運だけでボスモンスターを倒したら、最速でBランク冒険者になりました
翌朝、僕たちは乗り物職人の男性から購入した馬車を受け取った。
馬も毛並みが良く力強い個体で、荷台には大人2人が余裕で横になれる寝泊まりスペースと、頑丈な屋根、収納棚まで備わっていた。 キャンセル品とはいえ、金貨3枚で購入できたのは破格の幸運だった。
僕たちの目的地は王都だ。ここから王都までの道のりには、いくつかの街や村が点在している。
この世界における冒険者ギルドは王都に本部があり、主要な街ごとに支部が置かれている。 通常、冒険者は各地の支部に立ち寄ってクエストを受注し、報酬を得て宿屋を拠点にしながら旅を続けるものだ。
だが、僕たちには漆黒の魔導石を売った膨大な金貨の蓄えがあり、立派な馬車もある。 わざわざ資金稼ぎのために寄道する必要はなく、基本的には街や村で食料や日用品を補給しながら旅を進めることができる。 ギルドのクエストを受けるのは、強敵と戦ってレベルを上げるためで、報酬はどちらかというとついでにもらう程度である。
最初の経由地である『ローゼルの村』までは、徒歩で向かえば1週間以上かかる長旅だ。 しかし、僕たちは馬車の恩恵と、相変わらずモンスターに遭遇しない快適な街道のおかげで、わずか3日で到着してしまった。
ローゼルの村は、緑豊かな静かな村だった。ギルドの支部こそ存在しないが、物資の補給や食堂、宿屋が整っている。
◇
だが、村に入ると住民たちが青ざめた顔で騒いでいた。
話を聞くと、王都へ続く街道の近くに、これまで未発見だった新たなダンジョンが突如として出現したらしい。
ダンジョン内部から無数のモンスターがあふれ出し、街道を脅かしているというのだ。しかも現れているモンスターのほとんどがCランクの強力な個体だった。
この村に滞在している冒険者はDランク以下がほとんどで、とても対応できる状況ではなかった。
そこへCランクの冒険者カードを持つ僕とアイリスが現れたため、村長をはじめとする村人たちが涙を流してすがりついてきた。
「お願いです、冒険者様! ダンジョンの主を討伐し、村を救ってください!」
ギルドを介した正式なクエストではないが、人から頼まれると断れない僕の性格が災い(幸い?)し、討伐を引き受けることになった。
◇
これまでの旅とは違い、徒歩でダンジョンへ向かう道中からすでに無数のCランクモンスターがあふれ出していた。
僕とアイリスは武器を構え、襲いかかる敵を手分けして撃退していく。
ダンジョン内部に足をふみ入れた。そこはまさにモンスターの巣窟で、無数の魔獣が蠢いていた。
しかし幸いなことに、現れたモンスターたちはすべて火属性を弱点とする風属性の魔獣だった。
以前習得した僕の中級魔法『火炎弾』が絶大な効果を発揮した。1発放つだけで風属性の敵を大きく焼き払い、一度に複数の個体を弱らせることができるのだ。
だが、僕ばかりが敵を倒してしまっては、アイリスのレベルアップにならない。
そこで僕たちは作戦を立てた。 僕が前衛のアイリスの後ろから火炎弾を放って敵の体力を削り、弱ったところをアイリスが剣で仕留めるという一撃必殺の連携だ。
この連携が見事にはまり、僕たちはものすごい速度でダンジョン内のモンスターを討伐していった。
◇
しかし、ここで1つの問題が発生した。
僕は魔法専門職ではないため、魔法を使用するためのMPが無尽蔵にあるわけではない。連続で火炎弾を発射しているうちに、頭が重くなりMPが底を突きかけてきたのだ。
「しまっ……魔法の使いすぎでMPが……」
弱気になりかけた、まさにその時だった。
アイリスが切り伏せたCランクモンスターの遺体が、静かに光の粒子となって消滅した。
その跡地に、青く澄んだ小瓶がぽつんと落ちていた。
【魔力回復薬】だった。
通常、雑魚モンスターが回復薬をドロップする確率は極めて低い。 だが、僕のMPが切れそうになる絶妙なタイミングで、撃破したモンスターが次々と魔力回復薬をドロップし始めたのだ。
拾って飲むたびにMPが全快し、僕は一切の足止めを受けることなく魔法を撃ち続けることができた。
不可解なほどの幸運に恵まれ、僕たちはあっという間に最深部の巨大な扉の前へと辿りついてしまった。
◇
重厚な扉の向こうに待っていたのは、巨大な翼と鋭い鉤爪を持つ巨大な魔獣『ウィンド・グリフォン』だった。
これまでの敵とは格が違う。過去最強となるBランクのボスモンスターだった。
前線に立ったアイリスが剣を振るうが、格上の威圧感と素早い動きに押され、完全に防戦一方に追い込まれてしまう。
「アイリスさん!」
僕は後方から、手に入れたばかりのMP回復薬で全快した魔法を発動させた。
「火炎弾!」
相手は風属性だ。火属性の魔法は効果的であるはずだった。
するとその瞬間、システム上限を超えた僕の【運∞】が牙を剥いた。
本来ならば数万分の1という天文学的な確率でしか発生しない『魔法の超暴走(超クリティカル)』が突如として発動したのだ。
僕の手元から放たれた火炎弾は、巨大な炎の渦へと膨れ上がり、猛烈な熱風となってウィンド・グリフォンの全身を呑み込んだ。
直撃を受けたBランクボスは悲鳴を上げる間もなく叩きつけられ、全身を激しく焼かれて息も絶え絶えの瀕死状態となった。
「今です、アイリスさん!」
「はいっ!」
絶好の機会を見逃さず、アイリスが閃光のような踏み込みでボスの首元を一閃貫いた。
ウィンド・グリフォンは静かに光の粒子となって消滅した。
◇
ボスにとどめを刺したアイリスと、大部分のダメージを与えた僕。2人はほぼ同等の膨大な経験値を獲得した。
念のため冒険者カードを確認すると、信じられない数値が刻まれていた。
僕とアイリスのレベルは、一気に「101」へと跳ね上がっていたのだ。
「レベル101……!? Bランク昇格の条件をあっさりクリアしてしまいました!」
アイリスが目を丸くして歓声を上げる。
人のお願いを聞いてダンジョンを攻略しただけで、自分たちの目標だったレベル上げが完璧に完了してしまったのだ。まさに異次元の幸運だった。
ボスが消滅した跡地を見ると、澄み渡る空色に輝く宝珠が落ちていた。
拾い上げて確認すると、風属性の宝珠だった。
「どうせまた必要レベルが足りない宝珠ですよね」
そう踏んだ僕は、アイリスが手にしている剣の柄の根本に、小さな穴が空いていることに気づいた。
試しに空色の宝珠をその穴にはめ込んでみると、不思議なことが起きた。
宝珠がカチリと収まった瞬間、アイリスの剣身全体に美しい緑風が巻き起こり、属性を纏った特殊な武器へと変化したのだ。
宝珠を直接使用して魔法を習得するには必要レベルの制限があるが、武器のソケットにはめ込んで属性付与に使う場合は、レベル制限が一切関係ないという抜け道が存在していたのだ。
「すごいです、ルーク様! 剣が風を纏っています!」
「風属性の剣なら、次に雷属性の敵と戦う時に絶大な効果を発揮しそうですね」
僕たちは笑顔を見せ合い、習得した『空間転移・帰還』を発動させてダンジョンの外へと一瞬で脱出した。
◇
村に戻り、討伐完了を報告すると、村長は涙を流して感謝し、報酬として金貨1枚を差し出してきた。
ありがたく金貨を受け取り、僕たちはその夜、村の宿屋に宿泊することにした。
馬車は寝泊まりするには十分快適だが、さすがにお湯につかって全身を洗うことはできない。街や村に到着した際は、宿屋の温かいお風呂で長旅の汗を流すのが一番だった。
お風呂上がり、宿屋の食堂で食事を摂りながら今後の王都への道のりについて話し合っていると、近くにいた村人が心配そうな顔で話しかけてきた。
「冒険者さん、これから王都へ向かうなら気をつけてくれ。噂によると、この先のアルディスという街で15歳前後の若い男性が次々と魔王軍にさらわれているらしいんだ。君のような年格好の少年は特に危険だ。しばらく移動を見合わせた方がいい」
村人は親切に忠告してくれたが、アイリスの魔王討伐という目的がある以上、旅を止めるわけにはいかない。
困惑する僕に、村人はひとつの解決策を教えてくれた。
「それなら、この村の道具屋で売られている『変化のマント』を使うといい。それを羽織って見せたい姿を思い浮かべれば、性別も年齢も見た目も偽装できる魔法のアイテムだ」
翌朝、僕たちは道具屋へ向かい、変化のマントを購入した。 これで姿を偽りながら安全に旅を続けることができる。
僕たちは準備を整え、再び馬車を走らせて次の街へと出発した。
◇
その頃、遠く離れた魔王城の玉座の間。
漆黒の玉座に鎮座する魔王の前で、怪しげな仮面をつけた預言者が頭を下げていた。
「魔王様、予言が出ました。将来、魔王様を滅ぼす運命を持つ者の名が判明いたしました」
「ほう……その者の名は何という?」
魔王の問いに、預言者は静かに告げた。
「その者の名は――『不運 翔』。小柄でひ弱な15歳の男性。女性から全くモテない、冴えない雰囲気の男にございます。アルディスの街に現れるという予言が出ております」
魔王は凶悪な眼光を輝かせ、配下の幹部たちへ厳命を下した。
「不運翔……聞き捨てならぬ名だ。直ちに配下を放ち、その特徴に当てはまる15歳の男を片っ端から捕らえて連れて参れ!」
アルディスの街で起きていた15歳少年の連れ去り事件——それは、魔王の命令によって実行されている『ルーク捜索網』そのものだったのだ。
自分が狙われているとは露ほども思わず、「面倒なトラブル回避」のためだけに変化のマントを買ったルーク。 知らず知らずのうちに魔王軍の作戦を完璧に無力化してしまった彼は、呑気に馬車を走らせてアルディスの街へと向かうのだった。




