運だけで戦争中の小国に行ったら、世界初の国対抗運動会になりました
「ふあぁ〜……今日もお天気が良くて、風がとっても気持ち良いなぁ!」
「はい、ルーク様! アルシオンの飛行も実に滑らかで、最高の旅日和でございますね!」
いつもと変わらない呑気な2人であった。
豪華な馬車の車内で、ふかふかのソファに腰掛けながら冷えた果実ジュースを飲んでいたルークは、ふと車窓から眼下の地上を見下ろし、眉をひそめた。
「あれ……? アイリス、見てごらん。あそこの広大な平原に、ものすごい数の兵士さんたちが集まってるよ……?」
アイリスが窓から視線を落とすと、国境と思われる広大な平原を挟んで、二つの巨大な軍勢がギラギラとした殺気を放ちながら睨み合っていた。
赤と黄金の甲冑に身を包んだ『太陽の王国』の軍勢と、青と白銀の甲冑に身を包んだ『月の王国』の軍勢である。
両軍あわせて数千人におよぶ兵士たちが、槍や剣、弓矢を構え、いつ突撃の合図が鳴ってもおかしくない張り詰めた緊張感が漂っていた。
「あ、あれは……! 隣り合う小国同士の本格的な軍勢でございますね! あの空気……今まさに開戦の火蓋が切られようとしております!」
「ええっ!? 戦争だなんて危ないよ! ちょっと降りて止めに行こう!」
御者台に座る機械人形ボルトが手綱を静かに引き、影の中に待機している巨大龍ヴォルカの気配を感じながら、空飛ぶ馬車は両軍の中間地点である平原の中央へと滑らかに舞い降りたのだった。
◇
『ピタッ……』
両軍の将兵たちが今まさに「突撃ぁぁぁーーーっ!」と叫ぼうとしたその瞬間、突如として空から舞い降りてきた豪華すぎるホバー馬車。
両軍の陣営は「な、なんだあの馬車は!?」とあっけにとられ、攻撃を一時中断した。
その隙に、ルークは速やかに『変化のマント』を羽織って移動し、双方の陣営の天幕(本陣)へと直接忍び込んで話を聞くことにした。
まず、ルークが忍び込んだのは『太陽の王国』の陣営。
豪華な天幕の中で、赤と黄金の甲冑を着た太陽軍の最高司令官・バロン将軍が、額に脂汗を浮かべながら腕を組んで唸っていた。
「ううむ……参ったな……。まさか本当に開戦の火蓋を切る羽目になるとは……」
「あの〜、すみませーん」
「ぬおっ!? な、誰だ貴様は!? どこから入ってきた!?」
跳び上がって驚くバロン将軍に、ルークはニコリと微笑んで尋ねた。
「あのね、将軍さん。なんであっちの国と戦争しようとしてるの? 血を流すなんて良くないよ?」
すると、バロン将軍は周囲に誰もいないことを確認すると、力なくドカッと椅子に座り直し、大きな溜め息をついた。
「ハァ……言われずとも分かっておるわ! 本音を言えばな、こんな不毛な戦争など絶対にやりたくないのだ……! もともとは境界線の小さな川の水権を巡る些細な口論だったのだ。だがな……双方の国で国民や兵士の士気を高めるために『我が国の誇りをかけて戦うぞ!』と拳を大きく振り上げすぎてしまったのだ……!」
バロン将軍は悔しそうに頭を抱えた。
「今更『やっぱりやめます』などと言ってみろ! 国の威信は丸つぶれ、将軍としての面目も丸潰れで、兵士や国民から大ブーイングを受ける! 今更振り上げた拳を下ろすわけにはいかんのだよ……っ!」
続いて潜入した『月の王国』の本陣でも、青と白銀の甲冑を着た月影将軍ゼノスが全く同じ顔をして頭を抱えていた。
「ハァ……こんな戦、勝ち負けに関わらず両国とも大損害だ……。だが、国中に戦意を煽って大軍を動員してしまった以上、手ぶらで引き返すわけにはいかぬ……。将軍としての面目を保ったまま、戦をやめる方法があれば良いのだが……」
そう、両国の将軍とも「本当は絶対に戦争なんてしたくない」のに、「今更振り上げた拳を下ろせなくて困り果てている」のが真相だったのだ!
◇
双方の陣営から本音を聞き出したルークは、ヴォルカを呼び出した。突然現れたドラゴンにひるんだ両陣営にルークは大きな声で「ドラゴンに暴れられたくなかったら、両陣営の将軍は、中央へ来い」と叫び、両将軍を強引に平原の中央へと呼び出した。
「な、なんだお前たちは!」
顔を合わせて身構える両将軍に対し、ルークは朗らかに言い放った。
「将軍さんたち! お互いに本当は戦争したくないんでしょ? だったらね、武器を使わずに『違う方法』で正々堂々と決着をつけないかい?」
「な……なんだと!?」
「違う方法だと……!?」
二人の将軍が目を見開くと、ルークは胸を張って提案した。
「うん! 流血なしで、勝敗がしっかりついて、兵士さんや国民のみんなにも格好がついて、みんなが笑顔になれる方法だよ! 」
ポカンとする将軍たちに、ルークは続けた。
「そう! 体と知恵と団結力を使って、正々堂々と競技で競い合うんだ! これなら命を落とす人もいないし、勝った方も負けた方も『我が国は全力を尽くした!』って胸を張って誇れるよ! どうかな?」
バロン将軍とゼノス将軍は顔を見合わせた。
「(むむ……! 流血なしで勝敗がつき、兵士や国民にも『正々堂々たる国対抗の勝負だ』と格好がつく……!)」
「(それなら……我が将軍としての面目も保たれ、双方無傷で戦を終わらせることができるではないか……!!)」
両将軍は一斉に膝を打ち、目を輝かせて叫んだ!
「「採用だーーーーーっ!!!」」
こうして、歴史上初となる『国対抗大運動会』による決着が電撃決定したのである!
◇
「よしっ! 決定したら、さっそく会場作りだね! ボルト、お願い!」
ルークが声をかけると、御者台から跳び降りた機械人形のボルトが、スコップと木材を手に駆け出した!
次の瞬間!
重力掘削機のような超高速スキルが爆発!
ボルトは目にも留まらぬ速さで殺伐としていた戦場の草を刈り取り、土を平らにならし、白線を綺麗に引き、わずか1時間で「巨大な国対抗トラックグラウンド」を完成させてしまった!
「「な……なんという建設能力能力だーーーーっ!?」」
圧倒的なスケールの競技場を一瞬で作り上げられ、両軍の兵士たちは武器を持ったまま開いた口が塞がらなくなっていた。
その間にルークとアイリスは周囲の木々や馬車のガラクタを器用に加工し、「玉入れのカゴ」、「綱引き用ロープ」、「大玉」、そして「障害物コースの網やハードル」等の必要なものを次々に作り上げた。
「さあ兵士のみなさん! 剣や槍は危ないから置いて、赤組(太陽)と白組(月)に分かれてハチマキを締めて並んでくださーい!」
ルークが呼びかけると、兵士たちは戸惑いつつも武器を放り出し、渡された赤と白のハチマキを頭に巻いて、整然とグラウンドへ整列したのだった。
◇
前代未聞の『第1回 太陽と月の大国対抗運動会』が堂々開幕した!
審判はルークが担当する。
第一種目は、熟練のコントロールとチームワークが試される『玉入れ』!」
「「うおぉぉぉーーーっ! 負けるかぁぁぁーーーっ!」」
最初は照れくさそうにしていた両軍の兵士たちであったが、いざ競技が始まると、男たちの負けず嫌いな本能が爆発!
「入れぇぇぇ!」「我が太陽の国の勝利だ!」「月を舐めるなよ!」と、夢中で赤い玉と白い玉を小さなカゴに向かって放り投げ始めた!
するとここで、ルークの持つ測定不能の【運∞】の奇跡が発動!
突如として心地よい一陣の突風がグラウンドに吹き抜け、兵士たちが適当に投げた玉が、まるで吸い込まれるように全弾ポンポンポンとカゴの中へホールインしていったのである!
「第一種目は両者一歩も譲らず引き分けでございます!」
「「うあぁぁぁーーーっ! た、たのしいぃぃぃーーーっ!!」」
続いて第二種目は『大玉転がし』!
自分たちの身長ほどもある巨大な木製の大玉を、ペアで押してトラックを周回する競技である。
気負いすぎた太陽軍の兵士が勢い余って大玉の上に乗っかってしまい、ゴロゴロと転がって敵陣の月軍の兵士たちと一緒にもみくちゃになるという爆笑ハプニングが発生!
「おい大丈夫か!?」「ぶははは! お前思いっきり転んだな!」「ハハハ、笑わせるなよ!」
敵味方の区別なく、グラウンド全体から弾けるような大爆笑が巻き起こったのだった!
そして第三種目は『綱引き』!
これには両軍の最高司令官であるバロン将軍とゼノス将軍も先頭に立って参加!
「ぬおぉぉぉぉーーーっ! 引けぇぇぇ! 将軍の意地を見せろぉぉぉーーーっ!」
「負けるなぁぁぁ! 月の誇りを見せるのだぁぁぁーーーっ!」
二人の将軍は額に青筋を立て、顔を真っ赤にしながら極太のロープを全力で引き合う!
「押せぇぇ!」「引けぇぇ!」「頑張れぇぇ!」
観覧席の兵士たちからも、国を超えた凄まじい大声援が響き渡り、勝負は手に汗握る熱戦の末、わずか数センチの差で月軍が勝利を収めたのだった!
◇
そして、いよいよ最終種目——全得点が配分される『国対抗代表全員リレー』!
両国から選りすぐりの俊足兵士たちがバトンを繋ぎ、トラックを激走する!
バトンは次々と渡され、アンカーである両国の若き俊足騎士たちが一騎打ちで最終ストレートへと突入した!
「「うおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!」」
二人とも足がもつれそうになりながら、歯を食いしばって全力疾走!
そして——二人の身体は、ほぼ完全に同時にゴールのテープへと飛び込んだのである!
『バサッ……!!』
「「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」」
倒れ込む二人。
審判のルークが判定を確認し、ホイッスルを鳴らした。
「判定……完全同着! 引き分けーーーーっ!!」
『ワーーーーーーーッ!!!!』
その瞬間、グラウンド全体を揺るがすほどの地鳴りのような大歓声と拍手が沸き起こった!
汗だくになって地に伏せていた両国の兵士たちは、顔を見合わせると、どちらからともなく破顔した。
「……ハハッ、お前……いい走りだったぜ……」
「お前こそ……めちゃくちゃ速かったぞ……!」
一人が手を差し伸べると、もう一人がその手を強く握り返し、立ち上がって熱い抱擁を交わした!
それを見た周囲の数千人の兵士たちも、次々と敵味方の枠を超えて肩を抱き合い、笑顔で健闘を称え合ったのだった。
「「うあぁぁぁん! 流血の殺し合いなんかより、こっちの方が百倍楽しくて誇らしいじゃないかぁぁぁーーーっ!!」」
兵士たちが涙を流して笑い合う中、バロン将軍とゼノス将軍も歩み寄り、ガッチリと固い握手を交わした。
「ゼノス……素晴らしい戦い(運動会)だった。我が太陽の王国は、お前たちを最高のライバルとして誇りに思うぞ」
「バロン……私もだ。武器を取って血を流すなど、なんと愚かなことだったか……。これぞ我が国が求めていた、真の決着だ!」
両将軍は胸を張り、兵士たちに向かって高らかに宣言した!
「太陽と月の両王国は、本日をもってすべての争いを破棄する! 双方の面目を保ったまま、ここに『永遠平和条約』を締結するぞーっ!」
「「うおぉぉぉぉーーーーーっ!! 平和万歳! 運動会万歳ーーーーっ!!」」
争いの原因だった川の水権も、「半分ずつ分け合い、この競技場を両国の共有スポーツ公園にしよう」と笑顔で平和的に解決したのだった。
◇
翌朝——。
昨日までの殺伐とした雰囲気が嘘のように、二つの国の兵士たちが一緒になって運動会の片付けや清掃を行っていた。
「ルーク様、本当に素晴らしい解決法でございましたね! 武器を置かせ、スポーツで互いを認め合わされるとは……!」
アイリスが感動の面持ちで微笑むと、ルークはジュースをゴクゴクと飲んでへらっと笑った。
「へへっ、みんなが怪我をしないで笑顔になってくれて良かったよ!」
両国の将軍や兵士たちから「歴史を救ってくれた神の使者様だ!」と涙ながらに感謝され、たくさんの特産品やお土産をプレゼントされたルークとアイリス。
二人は大満足で手を振ると、再び空飛ぶ馬車へと乗り込んだのだった。
「さあ、アイリス! 次の街へ出発だーっ!」
「はい、ルーク様! どこまでも、どこまでもお供いたします!」
白銀の天馬アルシオンが羽ばたき、風を切って大空へと爽快に走り出す馬車。
ふかふかのソファで冷えたジュースを飲みながら、笑顔で乾杯するルークとアイリス。
——なお、この時ルークが提案した『武器を持たずに、競技で正々堂々と決着をつける運動会(スポーツ大会)』という画期的なシステムは、瞬く間に世界中へ噂となって広まった。
後に、国同士の領土問題や紛争が発生した際、各国が武器を捨てて平和的に決着をつける国際的な平和祭典——いわゆる『世界平和スポーツ大会』へと発展していくのだが——当のルークはそんな未来を知る由もなく、今日も仲間たちとともに爽やかな風を切って、楽しい冒険を続けているのであった——。




