野菜も、すごく美味しいじゃない? 街の食堂のものはすごく硬くてパサパサだったんだけど、一体何が違うのかな?」
ルークが尋ねると、アイリスはぽっと頬を染め、少し照れくさそうに微笑んだ。
「ふふっ、ルーク様。それは……食材の入手方法と保管に理由がございますの。こちらへお越しくださいませ」
アイリスに導かれ、ルークたちは大豪邸の広大な裏庭と、敷地内に停めてある空飛ぶ馬車へと向かった。
まず裏庭には——青々と葉を茂らせた見事な**【家庭菜園(野菜畑)】**が広がっていた!
「野菜につきましては……ルーク様が荒れ果てた村で教えられていた『焼き畑農法』を真似させていただきましたの。周囲の落ち葉や枝木を燃やして灰の肥料を作り、【浄化の宝珠】のエネルギーを少しお借りして土を耕し、お料理を作る直前にここで収穫しておりますの!」
「直前に収穫……! だから野菜が瑞々しかったんだね! ……あ、でもお肉はどうやって手に入れてたの?」
ルークが尋ねると、アイリスは腰の剣をトントンと叩いて、可愛らしく胸を張った。
「お肉に関しましては、私めが自慢の剣技を活かして、王都の近くの森で質の良い野生モンスターを直接狩ってきておりますの! そして狩り取った新鮮な生肉は、ルーク様が空飛ぶ馬車に作ってくださった【魔法の冷蔵庫】に保管しておりますのよ! だからいつでも獲れたてのジューシーな生のまま、調理ができるのですわ!」
「なるほどーーーーーっ!!」
ルークは手を叩いて大納得した!
アイリスの卓越した剣技による狩りと、魔法馬車の冷蔵庫、そしてルーク直伝の焼き畑菜園のコンボがあったからこそ、ルークたちは常に極上の生肉と鮮度抜群の野菜を食べられていたのだ!
「アイリス、すごいや! ……あ、ということは……街の食堂には『冷蔵庫』がないのかな?」
「そういうことになりますわね……」
真相を確かめるため、ルークとアイリスは王都の中心部にある『大市場』へと出かけてみた。
◇
活気に満ちた王都の大市場。
ズラリと並んだ野菜露店や精肉店を覗き込んでみると、野菜は表面の水分が抜けてシワシワ。そしてお肉に至っては、生の生肉などどこにも売っておらず、カチカチの**「大量の塩漬け肉」か「干し肉」**しか並んでいなかった。
ルークは八百屋と精肉店の店主に話を聞いてみた。
「店主さん、こんにちは! どうしてお肉は塩漬けばかりで、野菜はシワシワなんですか?」
店主たちは汗を拭いながら、困ったような溜め息をついた。
「おう、坊主かい。そりゃお前……生肉なんて一日で腐っちまう。だから長期保存のために大量の塩漬けや干し肉にするしかねえんだよ。……それに野菜も、遠方のヴェルデ村から馬車で運ばれてくるんだが、重い馬車で丸3日もかかるからな。移動中にすっかり水分が抜けてシワシワになっちまうのさ。……美味しくねえのは分かってるが、これしか手に入らねえんだから仕方ねえよ」
店主たちは諦め顔で肩をすくめた。
話を聞いたルークは深く納得した。
「なるほど……! 冷蔵庫がないから生肉が売れずに塩漬けにして旨味が抜けちゃってたし、野菜も3日かかって運ばれてるからパサパサになってたんだね!」
ルークは腕を組んでうーんと唸った。
(一番手っ取り早いのは、僕たちの豪邸の広いお庭で野菜やお肉を作ることだけど……それをやっちゃうと、今まで食材を作って生活していたヴェルデ村の人たちが仕事を失って、収入がなくなっちゃうよね……)
自分の事だけでなく、会ったこともない農村の人々の生活まで心配するルーク。
「よし! ヴェルデ村に行って、村の人たちと一緒に『美味しい新鮮な野菜とお肉を、新鮮なまま王都へ届ける方法』を考えてみよう!」
「はい、ルーク様! どこまでもお供いたしますわ!」
ルークたちは空飛ぶ馬車に乗り込み、食材の供給元であるヴェルデ村へと向かって出発したのだった!
◇
王都から東へ山を越えた場所に位置する『ヴェルデ村』。
村に到着すると、そこには見渡す限りの畑と牧草地が広がっていた。しかし——畑の野菜は小さくやせ細り、家畜たちが食べる牧草も土地の栄養不足でスカスカ。そのため家畜も肥えておらず、肉質が痩せていた。
ルークたちは村長のもとを訪れ、事情を説明した。
初老の村長は感激しつつも、寂しそうに畑を見つめて吐露した。
「我が村は長年同じ土地で耕し続けた結果、土の栄養がすっかり枯渇してしまいましたのじゃ……。野菜はやせ細り、家畜も栄養不足で肉に旨味が乗りません。さらに王都へ運ぶにも重い馬車で3日もかかり、肉は塩漬けにするしかなく、野菜は萎びてしまう……。どうすることもできずにいたのですじゃ」
村長の苦悩を知ったルークは、優しく胸を張った。
「村長さん、大丈夫だよ! 僕たちに任せて!」
ルークはさっそく、村長に許可をもらって【大改革】を開始した!
まず行ったのは、『土壌&牧草の改革』である。
「みんなー! 村の周りから、落ち葉や枯れ枝をたくさん集めてきて!」
村人たちが山から大量の枯れ葉や枝木を集めて畑や牧草地に敷き詰めた。そこへ、ルークの足元の影から顔を出した真紅の守護竜ヴォルカが、調整された優しい炎を吹き出す!
一瞬で上質な植物灰(灰肥料)へと変わり、枯れ果てていた土壌へ豊かな栄養が混ぜ込まれた。種をまきルークが【浄化の宝珠】を掲げると、極上野菜が爆発的に実り、牧草地にも青々と栄養満点の牧草が繁茂!
「おおお……っ!? なんという立派な野菜じゃ……っ!牧草も青々と茂っておる。これなら動物たちも栄養満点に育つぞ!」
「よし! 次はこの新鮮な生肉と野菜を、新鮮なまま王都へ運ぶ『馬車』の改革だよ!」
ルークはひらめいた。
(重たい馬車を浮かせて軽やかにすれば、馬の負担がなくなって1日で走れる! さらに荷台全体を『冷え冷えの冷蔵庫』にすれば、お肉を塩漬けにせず、生のまま新鮮に運べるよ!)
これぞ、前世の知識である**『コールドチェーン(保冷・冷蔵物流網)』**の発想である!
「馬車を浮かせて冷やすには……【ギガントゴーレムの核心(超高純度大魔石)】があれば完璧だね! 新しいギガントゴーレムを探しに行こう!」
ルークたちは一度王都の魔導書屋へと戻り、店主からギガントゴーレムの生息地(荒野の絶壁)を聞き出すと、現地へと飛んだのだった!
◇
荒野の奥深くにそびえ立つ、体長数十メートルを超える超巨大な岩石の怪物——【ギガントゴーレム】!
地鳴りのような咆哮をあげ、ルークたちを威圧するように巨大な岩石の拳を持ち上げるギガントゴーレム。
ルークは「ちょっとごめんね〜!」と声をかけると、威圧する巨大ゴーレムに向かってひょいと軽やかに近づき、その巨大な足先へ向けてチョンと【デコピン】を一発放った!
パシッ……。
ほんの軽い手応え。
次の瞬間——ッ!!
ルークの規格外の腕力と【運∞】の衝撃波動が伝播し、全高数十メートルを誇るギガントゴーレムの全身が、まるで超高圧の爆弾でも内部で炸裂したかのように、一瞬で木っ端微塵に粉砕・大崩壊したのである!
粉砕された無数の岩石の瓦礫の中から、ピカピカと眩しく輝く赤拳大の【ギガントゴーレムの核心(超高純度大魔石)】が、ルークの足元へ『コロコロコロ……』と可愛らしく転がってきた。
ルークは「あ、あったあった!」と軽快に拾い上げた。
「さすがルーク様でございますわ! 伝説のギガントゴーレムすらデコピン一発で余裕の撃破……まさに圧巻の強さです!」
アイリスが尊敬の眼差しでうっとりと拍手を送る。
こうしてルークは、あっさりと『超高純度大魔石』を手に入れたのだった!
◇
王都の工房で馬車を大改造!
ギガントゴーレムの魔石を組み込み、反重力による『半浮遊機能』と『超強力保冷・冷蔵機能』を備えた馬車が完成したのである!
完成した魔法馬車をヴェルデ村へ持ち帰り、直前に収穫された新鮮な生肉と極上野菜を、ひんやりと冷えた荷台へギッシリと積み込んだ。
「出発進行!」
重たいはずの馬車が軽々と浮き上がり、信じられないほどの超スピードで疾走!
以前は3日かかっていた道のりを……わずか『1日(数時間)』で軽やかに走り抜けてしまったのである!
◇
(馬車で冷たく運んできても、市場や食堂の厨房に『冷蔵庫』がなかったら、お店で生肉を保存できないよね!)
ギガントゴーレムの核心は超レアアイテムのため、街の全店舗に普及させるのは不可能だ。
そこでルークは思いついた!
「手に入りやすい【氷の宝珠】を使って、市場やお店の厨房で使えるコンパクトな『魔法冷蔵庫』を作ればいいんだ!」
ルークは王都の鍛冶屋へ向き、氷の宝珠を組み込んだ店舗用・厨房用の『魔法冷蔵庫』を開発!
これを王都の八百屋、精肉店、そして食堂の店主に提案すると——。
「「「「な、なんじゃこの夢のような箱はーーーっ!?!?」」」」
店主たちは大狂乱! 生肉も野菜も、この箱に入れておけば何日も新鮮なまま傷まずに保存できるのだ!
『魔法冷蔵庫』は王都中の全店舗で注文が殺到する超大ヒット商品となったのである!
◇
翌朝——王都の大市場と食堂。
保冷馬車で直送された新鮮な生肉とシャキシャキ野菜が並び、市場は大賑わい!
食堂『黄金の麦亭』でも、魔法冷蔵庫で冷やされた新鮮な生肉を使った新メニュー——『肉汁溢れる特製生肉ステーキ』と『新鮮野菜の濃厚スープ』が大爆発的に大ヒット!
ナイフを入れると、あふれ出すジューシーな肉汁と、柔らかく口の中でとろける最高のお肉。野菜もシャキシャキと甘く弾ける。
これまで「空腹を満たすため」に仕方なく食べていた無機質な食事から、一口食べるごとに感動が広がる「至高の贅沢品・嗜好品」へと、王都の食文化そのものが劇的に生まれ変わったのだった!
「うまい! うますぎるぞぉぉぉっ! 生のお肉ってこんなに柔らかくてジューシーだったのか!」 「毎日この食堂に通うのが一番の楽しみになったよ!」
食堂には連日長蛇の列ができ、空前の大繁盛を記録したのだった。
◇
数日後。
極上野菜と新鮮生肉が爆発的に売れたことにより、ヴェルデ村には莫大な大金が舞い込み、裕福な農村へと大変身!
村長たちは感謝を込め、野菜と肉の売上利益の中から「毎月金貨10枚」を、感謝の配当としてルークの口座へ自動振り込みする仕組みを作った。
さらに——王都中で大ヒットした『魔法冷蔵庫』の開発者であるルークに対し、鍛冶屋ギルドから「特許・権利収入として毎月金貨10枚」が自動的に口座へ振り込まれる契約が結ばれたのだった!
もちろん、今回一切お金を使わず、ただ助けに行っただけのルークは、そんなことを知る由もなかった。
◇
夕暮れ時。
王都の大豪邸へと帰宅したルークは、ギルドの通帳を開いて完全に固まっていた。
「……え? ……えぇぇぇぇぇっ!???」
ルークは信じられない思いで、何度も何度も数字を二度見した。
(お、おかしいなぁ……。僕、今回はお金なんて1枚も使ってないよね……? なのに、僕の口座の不労所得って……)
預金の毎月1%の利息:約10枚
温水シャワーの権利:毎月10枚
劇場の売上配当:毎月10枚
語学学校の運営配当:毎月10枚
ヴェルデ村の新鮮食材物流配当:毎月10枚
魔法冷蔵庫の権利:毎月10枚
ルークは頭を抱えて叫んだ!
「今回はお小遣いすら1枚も使ってないのに……助けに行っただけで、何もしてないのに毎月口座に入ってくる不労所得が、ついに『毎月40枚』から『毎月60枚』に増えちゃってるよ〜〜〜〜っ!?!??金貨が勝手に大増殖してるよぉぉぉぉっ!!」
「ルーク様〜! 本日も狩りたての新鮮なお肉と野菜で、とびっきり美味しいお夕飯を作りましたわよ〜!」
アイリスの明るい声がリビングから響く。
香ばしい肉の匂いに誘われて食卓へと向かうルーク。
莫大な資産と最高の大豪邸、自由で頼もしい仲間たち、そして毎月60枚ずつ自動増殖する不労所得を抱えながら、真の勇者ルークと仲間たちの、優しく賑やかで規格外な日常は、これからもどこまでも続いていくのであった——!




