運だけで地震の原因を調べたら、禁書が見つかりました
城の応接室へと通されたルークたちは、温かい紅茶を一口飲みながら、向かいに座る国王へお願いについて尋ねた。
「うむ……実はなルーク殿。ここ最近、王都とその周辺で……原因不明の不気味な地震が頻繁に発生しておるのじゃ」
「地震……ですか?」
アイリスが首をかしげる。この王国の地理において、地震という現象は滅多に起こらない珍しい出来事であった。
「そうじゃ。最初は『地鳴りかな?』と思う程度の小さな揺れだったのじゃが、ここ数日は一日に何度も、地揺れが続いておってな。周囲の火山が噴火したという報告もない。地質学者や魔法士たちを総出で調査させ出したが、原因は一切不明……手がかりすら掴めておらんのじゃ」
国王様は深々と溜め息をつき、ルークの目を見た。
「このまま大きな揺れが来れば、王都の建物が倒壊し、民に甚大な被害が出かねん……。何も起きなければ良いのだが、嫌な予感がしてならんのじゃ。頼むルーク殿、どうにか原因を突き止めてはくれまいか……っ!?」
「う〜ん……原因不明かぁ。手がかりが何もないんじゃ、調べようがないよね」
ルークは腕を組んでうーんと唸った。
「ルーク様、まずは王国の過去の地変や伝承などが記載された資料を調べてみるのはいかがでしょうか? 王宮の資料室ならば、古くからの記録が保管されているはずでございます!」
「あ、それいいねアイリス! よーし、とりあえず王宮の資料室に行ってみよう!」
◇
王城の地下奥深くに位置する王立大資料室。
そこは天井まで届く巨大な本棚が幾重にも並び、何千年分もの羊皮紙や古文書の匂いが充満する、静寂に包まれた空間だった。
「うわぁ……すごい本の本数だねぇ。どこから探せばいいんだろう?」
ルークは目移りしながら、古い書棚が並ぶ通路をパタパタと歩いていた。その時であった。
「ルーク様!?」
平坦な床の通路で、ルークが一見何もないところでつまずいた!
「あれ? 何もなかったはずなのに、何につまずいたんだろ……?」
ルークが不思議そうに振り返ると、足元に敷かれていた高級な赤絨毯に、ほんのわずかな「段差」ができていた。
気になったルークが赤絨毯をペラリとめくってみると、そこには木製の床板が1枚だけ、パカパカと不自然に浮き上がっていたのだ。
「あれ……? 床板が浮いてるよ?」
「まあ……。長年の老朽化か、あるいは最近続いている地震の揺れによって、固定が外れてズレてしまったのでしょうか?」
「元の位置に戻しておこうか」
ルークは浮き上がった木板を直そうと、一度その板を手に取ってパカッと外してみた。
すると——その板の下、暗い床下の空洞に、分厚く重厚な一冊の古書が「隠すように」置かれていたのである。
「あれ……? こんなところに本が隠してあるよ?」
「何でしょう、それは……?」
ルークがその本を持ち上げ、表面の分厚いほこりを手で払うと、硬い革表紙には禍々しい漆黒の文字で、こう刻まれていた。
『禁書:世界三層構造と封印録』
「『きんしょ』……? 読んでいいのかな、これ?」
「禁じられた書物……! ですが、わざわざこんな床下に隠されているということは、王国にとって表に出せない重大な秘密が記されているのかもしれません!」
ルークとアイリスは顔を見合わせると、そっと禁書を開いてページをめくった。
そこに書かれていたのは、この世界の衝撃的な構造と歴史であった。
『——この世は、三つの階層によって構成されている。一つは天空に存在する【神の世界】。一つは我々人間が暮らす【地上の世界】。そしてもう一つは、地中深くの暗黒に存在する【地下の悪魔の世界】である——』
「へぇ〜……! 人間が住む地面の下に、悪魔の世界なんていうのがあるんだ!」
ルークは感心しながら読み進める。
『——太古の昔、悪魔たちは神の力によって地下深くの闇へと封印されていた。しかし、光と闇のバランスが崩れた時、その封印は緩み、悪魔たちは地上へと侵出を企てる。過酷な地下生活に不満を募らせた悪魔たちの目的は、豊かな地上の人間の世界、さらには天空の神の世界をも手中に収めることにある——』
本を読み終えたルークとアイリスは、言葉を失って顔を見合わせた。
「ルーク様……! これって……!」
「うん……今、王都で起きている理由のわからない地震って……まさか……」
「はい……!地下の悪魔たちの力が強まって、地上に出ようと封印を破ろうとしているのではないでしょうか……!?」
思わぬドジ(つまずき)から【運∞】の奇跡によって歴史の真実に辿り着いてしまったルーク。
「とにかく、この禁書に書いてある『封印が施された大地の裂け目』に行ってみよう!」
◇
王都から空飛ぶ馬車を走らせること小一時間。
ルークたちが辿り着いたのは、人里離れた荒野の奥深くに口を開ける、底も見えないほど巨大な「大地の裂け目(大断層)」であった。
馬車から降りて裂け目のフチから下を覗き込むと、底知れぬ暗闇の奥から、肌が粟立つような禍々しく不穏な気が『モワッ……』と這い登ってくる。
その瞬間、立っていられないほどの激しい地揺れがルークたちの足を襲った! 裂け目の壁面から岩石がガラガラと音を立てて崩れ落ち、地底から何か重いものが壁に打ち付けられるような不気味な衝撃音が響いてくる。
「すごい勢いで揺れてる……! 今にも何かが地上に這い上がってきそうな雰囲気だよ……!」
ルークが生唾を飲み込んだ、まさにその時であった!
『 相変わらず素晴らしい勘の良さじゃな、ルークよ!』
突如として上空から神聖な後光が差し込み、純白の雲に乗った【最高神】が神々しい姿で降臨したのである!
「あ! 最高神様!」
「最高神様、一体これは……!?」
アイリスが尋ねると、最高神は雲の上で腕を組み、重々しく頷いた。
「うむ。ルークの予想通りじゃ。地下の悪魔どもが力を蓄え、地上の封印を壊して這い上がろうとしておる。先ほどからの地震は、奴らが地下から封印の壁に体当たりをしておる振動なのじゃよ」
「やっぱりそうだったんだ! ねぇ最高神様、神様のすごい力で、あの悪魔たちをピピッと追い払ってよ!」
ルークが目を輝かせて頼むと、最高神は「うーむ……」と気まずそうに目線を泳がせた。
「それがな……できんのじゃよ」
「えぇっ!? どうしてですか!?」
「わしら神が直接地上や地下へ降りて悪魔と全面戦争などをしてみろ。神と悪魔の絶大なパワーが衝突し、その余波だけで地上は木っ端微塵に吹き飛び、人間どもは全滅してしまうのじゃ。……それに、万が一わしが負けたりでもしたら、この世界全体が悪魔の手中に落ちてしまうからのう!」
最高神は偉そうに胸を張り、ドヤ顔で言い放った。
「ゆえに! お主が地下世界へと降り、悪魔どもを退治してくるが良い!」
最高神のあまりにも堂々とした丸投げっぷりに、ルークは(いやいや……神様が地上で戦うと世界が壊れるって、自分の息子を地上に放置して邪神化させたじゃん……?)と心の中で盛大にツッコんだ。
しかし、ここで口に出して神様を怒らせても時間の無駄である。
「はぁ……分かったよ。とりあえず、地下がどんな様子か見に行ってみるね!」
「うむ! 期待しておるぞ、勇者ルークよ!」
満足そうに後光とともに消え去る最高神を見送り、ルークは深々と溜め息をついた。
◇
ルークたちは、白銀の天馬アルシオンが引く空飛ぶ馬車で、底知れぬ「大地の裂け目」の中へとゆっくりと下降を開始した。
暗く狭い岩壁の間をどこまでも、どこまでも下っていく。
どれほど降りただろうか。やがて視界が開け、ルークたちの目の前に広がったのは——禍々しい赤紫色の空と、荒涼とした岩山がどこまでも続く『地下の悪魔の世界』であった。
「ここが……悪魔の世界……」
アイリスが息をのむ。
馬車を巨大な岩壁の近くに着陸させると、そこにはゴツゴツとした不気味な黒い魔法陣(封印の壁)がそびえ立っていた。
そしてその魔法陣に向かって——。
『ぬおおおーっ! 壊れろーっ!』
『地上へ行くのだーっ! 押せ押せーっ!』
ツノや翼を生やした数十匹の下っ端悪魔たちが、かけ声とともにドスン! ドスン! と必死の形相で体当たりを繰り返していた!
その体当たりの衝撃が、そのまま地上へと伝わり、王都を揺らす地震となっていたのだ!
ルークは馬車から降りると、下っ端悪魔たちに向かってパタパタと手を振った。
「あの〜! すみませ〜ん! 体当たりするの、やめてもらえませんか〜? 地上がグラグラ揺れて困ってるんです!」
悪魔たちはピタリと動きを止め、一斉にルークを振り返った。
「なんだお前はーっ!? 人間がなんでこんな所にいるんだーっ!?」
「体当たりをやめろだぁ!? ふざけるな! 俺たちは地上へ出るんだよ! 引っ込んでろガキーッ!」
下っ端悪魔たちはルークの言葉に耳を貸すどころか、下品に笑いながら再び封印に向かって激しく体当たりを再開した。
「う〜ん……困ったなぁ。どうしても話を聞いてくれない?」
ルークが困り顔で尋ねると、下っ端悪魔の中で一番体の大きな個体が、手に持った棍棒をルークに突き突き突きつけながら吐き捨てた。
「けっ! 俺たちに言ったって無駄だ! 俺たちは命じられてやってるだけだからな! どうしても俺たちの邪魔をしたいんなら、奥にいるボスの【サタン様】に直接会って頼んでみな! ……まあ、命が惜しくなければの話だがな! ギャハハハハ!」
「サタンさん……? 悪魔のボスの人だね! 分かった、その人に会いに行ってみるよ!」
「ゲッ……!? 本気で行く気かよ……!?」
ルークの能天気な返答に、下っ端悪魔たちはドン引きして顔を見合わせた。
こうして、王都の地震を止めるため、ルークたちは悪魔の王・サタンが待つ地下世界の奥深くへと、馬車を進めるのだった——!




