運だけで悪徳領主を懲らしめたら、理想の平等都市が誕生しました
「ふあぁ〜……今日もお天気が良くて、風がとっても気持ち良いなぁ!」
「はい、ルーク様! 白銀の天馬アルシオンの走りも実に滑らかでございますね!」
相変わらずな会話をする2人を乗せた空飛ぶ馬車は、眼下に広がる広大な街道と青々とした田園風景を抜け、大きな外壁に囲まれた立派な都市の近くへと向かって飛んでいた。
「あっ、アイリス! 見てごらん、すごく大きな町が見えてきたよ!」
「本当でございますね。立派な外壁と立ち並ぶ建物……この地方でも有数の規模を誇る大都市のようでございます」
「よしっ! 今日の夜は、あの大きな町で美味しいものでも食べようよ!」
御者台のボルトが手綱を引き、空飛ぶ馬車は町の入口近くの静かな林の中へと着陸したのだった。
◇
馬車を降り、立派な外壁の門をくぐって町へと足を踏み入れたルークとアイリス。
街並みは新しく、大きな建物がいくつも立ち並ぶ大都市であったが——歩いている町民たちの表情は、なぜか誰も彼もが重く暗く沈み込んでいた。
「あれ……? なんだかみんな、元気がないね……?」
ルークが不思議そうに首を傾げていると、アイリスも周囲を警戒するように視線を巡らせた。
「ええ……街自体は栄えているように見えますが、活気というものがまるで感じられませんね」
とりあえずお腹を満たそうと、二人は通り沿いにある賑やかそうな『大衆食堂』へと入った。
店内にはたくさんの客が座っていたが、注文する料理の数は少なく、会話も小声でヒソヒソと交わされ、全体に重苦しい空気が漂っていた。
二人は空いているテーブル席につき、置かれていたメニュー表を開いた。
その瞬間——ルークとアイリスは、揃って目を丸くして驚愕した!
「ええぇぇぇーーーっ!? アイリス、見てこれ! ジュースもスープもパンも、とても高いよ!?」
「な……なんですと……!? 普通の大衆食堂のメニューとしては、相場の倍以上の高値でございます……!」驚く二人のもとへ、店主の男性がお水を持って申し訳なさそうにやってきた。
「客さん、驚かせてしまって申し訳ないねぇ……。だが、うちの店のメニューの値段は、決してぼったくりじゃないんだよ……」
「えっ? どうしてこんなに値段が高いんですか? 料理は特別な最高級食材を使っているんですか?」
アイリスが尋ねると、店主は悲しそうに首を横に振り、声を潜めて語り始めた。
「いいや、食材自体はどこにでもあるごく普通の家庭料理だよ。……だがね、この町を治めている領主様が、とんでもない悪政を行っていてね……。数年前から民衆や店に課す税金を何倍にも跳ね上げたんだ。おかげで仕入れ値も物価も跳ね上がり、料理の値段をここまで高くしないと、店を維持していくことすらできないんだよ……」
「ええっ!? 重税のせいで料理の値段がそんなに上がっちゃってるの!?」
ルークが驚くと、店主は深く溜め息をついた。
「ああ……。集めた巨額の税金で、領主様は自分の屋敷を豪華に改築し、高級な宝石や珍しい宝物を買い漁って毎日贅沢三昧……。おかげで俺たち庶民は、日々の食事すら満足に食べられず、毎日生きていくのが精一杯なんだ。民衆の怒りはすでに頂点に達しているんだよ……」
「そんなひどい領主なら、町のみんなで抗議したりしないんですか?」
アイリスが尋ねると、店主は顔を歪めて首を横に振った。
「それができないんだよ……。領主様には直属の『町の自警団』がついていてね。領主様から高い給料と特権を与えられて甘い汁を吸っている自警団の奴らが、領主様に意見しようとする者を暴力で押し潰し、吊るし上げてしまうんだ。おかげで誰も文句が言えないのさ……」
店主が運んできた『普通の野菜スープと焼きたてパン』を食べると、味自体は店主の真心がこもったとても美味しい料理であった。しかし、その料理一つ食べるのにも庶民が血の滲む思いをしなければならない現状に、ルークは胸を痛めた。
(……領主様が甘やかした自警団を使って、町を押さえつけているんだね。本当にそんなにひどい領主なのか、僕の目で一度確かめてみないと分からないな……)
そう考えたルークは、腰のポーチから『変化のマント』を取り出したのだった。
◇
「アイリス、ちょっと僕、領主様のお屋敷に行って確かめてくるよ!」
「ルーク様、お一人で大丈夫ですか?」
「うん! 変装して商人になりすまして行くから、平気だよ!」
ルークは『変化のマント』を羽織り、一瞬にして立派な服を着た高級商人の姿へと変身した!
そして、これまでの冒険で獲得し、馬車のストレージに保管してあった大量のダンジョン・モンスターのドロップ品を革袋に適当に詰め込むと、領主の豪華な屋敷へと向かった。
領主宅の大きな門を叩き、「珍しい宝物を持って参りました商人です」と告げると、守衛はあっさりとルークを内部へと通した。
案内された応接間は、眩いばかりの金銀財宝や豪奢な調度品で埋め尽くされ、何十人もの召使やメイドたちが慌ただしく働いていた。
そこへ、ブクブクと太った派手な衣服を着た領主の男が、横柄な態度で現れた。
「ふむ……珍しい宝物を持ってきた商人とはお前のことか?」
「はい、領主様! 滅多にお目にかかれないレアな魔導宝珠や宝物ばかりでございます!」
ルークが袋からジャラジャラと宝珠や魔導書をテーブルの上に並べると、領主は目を輝かせて身を乗り出してきた!
「おお……! これは……凄まじい魔力を秘めた古代の極大魔法宝珠ではないか! 素晴らしい! 一体いくらだ!?」
ルークが適当な高額の値段を提示すると、領主はお金に一切頓着しない様子で、ジャラジャラと金貨の入った袋を次々と放り出してきた。
「良し、買い取ろう! これも、それも、全部だ! 金を惜しむつもりはないぞ!」
商談があっさりと終わると、領主は満足そうに酒杯を傾け、ルークを食事に誘った。
「商人よ、より取引だった。お礼に我が屋敷の食事をごちそうしてやろう!」
運ばれてきた料理は、最高級の肉料理や溢れんばかりの新鮮な海鮮、見たこともない高級果実の山など、町民たちが高い金を払って普通のスープを飲んでいるとは到底思えない、目を見張るほどの超豪華なディナーであった。
(……なるほどなぁ。本当に街の税金を使って、自分だけ贅沢三昧をしてるんだね。これじゃあ町民のみんなが怒るのも当たり前だ……)
自らの目で領主の悪政と贅沢ぶりを確認したルークは、心の中で静かに頷いたのだった。
◇
領主宅を出て、街の静かな場所に待たせてあった空飛ぶ馬車へと戻ったルーク。
「ルーク様、お帰りなさいませ! 領主はどのような人物でしたか?」
待っていたアイリスに、ルークは屋敷での一部始終を話した。
「本当にひどい贅沢ぶりだったよ。町民のみんなから集めた重税で、高級な宝物を買い漁って、一人で美味しいものを食べ尽くしてたんだ……」
アイリスが憤りに表情を硬くした。
「許せませんね……! ルーク様、私が今すぐあの領主と悪徳自警団を成敗してまいりましょうか!?」
「う〜ん、僕たちが力ずくで懲らしめるのは簡単だけど……ただ倒すだけじゃ意味が無いと思うんだよね」
ルークは首を横に振った。
「僕たちが領主を倒しても新たな悪徳領主出てきたり、自警団が暴れ出したりして、結局町のみんなが困っちゃうと思うんだ。だからね……町のみんながこれから自分たちの力で、平和で平等に暮らせるような仕組みを作ってあげたいんだ!」
「なるほど……! 流石はルーク様、どこまでも町民の方々の将来を考えられているのですね!」
アイリスが胸を打たれる中、ルークはニコリと微笑んで言った。
「よーし! それじゃあ、ひと仕事しようか! 出てきて、ヴォルカ!」
ルークが呼びかけると、足元の影がゆらりと揺らめき、真っ赤な巨大龍『ヴォルカ』が影の中から姿を現した!
ルークは手に杖を持ち、再び『変化のマント』を深く羽織った。
一瞬にして、ルークの姿は漆黒のローブを身に纏い、顔を不気味な仮面で覆った恐ろしい**『闇の魔法使い』**へと変身したのである!
「よしっ、ヴォルカ! 街の上空へ飛ぼう!」
ルークを背に乗せたヴォルカは、力強く羽ばたき、漆黒の夜空へと舞い上がったのだった!
◇
夜の帳が降りた町の上空。
突如として、巨大な影が街の月光を遮った!
真っ赤な魔龍ヴォルカが、凄まじい羽音とともに街の上空を縦横無尽に旋回する!
そして、豪華な領主宅の目と鼻の先で待機していたアイリスが、喉が張り裂けんばかりの大声で叫び声をあげた!
「大変だーーーッ!! ドラゴンに乗った恐ろしい『闇の魔法使い』が攻めてきたぞーーーーッ! 屋敷が襲われるぞーーーっ!!」
アイリスの迫真の演技が街中に響き渡り、領主宅の召使や町民たちが一斉にざわめき立った!
「な、なんだと!? ドラゴンだと!?」
騒ぎを聞きつけた太っちょの領主が、慌てて二階の広いベランダへと飛び出してきた。
すると、まさにその目と鼻の先の空中に、巨大な口から蒸気を吹き出す真っ赤な龍ヴォルカが滞空しており、その背には怪しげな黒いローブを纏った『闇の魔法使い』が冷たい眼光を放って跨がっていたのである!
「ひっ……ひえぇぇぇぇーーーっ! ほ、本物のドラゴンと魔法使いだとーーーっ!?」
腰を抜かす領主に向かって、ルークは低く重々しい不気味な声を響かせた!
「……愚かな人間よ、よく聞くが良い……! この地はかつてより、我ら『闇の住人』の神聖なる土地であったのだ……! 人間どもが好き勝手に荒らすことは許さん……! 今すぐこの屋敷と街を解放せよ……さもなくば、命は無いぞ……!!」
恐ろしい宣告に、領主はガタガタと全身を震わせながら、階下の自警団に向かって叫んだ!
「自警団! 何をしている、早くあの化け物どもを撃ち落とせぇぇぇーっ! 倒した者には金貨100枚を与えるぞーっ!」
金に目がくらんだ悪徳自警団の男たちが、一斉に弓矢や長槍を構え、上空のヴォルカとルークに向かって放った!
数百本の矢と槍が、雨あられと襲いかかる!
……が!
『カンカンカンカンッ!!』
レベル999超のルークと、伝説の巨龍ヴォルカの皮膚に対し、人間が射た矢や槍など蚊が刺したほどのダメージにもならない! すべての攻撃はパキパキと虚しく弾け飛び、地表へと落下していった!
「な……効いてない!? 矢も槍も全く効かないぞーーーっ!?」
恐怖に引きつる自警団に対し、ルークは闇の魔法使いとして手を天へと掲げた!
「身の程を知れ……! 『極大雷界呪』!!」
ルークが威嚇のために上空の雲に向かって放った極大雷魔法が、漆黒の夜空を一瞬で真昼のように激しく照らし出し、無数の稲妻の閃光が街全体を激しく激震させた!
さらにヴォルカが上空に向かって咆哮し、凄まじい火炎ブレスを噴き上げる!
夜空が真っ赤に染まり、街全体が逃げ場のない猛烈な熱気と圧迫感に包み込まれた!
「ひ……ひぃぁぁぁぁーーーーっ!? 勝てるわけねぇぇぇ!! 逃げろーーーっ!!」
自分たちの攻撃が一切通じず、天を割る雷と火炎の圧力を前に、金目当てだった悪徳自警団の男たちは武器を放り出し、悲鳴をあげながら散り散りに逃げ出していった!
自分を守る自警団が一瞬で全滅したのを見た太っちょ領主は、顔を真っ青にして悲鳴をあげた!
「ひ、ひえぇぇぇ! 助けてくれぇぇぇーーーっ!」
領主は慌てて屋敷を飛び出すと、召使も乗せずに自ら豪華な馬車の御者台に飛び乗り、鞭を狂ったように振り回して町の外へと逃走を始めた!
「待てぇぇぇ……! 逃がさんぞ……!」
闇の魔法使い(ルーク)と魔龍ヴォルカは、悪徳領主が二度とこの町に戻ってこないよう、執拗に後ろから追いかけ回した!
「ひえぇぇぇ! 追ってくるなーっ! もう二度とこの町には近づかないから助けてくれぇぇぇーーーっ!」
悲鳴をあげながら、領主の馬車は彼方へと爆走し、二度と町へ戻ってこられないほど遠くへ逃げて行ったのだった。
◇
悪徳領主と悪徳自警団が完全に逃げ出し、静まり返った町。
何が起こったのか理解できず、あ然と立ち尽くしていた町民たちの前に、上空から再び魔龍ヴォルカと闇の魔法使いが静かに舞い戻ってきた。
ルークは低く重々しい声を、町全体へと響かせた。
「……町民どもよ、よく聞くが良い。ここは我ら『闇の従者』の土地である。……もし、お前たちがこれからもこの地に住み続けたいと望むのであれば……我が課す『絶対のルール』に従うが良い……!」
町民たちが息を呑んで見上げる中、ルークは宣告した。
「一つ! 逃げた領主の残した財産は、町民全員で『平等に分配』すること! 一つ! 誰一人として欲をかかず、互いに喧嘩をせず、穏やかに協力し合って暮らすこと! ……もし、再び欲に目がくらみ、他人を苦しめる者が現れたならば……我は再びこの地を訪れ、街を完全に滅ぼすであろう……!!」
恐ろしい『闇の警告(という名の優しい約束)』を残すと、闇の魔法使いとドラゴンは、夜空の彼方へと颯爽と飛び去っていったのだった。
◇
翌朝——。
悪徳領主と自警団がいなくなった町には、昨夜の嵐が嘘のような快晴の青空が広がっていた。
町民たちは恐る恐る領主の屋敷へ集まり、残された莫大な金品や食料を確認した。
「闇の魔法使い様の言った通り……財産をみんなで平等に分け合おう!」
「重税も廃止だ! これで料理の値段も、普通の安い値段に戻せるぞ!」
「もう誰も威張らない、誰も苦しまない、みんなで助け合う町にしよう!」
町民たちは領主の財産を一人残らず平等に分配し、重税を撤廃。物価も正常に戻り、みんなで協力して街を運営する新たな仕組みを作り上げた。
変装を解き、再び普通の一面として町を訪れたルークとアイリスは、活気と笑顔を取り戻した食堂で、適正な安い価格に戻った美味しい料理をお腹いっぱい楽しんだ。
「ルーク様、本当に素晴らしい解決法でございましたね! 領主を追い払うだけでなく、町民の方々に平和な共生の仕組みまで作られて……!」
アイリスが感動の面持ちで微笑むと、ルークはジュースを飲んでへらっと笑った。
「へへっ、みんなが笑顔になってくれて良かったよ!」
二人は大満足で食堂をあとにし、再び空飛ぶ馬車に乗って、次の街へと出発したのだった。
——なお、この時ルーク(闇の魔法使い)が残したルールによって生まれた『誰もが平等で、物価も安定した争いのない平和な街』の噂は、瞬く間に世界中へ広まった。
後に、過酷な政治や重税に悩む世界中の人々や領主たちがこの町を訪れ、その画期的な共生システムを学ぶことで、世界中で新たな「平等都市モデル」として大ブームになっていくのだが——当のルークはそんな未来を知る由もなく、今日も仲間たちとともに爽やかな風を切って、楽しい冒険を続けているのであった——。




