運だけで異世界に行ったら、エネルギー問題を解決しました
『黒鉄の街』を後にし、白銀の天馬アルシオンが引く空飛ぶ馬車は、雲を突き破って猛スピードで王都へと急行していた。
豪華な車内には、緊張した面持ちの国王様と、ルーク、アイリスの姿があった。
「——それで、国王様。王都で一体何が起きたの?」
冷えたジュースのグラスをテーブルに置き、ルークが尋ねる。
国王様は額の汗を拭い、伝令兵から聞いた報告を重々しく口にした。
「……うむ。実はなルーク殿、王都の上空遥か高みに、突如としてどす黒く渦巻く不気味な『空間の破れ目』が開いたのじゃ……! 我が国の騎士団や宮廷魔導士団が総出で対処しようとしたのだが、あまりの高空ゆえに弓矢も魔法も届かず、調査に向かうことすらできぬ状態でな……」
「上空の破れ目……ですか?」アイリスが心配そうに首をかしげる。
「そうじゃ。あの高さまで昇り、異変の元態を確かめられるのは、世界でただ一人……空飛ぶ馬車とドラゴンを従えたルーク殿しかおらぬ! だからこそ同行をお願いしたのだ」
「うん! 任せて国王様、僕が様子を見てくるよ!」
◇
やがて、馬車は王都の上空へと到着した。
窓から外を覗き込んだアイリスが「まあ……っ!」と息をのむ。普段ならば美しい青空が広がる王都の上空が、どす黒く渦巻く不気味な闇に覆い尽くされていたのだ。そしてその中心に、禍々しい紫色の光を放つ巨大なゲートが不気味に口を開けていた。
城の広場へと着陸すると、出迎えた近衛騎士団長が悔しそうに頭を下げた。
「陛下、ルーク様! 上空のゲートは刻一刻と妖しい圧力を増しております……!」
「うむ。ルーク殿、頼んだぞ!」
「うん!」
ルークは力強く頷くと、足元に向かって声をかけた。
「ヴォルカ! 出てきて!」
ルークの呼びかけに応じ、足元の影がゆらりと揺らめくと、影の中から燃え盛るような赤き真紅の鱗を持つ巨大なドラゴン「ヴォルカ」が姿を現した!
ルークはヴォルカの背に跨がると、地上に残る仲間たちを振り返った。
「よし! ヴォルカと一緒にあの穴の中を見てくるよ! アイリス、ボルト、みんなはここで留守番をお願いね!」
「はい、ルーク様! 万が一あちらから何か現れましても、私たちがここをしっかりとお守りいたします! どうぞお気をつけて!」
「『ルーク様、武運ヲ』」
アイリスやボルト、そして騎士団に見送られ、ヴォルカは巨大な赤き翼を力強く羽ばたかせると、単身で王都の空を切り裂き、上空の禍々しいゲートへと突入していった!
◇
激しい空間の歪みと紫の光を突き抜け、黒い破れ目から真紅の巨大竜・ヴォルカがバッサリと翼を広げて姿を現したその瞬間!
「「「「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!???」」」」
地上で円陣を組み、空へ向かって魔法を放っていた数十人の魔法使いたちは、目玉が飛び出るほど仰天した!
「な、なんだあのドラゴンはーーーっ!?」 「まさか異世界の穴から何かが降臨してくるなんて聞いてないぞーーーっ!?」
自分たちが開けたゲートから突如として現れた竜に、大パニックに陥り腰を抜かす魔法使いたち。
そんな騒ぎをよそに、ヴォルカが荒野へドスンと着地すると、その背中からルークがひらりと飛び降り、怪しまれないようにニコニコと笑顔で手を振った。
「あの〜、すみません! 何やってるんですか〜?」
「「「「えぇぇぇぇぇ……!? ど、ドラゴンに乗ってるのが……子供……っ!?!?」」」」
異世界からの巨大な赤竜、そしてその背から現れたあまりにも緊張感のない少年——二重の衝撃に、魔法使いたちは開いた口が塞がらない様子だった。
その中で、豪華な杖を持ったリーダー格の導師が、ガクガクと膝を震わせながら前に出た。
「お、おのれ……異世界の侵略者め! 我ら『グラン』の生き残りをかけた悲願を邪魔させんぞ!」
「侵略者って……僕たちは異次元の穴が開いたから見に来ただけだよ?」
ルークがぽかんと首をかしげると、導師は悔しそうに歯噛みし、この世界の惨状を語り始めた。
この世界『グラン』は大底に眠るエネルギーを吸い上げすぎて100%完全に枯渇し、人類絶滅の危機に直面していること。生き残るために異世界へのゲートを開き、新たな土地へ大移動してエネルギーを吸い上げようとしていたこと——。
「そんなことしたら、今度は僕たちの世界がエネルギーを吸い尽くされて干上がっちゃうじゃないか!」
「分かっている! だが……だが、我々だって死にたくないのだよ……っ!」
頭を抱えて泣き崩れる導師たち。彼らも根っからの悪人ではなく、生き残るために必死だったのだ。
◇
「う〜ん、困ったなぁ……そうだ! 神様に相談してみよう!」
ヴォルカに乗って元の世界(王都の広場)へ戻ったルーク。
そこで待機していた白銀の天馬アルシオンが引く『空飛ぶ馬車』に乗り込むと、馬車は雲を突き抜け、どこまでもぐんぐんと空に向かって上昇していった。
やがて雲海のさらに上空に浮かぶ、神々が住まう純白の『神界』へと到着したルーク。
神殿の玉座に鎮座する最高神に「向こうの世界がエネルギーを吸おうとしてるから助けて!」と頼むルークだったが、最高神は「神が直接介入すると世界のバランスが崩れる。地上の問題は自分たちで解決しなさい」と一蹴する。
(……えー。でもこの神様、昔自分の息子を地上に放置して、寂しさで拗ねさせて邪神化させたよね? 案外適当だよね……)
ルークの脳裏にそんなツッコミが浮かんだが、口に出すと怒られそうだったのでそっと黙り込んだ。
「あ、はぁ……じゃあ仕方が無いね!」
神頼みを諦めたルークは、再び空飛ぶ馬車に乗って地上へと戻ろうとしたとき、宙を浮く馬車を目にしたルークは、ハッと手を打った。
(そういえば……この空飛ぶ馬車だって、土地のエネルギーじゃなくて『純粋な魔力』を動力にして快適に飛んでいるんだよね。……あ! だったら、あの異世界の人たちも土地のエネルギーの代わりに『純粋な魔力』を使えばいいんじゃないかな!?)
ひらめいたルークは、すぐさま魔法の国マギステリアの大司祭のもとへ向かった。
大司祭から「『最果てのダンジョン』最深部のモンスターが落とす【純粋な魔力を込めた宝珠】なら世界中のエネルギーを補えるが、ドロップ率は数千回に一度」と教えられたルーク。
さっそく最果てのダンジョンへ突入すると、持ち前の【運∞】が大暴走!
本来なら超レアなモンスターが湧き水のように出現し、ルークが軽く剣を振るうたびに確定でキラキラ輝く『魔力の宝珠』をボロボロとドロップ!
どれだけの量が必要か分からなかったため討伐しまくった結果、空飛ぶ馬車の荷台が破裂しそうなほどの宝珠で埋め尽くされたのだった!
◇
「お待たせ〜! 宝珠を持ってきたよ!」
ヴォルカとともに再び「グラン」へと戻ってきたルーク。
馬車一杯分の目も眩むような宝珠の山を見た異世界の導師たちは、不思議そうに宝珠を見ていた。
ルークが『地脈エネルギー変換装置』へ宝珠を投入すると、ルークの【運∞】の奇跡によって、未知の異世界テクノロジーと宝珠の魔力が「100%完全に奇跡の適合」を起こした!
エネルギー変換器が眩い青色の光を放って超高速稼働を始めた。
「お……おお……! エネルギーが戻ってきたぞーーーっ!!」
魔法使いたちが大地にひれ伏し、号泣する。
「ルーク様……! 我らを滅びから救ってくださり、感謝いたします! 我らは貴方様に深く感謝し、ここに『次元間不可侵協定』を固く締結いたします! 二度と貴方様の世界を脅かしません!!」
「うん! 約束だよ!」
固い協定を結び、役目を終えたゲートが静かに閉じられる中、ルークとヴォルカは自分たちの世界へと帰還していった。
◇
王都の上空を覆っていた禍々しい黒い渦とゲートが、綺麗な夕焼け空へと溶けて消えていった。
地上でお留守番をしながら固唾を呑んで見守っていたアイリス、ボルト、国王様、そして民衆から、王都全体を揺るがす大歓声が巻き起こる!
「ルーク様! お帰りなさいませ!」
ヴォルカから降り立ったルークを、アイリスたちが笑顔で出迎える。
「へへっ、ただいま! 向こうの人たちとも無事に仲良くなれたよ!」
異世界の危機を見事に解決し、ホッと一安心したルークは爽やかに笑顔を向けた。
「それじゃあ国王様、事件も無事に解決したことだし、僕たちは次の旅に出発するね!」
「待たれよルーク殿ーーーーーっ!!!」
空飛ぶ馬車へ乗り込もうとしたルークの服の裾を、国王様が必死の形相で掴みかかった!
「ええっ!? こ、国王様……!? どうしたの?」
突然の行動に目を丸くするルークに、国王様は切実な表情で拝み倒した。
「せっかくルーク殿が王都へ戻ってきてくれたのじゃ! 実は……今、王都ではもう一つ、どうしても解決できぬ頭の痛い問題が起こっておってな……! お願いじゃルーク殿、ついでにこの問題も解決していってくれぬか……っ!?」
まさかの「ついで」の追加依頼に、ルークとアイリスはガクッとズッコケるのだった——!




