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運があれば異世界最強! 〜前世最悪だった僕、運だけで無双する〜  作者: 咲夜


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運だけで悪魔の城に行ったら、牢屋に入れられました

白銀の天馬アルシオンが引く空飛ぶ馬車から窓の外を覗き込んだルークとアイリスは、その目を疑う光景に思わず息をのんだ。


「うわぁ……これ、かなり大変なことになってるね……」


「まあ……なんて凄惨で、おぞましい光景なのでしょう……っ!」


そこに広がっていたのは、まさに「地獄」そのものの世界であった。


空はどす黒い赤紫色に濁り、大地のあちこちからは赤黒い溶岩がドクドクと川のように流れ出している。立ち込める硫黄の臭いと猛烈な熱気。草木の一本すら生えておらず、ゴツゴツとした黒い岩肌がどこまでも続いていた。


さらに進むと、荒野のあちこちで過酷な光景が繰り広げられていた。


鞭を持った体格の大きな上位悪魔たちが、ツノや翼の小さい下っ端悪魔をどなりつけながら、強制労働をさせていたのだ。下っ端悪魔たちは汗と油にまみれ、大きなハンマーを振るって黒い岩を砕き、真っ赤に熱した溶岩で剣や斧といった禍々しい武器を大量に鋳造している。


誰が見ても一目でわかる——「地上への侵略戦争」の着々とした準備であった。


さらに馬車を進めると、今度は兵士と思われる悪魔たちが集まって食事をとっている場所に差し掛かった。


「……あ、あの人たち、何を食べてるんだろう?」


ルークが目を凝らすと、悪魔たちは見たこともない地底の不気味な巨大モンスターの肉を、火を通すことも料理することもなく、血の滴る生のまま『ガツガツ!』と獣のように貪り食っていた。


そして周りを見渡しても、家や建物といった場所は一つもない。疲れ果てた下っ端悪魔たちは、固く冷たい岩の地面の上にそのまま雑魚寝し、荒い息を吐いていた。


「家もないし、温かい料理もないんだね……。あんな生の硬いお肉を食べて、地面で寝るなんて……すごく痛そうだなぁ」


ルークは心を痛め、ぽつりと呟いた。彼らは単なる恐ろしい侵略者というだけでなく、あまりにも劣悪で不憫な環境で暮らしていたのだった。


やがて、荒野の最果てに、黒い溶岩を固めて造られた不気味で巨大な城が見えてきた。


「ルーク様、あの禍々しい城が……悪魔の王・サタンの居城に違いありません!」


「うん、行ってみよう!」


◇


黒い溶岩城の正面入口。


ルークは空飛ぶ馬車を止めると、一人で馬車から降り、門を固める警備の悪魔兵たちへと歩み寄った。


「あの〜、すみませ〜ん!」


門衛の悪魔たちは、身の丈3メートルを超える巨躯に巨大な斧を持った見るからに凶暴な面々だ。彼らは足元から声をかけてきた小さな人間に気づくと、一瞬ハッとした後、爆笑し始めた。


「ギャハハハハ! なんだぁこのチビ人間は!? お前、どうやってここまで迷い込んできたんだぁ!?」


「あ、迷子じゃないですよ! ボスのサタンさんに会いたいんです!」


ルークがニコニコと答えると、警備の悪魔たちは腹を抱えて大笑いした。


「ガハハハハハ! サタン様に会いたいだとぉ!? 貴様、命がいらんのか!? 奴隷として働きに来たのか、それともサタン様のエサになりに来たのか! 何用だ言ってみろ!」


「えーっと、今地上で続いてる地震を止めたいので、体当たりをやめてもらうように頼みに来ました!」


あまりにもバカげた直球の回答に、警備の悪魔たちはピタリと笑いを止めた。


「……は? 地震を止めたい……? 正気かコイツ……?」


警備の悪魔兵は呆れ返ったが、ふと眉をひそめた。


(待てよ……? 地上からの訪問者なんて、この数百年間で一人もいなかったぞ。もしコイツを適当に追い払ったり殺したりして、後からサタン様に『なぜ通さなかった』と怒られたら、俺たちが怒られてしまう……)


警備兵はブツブツと呟くと、「おい、お前ちょっとここで待ってろ!」と言い残し、城の奥へと走り去った。


しばらくすると、警備兵が顔を青くして戻ってきた。


「……おいチビ。サタン様がお前に『会ってやる』とおっしゃっている。……命があったら見事なもんだな」


「本当? ありがとう!」


ルークは馬車へ戻ると、心配そうに自分を見つめるアイリス、ボルト、そして足元の影から顔を出したヴォルカに向き直った。


「アイリス、ボルト、ヴォルカ。みんなは万が一の時に王都を守るためにも、この馬車でお留守番しててね。僕一人でサタンさんに会ってくるから!」


「ルーク様……! お一人で向かわれるなんて危険すぎます! 私めもお供いたします!」


「ううん、大丈夫だよアイリス。僕一人の方が怪しまれないし、話し合いもしやすいからね!」


仲間たちの心配を背に、ルークは一人でサタンの城の重厚な扉をくぐった。


◇


ひんやりとした不気味な廊下を一人で進むルーク。


突き当たりにある巨大な黒鉄の扉を開けると、そこは広大な玉座の間であった。


部屋の最奥、骨で作られた凶々しい玉座に、圧倒的な暗黒の魔力を全身から放つ巨大な悪魔——【魔王サタン】が鎮座していた。


『——フハハハハ! よくぞ逃げずに余の前に現れたな、地上の人間よ』


サタンの声が、城全体を震わせるように響く。


『警備のものから聞いたぞ。地上の地震を止めに来ただと? 滅びゆく虫ケラが、わざわざ直談判に来るとは実に片腹痛い!』


「こんにちは、サタンさん!」


ルークは恐れる様子もなく、爽やかに挨拶をした。


「ねぇサタンさん。なんでそんなに地上へ上がりたいの? 地上で地震が起きて、みんな困ってるんだよ」


ルークが素直に尋ねると、サタンは鋭い眼光でルークを睨みつけ、フンと鼻を鳴らした。


『……ふん、無知な子供め。何も知らんようだな。……良いだろう、冥土のお土産に教えてやる』


サタンは腕を組み、遥か昔の記憶を語り始めた。


『太古の昔……この世界には、神と、悪魔と、人間が共存しておった。神はその絶大な力をもって地上を統治し、人間どもはその庇護のもとでぬくぬくと暮らしていた。……だが、同じく強大な力を持つ我ら悪魔族は、神の独善的な統治に反発したのだ!』


「へぇ〜……昔は一緒に住んでたんだ!」


『そうだ。そして、神と悪魔の全面戦争——いわゆる【神魔100日戦争】が勃発した。力なき人間どもは怯え、陰で震えて見ておるだけだったがな。戦争は100日間にわたって続き、激闘の末……我が悪魔軍は敗北し、この地底の闇深き世界へと封印・追放されたのだ!』


サタンは拳を固く握り締め、激しい怒りを露わにした。


『もともと地上におった我らが、なぜこのような草木も生えぬ暗く冷たい地底で、惨めな生活を強いられねばならんのだ!? 我らには地上へ戻り、再び光を浴びる権利がある! だからこそ、我らは力を蓄え、再び地上を奪還するのだ!!』


サタンの言葉を聞いたルークは、腕を組んで深く考え込んだ。


(う〜ん……悪魔の人たちも、最初から悪者だったわけじゃないんだ。追いやられてこんな悲惨なところで暮らしてたら、そりゃあ地上に戻りたいよね……。これは僕の一存じゃ決められないや。一度地上に戻って、最高神様にもう一度相談してみよう!)


「サタンさんの言いたいことはよく分かったよ! ちょっと一度地上に戻って、神様に相談してくるね!」


ルークがくるりと背を向けて歩き出そうとした、その時であった!


『——待てぃッ!!』


サタンが立ち上がり、猛烈な暗黒の威圧感を放った!


『ふざけるな! 地上の情報を持ち帰り、神や人間どもに戦争の準備をさせるつもりだな!? させんぞ! おい、コイツを捕らえて地下の牢屋へぶち込め!!』


サタンの合図とともに、影から十数匹の親衛隊悪魔が飛び出し、ルークを取り囲んだ!


「えっ!? 違うよ、ただ相談しに行くだけなのに!」


ルークの持つ【真の勇者】のステータスと【運∞】の力をもってすれば、こんな悪魔たちを一瞬で全員吹き飛ばして脱出することなど造作もないことだった。


しかし——ルークはあえて反撃しなかった。


(ここで暴れて悪魔の人たちを傷つけたら、本当の戦争になっちゃうよね……。それに、悪魔の人たちも狭くて冷たい地下に押し込められて可哀想だし……ここは大人しく捕まっておこう)


ルークのあまりにも優しい性格により、ルークは素直に両手を差し出し、地下深くに作られた頑丈な鉄格子の牢屋へと連行されたのだった。


◇


「大人しく反省してろ、ガキめ!」


重い鉄格子が閉められ、周囲は静かな暗闇に包まれた。


「はぁ……参ったなぁ。閉じ込められちゃった」


ひんやりとした牢屋の床に座り込み、ルークはポリポり頭を掻いた。


「どうやってサタンさんと仲直りすればいいんだろう……。神様は『地上の問題は地上で解決しろ』って丸投げしてくるしなぁ……」


ルークが一人で悩んでいた、その時であった。


『——お困りのようだね、勇者ルーク』


暗闇の牢屋の外から、聞き覚えのある澄んだ声が響いた。


ルークがハッと顔を上げると、窓の向こう側に、背中に純白の羽を生やした神々しい一人の天使が立っていた。


「あ! 君は……! 改心した元邪神の天使さん!」


そこにいたのは、かつて邪神として世界を滅ぼそうとしたが、ルークの優しさによって改心し、現在は最高神のもとで真面目に働いているあの天使であった!


「久しぶりだねルーク。最高神様から『ルークが地下で困っていないか見ておいで』と言われて、様子を見に来たんだよ」


「え〜! 最高神様、見てるなら自分で助けてくれればいいのに!」


ルークが不満そうに頬を膨らませると、天使は苦笑いを浮かべながら寂しそうに首を横に振った。


「最高神様も、胸を痛めておられるのだよ……。ルーク、君はサタンから過去の歴史を聞いたろ?」


「うん。神様と悪魔が100日戦争をして、悪魔が地下に閉じ込められたんだよね?」


「そうだ。……だが、サタンが話さなかった『その後の真実』を君に教えよう」


天使は静かに語り始めた。


「100日間に及ぶ神と悪魔の戦争が破滅した時……地上は草木一本残らない、見る影もない完全な荒野へと崩壊していたんだ。生き残った人間たちは、泣きながら絶望していた」


「そんなにひどかったんだ……」


「神様は自らの戦いが地上を壊してしまったことを深く反省し、人間に地上の再興を託して、自らは天の上に『神界』を作って引きこもられたのだよ。……それから、人間たちは途方もない努力を重ね、1000年という長い年月をかけて、今の豊かな緑と街並みを復興させたんだ」


天使の瞳に切ない光が宿る。


「もし今、悪魔が地上に上がり、再び神と悪魔の戦争が始まれば……人間たちが1000年かけて築き上げた現在の素晴らしい世界は、一瞬にして再び見る影もなく崩壊してしまう。……そして、もし神様がこの地下へ降りて全力で悪魔と戦えば、絶大な衝撃で地球の地殻が破壊され、地球そのものが崩壊してしまうのだよ」


「地球が崩壊……っ!?」ルークは息をのんだ。


「そう。だからこそ神様は直接手を下せず、悪魔を地下に閉じ込め続けるしか選択肢がないのだ。……もし戦うという選択をするならば、神ではなく地上の人間自身が戦わなければならない。だが……サタン率いる悪魔軍団と人間が戦えば、計り知れない多くの犠牲が出つうえ、人間に勝てる見込みは限りなく低い……」


天使の話を聞いたルークは、深く、深く沈黙した。


神様が丸投げしていたのは適当だからではなく、神が動けば世界そのものが滅んでしまうという、あまりにも残酷な理由があったのだ。


そして、悪魔を力で倒すことも、地上へ解き放つことも、どちらも世界滅亡へと繋がってしまう。


「う〜ん……」


ルークは牢屋の天井を見上げ、じっと考え込んだ。


地上を守り、人間たちの1000年の歴史を守り、そして過酷な地下で苦しむ悪魔たちも救う……。そんな夢のような解決法は無いのだろうか?


しばらくの沈黙の後——ルークの瞳に、バッと力強い光が宿った!


「ねぇ、天使さん! 僕、いいこと思いついちゃった!」


「え……? いいこと……?」


「うん! 僕がサタンさんと『一騎打ち』で勝負して、僕が勝ったら、僕の言うことを何でも聞いて受け入れてもらう……っていうのはどうかな!?」


「な……ッ!?」


天使は目を見開いて絶句した!


「い、一騎打ちだって!? 相手は太古の神々と渡り合った魔王サタンだよ!? いくら君が強いと言っても、たった一人でサタンと決闘なんて……命がいくらあっても足りないよ!」


「大丈夫だよ! 僕一人なら地上も破壊されないし、僕が勝てば悪魔の人たちも納得してくれるはずだからね!」


ルークは牢屋の鉄格子を『バンバン!』と叩いて見張りの悪魔兵を呼びつけた!


「見張りのお兄さん! サタンさんに伝えてよ! 『地上をかけた僕との一騎打ち勝負を受けて!』ってね!」


見張りの悪魔兵は一瞬呆気にとられたが、すぐに「ギャハハハハ! 面白いガキだ! サタン様に伝えてやるよ!」と走り去っていった。


報告を聞いた魔王サタンは、玉座で凶悪な笑みを浮かべたという。


『フハハハハ! たった一人の人間のガキが、余にタイマンを申し込むだと……!? 面白い! その身の程知らずな不遜、直接ひねり潰してやるわ!!』


こうして、人類の存亡と地下世界の未来をかけた、勇者ルークと魔王サタンの究極の『一騎打ち』が決定したのだった!

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