運だけで王宮の謎を調べたら、誰にも言えない秘密ができました
日当たりの良いテラス席で、アイリスが淹れてくれた温かいお茶を飲みながら、ふかふかのソファで寛ぐルーク。
「ふぅ……今日もいいお天気だねぇ」
「ええ、ルーク様! おだやかで最高のお休みでございますわね!」
剣士のアイリスが、愛用の愛剣を愛おしそうに布で手入れしながら、飛び切りの笑顔を咲かせる。
庭では、からくり人形のボルトが水まきをしている。
その横では真緑の守護竜ヴォルカと天馬アルシオンが気持ちよさそうにハラを出して寝転がっていた。
そんな平和そのもののルークたちのもとへ——青ざめた顔をした一人の男が、コソコソと周囲を気にしながら忍び寄ってきた。
それは、王宮の警備を一手に引き受ける**【王宮警備隊長】**であった!
「お、お願いです……! 勇者ルーク様、どうか我が警備隊の……いや、王宮の危機をお救いくだされぇぇぇ……!」
「えっ!? 警備隊長さん!? どうしたの、そんなに慌てて?」
突然の来訪にルークが首をかしげると、警備隊長は声をひそめ、身を乗り出すようにして切実な悩みを打ち明け始めた。
◇
「……実はな、ここ最近、王宮内で夜な夜な『不気味な現象』が発生しておるのじゃ……」
「不気味な現象……でございますか?」アイリスが首を傾げる。
「うむ。誰もが寝静まった深夜、誰もいないはずの暗い廊下から……『ギーッ』と不気味な扉が開く音が響くのじゃ」
「ひぇ……っ」
「さらに、パタパタと怪しい足音が近づいてきたかと思うと、暗闇の中にぼんやりと浮き上がる『怪しい明かり』が廊下を移動していく……。そして、厨房の中から『ムシャムシャ、ゴクゴク』と何かを貪り食う恐ろしい音が響き渡り、翌朝になると厨房の食べ物がごっそりと消え失せているのじゃよ……!」
警備隊長はブルッと肩を震わせた。
「王宮の警備は完璧じゃ! 外から不審者が侵入した痕跡など一切ない! 王様へ報告したところ『幽霊などバカバカしい!』と一蹴されてしまったのだが……夜勤のメイドたちが恐怖のあまり悲鳴をあげ、次々と仕事を辞めたいと言い出しておるのじゃ!」
「それは大変だねぇ……」
「相手が正体不明の『幽霊』となれば、我ら警備隊の剣や槍では手も足も出ん……! そこで、かつて邪神や悪魔すらも退けたという勇者・ルーク様に、どうか真相を突き止めていただきたいのじゃ!」
警備隊長は深々と頭を下げた。
「ただし! 王様がバカバカしいとおっしゃった手前、勇者様へ頼んだと知られれば我が警備隊の威信に関わる……! どうか王様には一切内緒で、極秘裏に調査をお願いしたいのですじゃ……!」
「う〜ん……僕、幽霊なんて見たことないけど……」
ルークが困り顔でアイリスを見やると、アイリスは凛とした表情で頷いた。
「ル、ルーク様! 理由はどうあれ、王宮の方々が困っていらっしゃるのは事実……っ。こ、このSランク剣士たる私めもお供いたしますわ! ど、どんな悪霊であろうと、ルーク様のお手伝いをしてみせますわ……ッ!」
言葉内容自体は実に頼もしく凛としているのだが、あきらかに声が一段高く上ずっており、愛剣の柄を握りしめる手が微かにプルプルと震えている。
(アイリス……めちゃくちゃ強がってるけど、絶対に幽霊怖いよね……?)
ルークは必死に顔を作って強がるアイリスの横顔を見ながら、心の中でそっと突っ込むのだった。
「う、うん! アイリスがそう言ってくれるなら……よし! 一夜限りの極秘潜入調査、やってみよう!」
「おおお! 感謝いたしますぞ、勇者ルーク様ぁぁぁ!」
こうしてルークたちは、王宮警備隊長からの極秘依頼を引き受けることになったのだった。
◇
その日の夜。
漆黒の闇に包まれた王宮へ、警備隊長の案内で裏門からコソコソと忍び込んだルークとアイリス。
「王様に見つかっては大変だからね。僕が持ってるこれを使おう」
ルークは気配や姿を完全に遮断する【目くらましの布】を取り出した。
二人は目くらましの布を頭からすっぽりと被り、静まり返った王宮の厨房前の廊下で息を潜めた。
カチ、カチ、カチ……。
柱時計の針が進み、深夜丑三つ時(午前2時)を回った頃であった。
ピシッ……。
廊下の緊張感が一気に跳ね上がる。
(……きた!)
ルークが呼吸を整えたその瞬間——廊下の奥から、静寂を切り裂く不気味な音が響いた。
『ギィィィィィィィ……ッ』
重厚な木製扉が、静かに開く甲高い音。
「ひぅっ……!?」
隣にいたアイリスの体が、ビクッと跳ね上がった。
続いて——暗闇の向こうから、パタッ、パタッ、と湿った何かが床を歩く不気味な足音が近づいてくる。
さらには、暗闇の中にぽつんと浮かび上がる、揺らめく一筋の薄いロウソクの明かり。
『パタッ……パタッ……パタッ……』
明かりが徐々に近づいてくるにつれ、その『正体』が姿を現した。
そこには——ゆらゆらと揺れるロウソクを手に持った正体不明の不気味な白い何かの影が立っていたのである!
「〜〜〜〜〜〜っ!??!?」
その不気味な光景を目撃した瞬間!
昼間は「どんな悪霊でもお供しますわ!」と頼もしく宣言していたSランク剣士のアイリスが——ルークの服の裾をギュッと掴んだまま、恐怖のあまりガクガクと膝を震わせ、足がすくんで完全に動けなくなってしまったのである!
「う……うぅ……っ! ル、ルーク様……ゆ、幽霊……幽霊でございますわぁぁ……っ(泣)」
蚊の泣くような震え声で、ルークの背中に顔をうずめるアイリス。
(あはは……アイリスって、普段の魔物との戦いではすごく頼もしくてかっこいい剣士だけど……やっぱり幽霊は怖いんだね。強がってたのも可愛かったけど、やっぱり女の子なんだなぁ)
ルークは密かに微笑みながら、アイリスの背中をポンポンと優しく叩いて安心させてあげた。
『白い何か』の影は、息を潜める二人の前を通り過ぎると、吸い込まれるように厨房の中へと入っていった。
直後——厨房の中から。
『ムシャムシャ……ガツガツ……ゴクゴク……! んぐっ、美味い……! ムシャムシャ……!』
暗闇の厨房に響き渡る、何かを必死で貪り食う生々しい音。
しばらくすると食べる音が止み、『白い何か』は満足そうにお腹をさすりながら厨房を出ると、来た廊下をパタパタと戻っていったのだった。
◇
翌朝。ルークたちは警備隊長に昨夜の出来事を報告した。
「隊長さん、噂は本当だったよ。確かに深夜、白い怪しい影が厨房に入って食べ物を食べてたんだ」
警備隊長は真っ青になって膝を突いた。
「ヒ、ヒィィィィッ! やはり本物の幽霊じゃったか……! お願いですルーク様、幽霊を退治できるのは神に愛されたルーク様しかおりません! 今夜もう一度潜入し、あの幽霊を成仏させてくだされぇぇぇ!」
「えぇっ!? 成仏と言われても、僕、幽霊の倒し方なんて分からないよ〜?」
困り果てるルークだったが、警備隊長から「頼む! この通りじゃ!」と涙ながらにしがみつかれ、根が断れない性格のルークは「うぅ……分かったよ」と頷いてしまった。
(う〜ん……まあ、僕の【運∞】があれば、なんとかなるかなぁ……?)
こうして二夜連続の潜入作戦が決行されることとなった!
◇
その日の深夜。
今度は最初から厨房の中に隠れ、ルークの【目くらましの布】を被って息を潜めていたルークとアイリス。
『ギィィィィ……』
『パタッ……パタッ……パタッ……』
昨夜と全く同じ不気味な音とともに、『白い何か』の影が、ロウソクの薄明かりを手に厨房の中へと入ってきた。
影は、テーブルの上に置かれていたパンや肉を手当たり次第につかみ、無我夢中でムシャムシャと口へ放り込み始めた!
『ムシャムシャ……モグモグ……ッ!』
「今だっ!」
ルークは意を決して目くらましの布を脱ぎ捨てると、指先に魔力を込めた!
「【光よ】ッ!」
ルークの放った眩い光の魔法が、暗闇の厨房を一瞬にして昼間のように明るく照らし出した!
「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!??!?」」」
突如として暴かれた光に、白い影は「ひやぁぁぁっ!?」と情けない悲鳴をあげ、持っていたパンを放り出して大慌てで出口の扉へと走った!
「逃がさないよ!」
ルークは超人的な素早さで先回りし、ガバッと扉の前に立ちふさがった!
行き場を失った影は、厨房の隅へ追い詰められ、ガクガクと震え上がった。
「ひえぇぇぇぇ! 申し訳なかったのじゃあぁぁぁ! 祟らないでくだされぇぇぇぇっ!」
「あれ……? なんか声が……?」
ルークは違和感を覚え、震える影に向かってそっと手を伸ばすと——被っていた【不気味な白い何か】を、一気にバサッと引っ張り脱がせた!
バサッ……!
なんと、その『白い何か』の正体は——ただの【真っ白なシーツ】であった!
そして、シーツの下から現れたのは——豪華なシルクのナイトキャップとパジャマを身に纏い、口の周りにパンくずとジャムをべったりとつけた、丸々と太った**【国王様】**の姿であった!
「「……こ、国王様ーーーっ!??!?」」
ルークとアイリスの叫びが、厨房に響き渡った!
◇
「うぐぅ……み、見つかってしまったものは仕方がないのじゃ……」
照明の点いた調理場で、椅子に小さくなって座る国王様。
事の真相は、あまりにも情けないものであった。
「……実はな、ここ最近、体重が増えすぎて身体が重くなり、宮廷医から『このままでは命に関わります! 今すぐ厳しい食事制限をしなさい!』と激怒されてしまったのじゃ……」
国王様は涙目で腹の肉をさすった。
「昼間の食事量を半分以下に減らされたのだが……夜になるとお腹が空きすぎて、空腹でどうしても眠れんのじゃ! それで……夜中にこそっと部屋を抜け出し、こっそりと厨房の食べ物をあさっておったのじゃよ……」
国王様はルークの手をガシッと握りしめ、顔を真っ赤にして口止めを乞うた。
「頼む、ルーク! このことが臣下や民に知れたら、ワシの国王としての威厳は丸つぶれじゃ! 国王が夜中にシーツを被って厨房でパンを盗み食いしていたなど……絶対に誰にも言わないでくれぇぇぇ!」
「あはは……分かりました。誰にも言いませんよ」
ルークは苦笑いしながら承諾した。
◇
翌朝。
ルークは待機していた警備隊長のもとへ向かい、笑顔で報告した。
「警備隊長さん、幽霊退治終わったよ! もう二度と王宮に幽霊は出ないように言っておいたから、安心してね!」
「お、おおお! さすがは勇者ルーク様! 見事に幽霊を成仏させてくださったのですね!」
警備隊長は大感激し、謝礼として【金貨5枚】の革袋をルークの手へ握らせた。
「勇者様、これは我が警備隊からのささやかな感謝の印でございます! どうかお受け取りくだされ!」
「えっ、お金なんていいのに……」
断りきれず、金貨5枚を受け取ってしまったルーク。
だが、大豪邸へ帰る道中、ルークはうーんと腕を組んで考え込んでいた。
(……国王様のお願いは聞いてあげられたけど、あのダイエット方法じゃダメだよね。ただ単に食事の量を極端に減らすだけじゃ、空腹が限界を迎えて絶対に長続きしないし、また夜中にリバウンドして盗み食いしちゃうよ……)
人の良いルークは、国王様の身体と健康が本気で心配になってしまったのである。
(お腹いっぱい食べても太らなくて、ローカロリーで腹持ちが良い食べ物……何かないかなぁ?)
ルークは転移前でのかすかな記憶を辿った。
(……あ! そうだ! 前の世界の日本に【こんにゃく】っていう食べ物があったぞ! たしか、カロリーがほとんど無くて、お腹の中で膨らむからダイエットに最高なんだ!)
だが、うろ覚えの知識しかないルーク。
(えーっと……こんにゃくってどうやって作るんだっけ? たしか、お芋からでんぷんを取って、練って火にかければ作れたような……?)
家へ戻ったルークは、さっそく裏庭でアイリスが栽培していた『お芋』を分けてもらい、試作を開始した!
お芋をゴリゴリとすりつぶし、水に溶かして布で越し、水分を飛ばして乾燥させる。
すると、白くて綺麗な「でんぷんらしき粉」が完成した!
「よし! これに水を混ぜて、火にかけて練ってみよう!」
適当なうろ覚えの製法であったが——ここでルークの持つ不可避の**【運∞】**が奇跡を起こした!
ルークが無意識に混ぜ合わせたお芋の成分と水加減、加熱の温度調整、そして混ぜるスピードや強さが奇跡的な化学反応を引き起こし……鍋の中でプルプルとした綺麗な白い固形物が完成したのである!
「できたーっ! こんにゃくっぽいものが出来たよ!」
さっそく包丁で切り分け、お出汁でサッと煮込んで食べてみるルークとアイリス。
「モグモグ……あ! お芋のかすかな甘みがして、プルプルしてすごく美味しい!」
「まあ……! 不思議な食感ですが、お腹にしっかりと溜まる感覚がございますわ! なのに重たくありませんのね!」
ルークの持ち前の運によって、通常のこんにゃく以上に美味しく、お腹の中で膨らんで満腹感を与え、カロリーはほぼゼロという【奇跡のローカロリー極上フード】が誕生したのである!
◇
翌日。
ルークは完成した『特製こんにゃく』を重箱に詰め、王宮の国王様のもとへこっそり届けに向かった。
「国王様、これ……お腹いっぱい食べても太らない『こんにゃく』っていう食べ物です。夜お腹が空いたら、これを食べてみてください!」
「む……? こんにゃく……?」
半信半疑で一口食べた国王様は——目玉を飛び出させて叫んだ!
「ん、んまーーーいっ!? なんじゃこのプルプルとした食感は! 出汁の味が染み込んでいて美味い上に、一口食べただけでお腹がズシッと満たされるぞ!!」
国王様は大感激!
さっそく毎晩の夜食としてこのこんにゃくを食べ始めたところ……空腹のストレスが完全にゼロになり、夜中の盗み食いもピタリとストップ!
わずか数週間で、丸々と太っていた国王様の体重がみるみるうちに落ち、健康的で引き締まった体型へと劇的な減量成功を果たしたのである!
◇
後日。
見事な減量に成功し、体調も万全となった国王様は、ルークをこっそり王宮の応接室へと呼び出した。
「ルークよ……! お主のおかげで、ワシは健康を取り戻すことができた! 宮廷医からも大褒めされたぞ!」
国王様は嬉しそうにお腹を叩くと、ジャラジャラと重たい革袋と書状をテーブルの上に差し出した。
「これは、ワシの夜中の醜態を隠してくれた『口止め料』と、命を救ってくれた『こんにゃくのお礼』じゃ! さらに……今後もその『こんにゃく』を我が王宮へ定期的に納入してほしいのじゃ!」
「えぇっ!? お金なんていいですよ!」
辞退しようとするルークだったが、国王様は「国王の面子に関わる!」と聞く耳を持たず、強引に契約を結ばせてしまった。
こうして、ルークの口座へ**「こんにゃくの定期納入代金&口止め料」**として、毎月金貨5枚が定期振込されることになったのである。
◇
夕暮れ時。
王都の大豪邸へと帰宅したルークは、ギルドの通帳を開いて頭を抱えていた。
「う〜ん……また増えちゃったな……」
ルークは指を折りながら、毎月の自動収入を計算してみた。
預金の毎月1%の利息:約10枚
温水シャワーの特許利権:毎月10枚
劇場の売上配当:毎月10枚
語学学校の運営配当:毎月10枚
ヴェルデ村の新鮮食材物流配当:毎月10枚
魔法冷蔵庫の特許権利収入:毎月10枚
王宮へのこんにゃく納入&口止め料:毎月5枚
「今回は警備隊長さんから金貨5枚の謝礼をもらっただけなのに……国王様を助けただけで、毎月口座に入ってくるお金が『毎月65枚』に増えちゃってるよ〜〜〜〜っ!?!??金貨が勝手に増殖し続けてるよぉぉぉぉっ!!**」
「ルーク様〜! 本日のお夕飯は、特製こんにゃくの甘辛煮と、狩りたてのジューシーなお肉料理でございますわよ〜!」
アイリスの明るい声がリビングから響く。
「うぅ……使っても使ってないのにお金が増えちゃうよぉ……」
頭を抱えながらも、美味しそうな匂いに誘われて食卓へと向かうルーク。
莫大な資産と最高の大豪邸、自由で頼もしい仲間たち、そして毎月65枚ずつ自動増殖する収入を抱えながら、勇者ルークと仲間たちの、優しく賑やかな日常は、これからもどこまでも続いていくのであった——!




