運だけで廃坑の鉱山に行ったら、世界初の公認世界遺産になりました
「ふあぁ〜……今日もとっても良いお天気だねぇ!」
「はい、ルーク様! 山の空気も大変澄んでいて、素晴らしい旅日和でございます!」
ふかふかのソファで冷えた果実ジュースを飲みながら相変わらず呑気な会話を交わすルークとアイリス。
だが、眼下に広がる谷間の街に目を向けると、二人はどこか活気のない雰囲気にふと眉をひそめた。 そこは、かつて鉱業で栄えたと思われる広大な山間都市だった。
しかし、街全体に活気はなく、立ち並ぶ石造りの建物はすっかり色あせ、しんと静まり返っている。
馬車を広場に降ろすと、そこには作業着を着た男たちが日中からベンチに腰掛け、酒瓶を片手にやけ酒をあおっている姿があった。
「あの〜……すみません。ここは何という街なんですか?」
ルークが声をかけると、髭面の男——かつて鉱夫たちのリーダーを務めていたガルドが、濁った目でルークたちを振り返り、重い溜め息をついた。
「……ここは『黒鉄の街』だ。見りゃ分かるだろ、すっかり廃れた死んだ街さ」
「死んだ街……? どうしてこんなにみんな元気がなさそうなの?」
「鉱脈を掘り尽くしたんだよ」
ガルドは吐き捨てるように言った。
「数年前まで、ここは豊富な鉄と銀が採れる大鉱山だった。だが……数か月前、ついに最後の鉱脈まで掘り尽くしてしまった。いまや採れるのは価値もないクズ鉱石ばかり。掘るものもなければ、売るものもない。俺たち鉱夫は、長年培ってきた採掘の腕も使い道がなくなり、ただこうして昼間から酒を飲んで餓死するのを待つだけの役たたずさ……」
「そんな……!」アイリスが息をのむ。
ルークはしばらく思案したあと、ニコリと微笑んだ。
「ねぇ、ガルドさん。その掘り尽くしたっていう古い鉱山、僕たちに見せてくれないかい?」
◇
ルークたちは、街の奥深くに口を開ける巨大な廃坑へと足を踏み入れた。
内部はどこまでも深く、複雑に入り組んだトロッコのレールが網の目のように伸びている。何十年、何百年にもわたって鉱夫たちが命がけで削り進めてきた気の遠くなるような空間だ。
さらに奥へと進むと、頑丈な岩盤に塞がれた行き止まりにぶつかった。
「あれ……? この奥、なんだか風が吹き抜けている気がするよ?」
ルークがそう呟いた瞬間、持ち前の【運∞】の奇跡がひそやかに発動する。
ルークが足元につまずき、壁に手をついた拍子に、崩れかけていた古い岩盤がガラガラと崩落! その先に、風が吹き抜ける未知の大空洞が姿を現した。
ルークが魔法の光を灯すと、そこには言葉を失うほどの絶景が広がっていた。
天井から天井へと無数に伸びる圧倒的なスケールの「大鍾乳石」。地底の奥深くから重低音を響かせて流れ落ちる巨大な「地下の滝」。そして、透き通った水面が神秘的な静寂をたたえる広大な「地中湖」——。
「うわぁ……! すごいよアイリス、見て! とっても素晴らしい場所を発見しちゃった!」
「な……なんという事でしょう……っ!」
寄り添って覗き込んだ二人から、感嘆の声が漏れる。
ルークは目を輝かせ、人差し指を唇に当てて「ふふっ」と楽しそうに微笑んだ。
「アイリス、この場所のことは街のみんなにはまだ内緒ね! この広大な廃坑とトロッコ、そしてこの素晴らしい洞窟を使って……みんなを驚かせる『探検観光スポット』を作ろう!」
「はい、ルーク様! プレオープンで皆様がどんなお顔をされるか、今から楽しみでございますね!」
◇
洞窟を出たルークは、広場で酒を飲んでいたガルドたち鉱夫のもとへ向かい、目を輝かせて提案した。
「ガルドさん! 廃坑の奥で素晴らしい発見があったんだ! あの場所とトロッコを使って、世界中の人が遊びに来られる観光地にしないかい?」
だが——ガルドをはじめとする鉱夫たちの反応は冷ややかなものだった。
「ハッ……観光だと?」
ガルドは鼻で笑い、酒瓶を地面に置いた。
「お坊ちゃん、戯言はよしてくれ。俺たちは泥と汗にまみれて岩を削ってきた『鉱夫』だ。客相手にヘラヘラ笑って愛想を振りまくような、そんなチャラチャラした仕事ができるかよ!」
「そうだそうだ! 俺たちに接客なんてできるわけねえ!」「第一、こんな暗くて汚い廃坑に誰が好き好んで来るってんだ!」
鉱夫たちは職人のプライドと自暴自棄から、激しく首を振った。
ルークは嫌な顔ひとつせずニコリと頷くと、無理に説得しようとはせず、自ら行動を開始した。
まずは、探検ツアーの要となる安全な乗り物の調達だ。
ルークたちは一度空飛ぶ馬車に乗り、からくり都市『ギアロード』へと向かった。
そこで町長に機械人形が欲しいとお願いしたところ、「1か月先まで予約でいっぱい」と言われてしまう。予約をして帰ろうとしたその時、ルークの【運∞】が発動!
「町長、機械人形が1台キャンセルです」
「勇者様は強運の持ち主ですな。キャンセルの1台をお持ちください」
運良く機械人形を手に入れたルークたちは、大量の補強建材や照明機材とともに『黒鉄の街』へ戻ってきた。
それから数日間——。
ルーク、アイリス、機械人形のボルト、そして影からサポートするヴォルカたちは、黙々と作業を進めた。
広場では、相変わらず鉱夫たちが昼間から酒を飲み、「ハッ、バカな子供たちが何かやってるぜ」「どうせ失敗してすぐ諦めるさ」と冷ややかな目線で見つめている。
だが、ルークたちはそんな視線も気にせず、笑顔で汗を流した。
廃坑全体の落盤リスクを完璧に補強し、トロッコのレールを安全な探検コースへと改修。
放置されていた古い作業員宿舎は、木の温もりを残した味のある「レトロ鉱山ホテル」へとリノベーション。
旧給食所は、美味しい料理を提供する「名物食堂」へと生まれ変わり、
鉱山時代に「売り物にならない」と捨てられていた大量のクズ鉱石(綺麗に光る蛍石や水晶)は、丁寧に磨かれて「輝く原石アクセサリー」としてお土産ショップに並べられた。
そして数日後——すべての準備が整った。
◇
「——というわけで、国王様! ぜひ乗ってみてください!」
「うむ! ルーク殿の招待とあれば、喜んで駆けつけるとも!」
ルークは王都から、第11話や第26話でもお世話になった親しい国王様をプレオープンゲストとして招待していた。
「ガルドさんたちも、せっかくだから一度乗ってみてよ!」
ルークに声をかけられ、ガルドたち鉱夫は「チッ……まあ、どれほどバカバカしいものか確かめてやるか」と、半信半疑のまま家族や子供たちを連れて、連結トロッコへ乗り込んだ。
ギアロードで調達した最新の牽引ロボットが静かに動き出し、安全に補強されたトロッコが廃坑の中へと滑り込んでいく。
『——皆様、ようこそ。これより、世界一を誇る『黒鉄の鉱山』探検ツアーへとご案内いたします』
トロッコの先頭に立つ牽引ロボットからアナウンスが響き渡った。
坑道に入った瞬間、周りの空気がひんやりとした冷気に変わり、肌感覚でも「地下のトンネルに入った」と強く実感する。
入り口付近の壁面にはアンティーク調のランタンが吊り下げられ、ゆらゆらと揺れる炎が怪しげな影を作っていた。パタパタと頭上を小悪魔のようにコウモリたちが飛び交い、乗客の子供たちや鉱夫たちも思わず肩をすくめ、少しドキドキとした胸の高鳴りを感じながら先へと進んでいく。
やがて、トロッコは坑道の深部——かつて激しく掘削が行われていた旧鉱脈エリアへと差し掛かった。
設置されたスポットライトが順番に壁面を照らし出す。
「お……おお……!?」
乗客たちが思わず上を見上げた。
鉱石としては価値がなく掘り残された岩肌だったが、光を浴びた瞬間、岩に埋もれた結晶や蛍石がまるで夜空の星のようにキラキラと幻想的な輝きを放ち始めたのだ。
誰もがその美しさに息をのむ中、
『皆様、右手と頭上の壁面に刻まれた、無数の手掘りの痕跡をご覧ください。いま光を浴びて美しく輝くこの岩盤は、かつてこの街の鉱夫の皆様が、血の滲むような努力と固い絆、そして命がけの技術によって、何十年もかけて掘り進められた偉大な歴史の足跡でございます——』
「っ……!?」
ガルドをはじめとする鉱夫たちの体が、ガタッと震えた。自分たちが削り残した岩肌と、手で彫り進めたタガネの痕が、ライトに照らされて誇らしく輝いている。
ロボットのアナウンスは、さらに続く。
『灯りも乏しい暗闇の中、家族と街の未来のために槌を振るい続けた鉱夫の皆様の誇り高き職人技。その汗と涙の結晶こそが、今皆様が通られているこの誇り高き道なのです——』
「あ……ああ……っ」
きらきらと輝く岩肌を見上げるガルドの目から、ボロボロと大きな涙がこぼれ落ちた。
周りの鉱夫たちも、力強い手彫りの跡を見つめながら、ボロボロと涙を流していた。
自分たちのやってきた泥臭い苦労や仕事は、誰にも理解されず、鉱脈が切れれば捨てられるだけのものだと思っていた。やけ酒を飲み、「俺たちはもう不要な存在だ」と自暴自棄になっていた。
だが——ルークたちは違っていた。
彼らはチャラチャラと自分たちの街を観光地化しようとしていたのではない。
自分たちが命を削って掘り進めてきた歴史と、鉱夫としてのプライドを、誰よりも理解し、心からリスペクトしてくれていたのだ。
『——誇り高き鉱夫の皆様が長い年月の末にたどり着いた、最高の至宝がこちらでございます』
トロッコが崩落跡の奥、大洞窟へと足を踏み入れ、魔法のライトが一斉に点灯した!
一瞬にして闇が払われたその先に広がっていたのは、言葉を失うほどの絶景だった。
天井から無数に伸びる圧倒的なスケールの「大鍾乳石」、重低音を響かせる巨大な「地下の滝」、そして七色のライティングによって神秘的な輝きを放つ広大な「レインボー地中湖」——!
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!! 綺麗ぇぇぇぇぇっ!!!」」
同乗していた子供たちや国王様、そして鉱夫も、割れんばかりの大歓声と驚嘆の声が巻き起こる!
ガルドは膝をつき、震える手で顔を覆って号泣した。
「俺たちが……俺たちが命がけで掘ってきた穴が……こんなにも凄くて、綺麗な場所に繋がっていたなんて……っ!!」
ガルドは立ち上がり、涙を拭ってルークを見つめた。
「俺たちが間違っていた!俺たちが歩んできたこの鉱山の凄さと、この最高の絶景を世界中に伝える案内役なら……俺たち鉱夫にしかできない、誇りある仕事だ!!」
「「俺たちに……俺たちにその仕事をやらせてください!!」」
鉱夫たちが一斉に頭を下げる。ルークは飛び切りの笑顔で頷いた。
「うん! もちろんお願いするよ、ガルドさん!」
◇
国王様も興奮冷めやらぬ様子で高らかに宣言した!
「素晴らしい……! 王都の名において、この『黒鉄の地下洞窟』を——王都公認『世界遺産第1号』として正式に登録することを宣言する!!」
『ワーーーーーーーッ!!!!』
洞窟内に割れんばかりの歓声が響き渡った。
だが、ルークたちの演出はトロッコ探検だけでは終わらない!
地上へ戻った一行を待ち受けていたのは、旧給食所を改装した**「名物食堂」**だった。
「さあさあ、次はみんなでお食事にしましょう!」
ルークたちの案内で食堂に入ると、香ばしい出汁と肉の旨味が混ざり合った素晴らしい匂いが立ち込めていた。
テーブルに運ばれてきたのは、かつて鉱夫たちが食べていたスタミナ料理をアイリスが極上にアレンジした熱々の「名物・採掘鍋」! さらに、地下洞窟の湧き水を使って作られた、グラスの中でシュワシュワと七色に輝く「レインボー炭酸ジュース」だ!
「おお……! これは体の芯から力が湧いてくるような美味さじゃ! ジュースも爽やかで実に美味い!」
国王様はハフハフと鍋を平らげ、お代わりを連発! 鉱夫や子供たちも「こんな美味い鍋は食べたことがない!」と笑顔でスープを飲み干した。
お腹を満たした後は、隣の「体験コーナー&お土産ショップ」へ!
かつて捨てられていたクズ鉱石が、綺麗に磨かれて「レインボーアクセサリー」や「水晶ボトル」として所狭しと並べられている。
「わあぁ! キラキラしててすっごくキレイ!」
子供たちが大歓声をあげる中、特に大盛況となったのが、自ら原石を選んで研磨機で磨く「鉱石磨き体験コーナー」だ!
「ほう! 自分で磨いた鉱石が、こんな美しい宝石のような輝きを放つとは……! これは大大人も子供も夢中になるぞ!」
国王様も腕まくりをして夢中で研磨機を回し、ピカピカに磨き上がった蛍石を大切そうに胸ポケットへしまっていた。
その夜、国王様と一行は、元作業員宿舎をリノベーションした**「レトロ鉱山ホテル」**に一泊。
木の温もりが残る落ち着いた客室、温かいお風呂、そして窓から見える美しい星空とライトアップされた鉱山の夜景に、国王様は心底リラックスして深い眠りについたのだった。
◇
翌朝、大満足の笑顔を浮かべた国王様とともに、旅立ちの準備を整えたルークたち。
広場にはガルドをはじめ、ビシッと真新しい制服を着こなした元鉱夫たちや住民が集まり、二人をあたたかく囲んでいた。
「ルーク様、国王陛下! 本当に……本当にありがとうございました! 俺たちに自分たちの歴史への誇りと、生きていく未来をくれたこと、一生忘れませへん!」
ガルドは涙ぐみながら、固い握手を交わす。
「へへっ、みんなの笑顔が見られて良かったよ! これから世界一素敵なガイドさんになってね!」
「うむ! この素晴らしい街と世界遺産、王都からも全力で保護と支援を約束しよう! ではルーク殿、我々もそろそろ——」
ルークと国王様が笑顔で別れを告げ、まさに感動的に町を後にしようとした、その時であった!
突如として、街道の彼方から激しい馬の蹄の音が響き渡った!
泡を吹きそうなほど馬を激走させ、一人の近衛兵が広場へと飛び込んできたのだ!
「こ、国王陛下ぁぁぁぁぁーーーっ!!! 」
「ぬ……っ!? 王都の伝令兵ではないか! 一体何事だ、そのようななりで駆け込んでくるとは!」
兵士は落馬するように馬から転がり落ちると、膝をつき、肩を激しく上下させながら報告した。
「は、はひっ……! お、王都にて……緊急事態が発生いたしました! 陛下、今すぐ王都へお戻りいただかなくてはなりません……!」
「何だと……!? 王都で緊急事態だと……!?」
伝令兵から耳打ちで詳しい報せを受けた国王の顔色が、一瞬にして真っ青に変わった。
「ば、バカな……! まさかそのようなことが起こるとは……っ!」
衝撃に打たれたように固まる国王の姿に、ルークとアイリスは顔を見合わせた。
「国王様、どうしたの……? 何か大変なことが起きたの?」
ルークが心配そうに尋ねると、国王は苦渋に満ちた表情でルークの肩を強く掴み、切実な眼差しで見つめ返した。
「……ルーク殿。誠に恐縮なのだが……頼む! 急ぎ王都へ戻らねばならんのだが、ルーク殿も一緒に王都まで来てはくれまいか……っ!? 頼む、お主の力が必要なのだ……!!」
これまで一度も見たことのない国王の切迫した様子に、ルークは大きく頷いた。
「うん! 国王様が困っているなら、もちろん一緒に行くよ!」
「はい! アイリスめも、どこまでもお供いたします!」
「うむ……感謝する、ルーク殿……っ!」
こうして、感動的なお別れから一転、世界遺産第1号の誕生に湧く『黒鉄の街』を後にし、ルークたちは国王とともに急ぎ王都へと引き返すこととなったのだった。
一体、王都で何が起きているのか——波乱の予感を胸に、空飛ぶ馬車は雲を突き抜けて王都への空を急ぐのであった——!




