運だけで荒れ果てた村に行ったら、自然再生事業に進化しました
「ふあぁ〜……雲ひとつない青空で、今日もとっても気持ちが良いなぁ!」
「はい、ルーク様! 街道を渡る風も爽やかで、絶好の旅日和でございますね!」
白銀の天馬アルシオンが引く空飛ぶ馬車は、眼下に広がる広大な大草原を悠々と滑空していた。
ふかふかのソファで冷えた果実ジュースを楽しんでいたルークであったが、ふと馬車の窓から地上の様子を見下ろし、首を傾げた。
「あれ……? アイリス、見てごらん。あそこに小さな村があるけど……なんだか全然元気がないみたいだね?」
アイリスが窓から視線を落とすと、見渡す限りの枯れた黄土色の草原の真ん中に、ポツンと小さな集落が佇んでいた。
村の建物は古びて寂れ、畑はカラカラに干からびており、歩いている村人たちの足取りも重く、全体にどんよりとした重苦しい雰囲気が漂っていた。
「本当でございますね……。周りに木々や川も見当たりませんし、ずいぶんと困窮しているように見受けられます」
「よしっ! ちょっと降りて、様子を聞いてみようよ!」
御者台のボルトが手綱を引き、空飛ぶ馬車は村の入口近くの広場へと静かに舞い降りたのだった。
◇
村に入ったルークとアイリスは、とりあえずお昼ご飯を食べようと、村で唯一と思われる小さな食堂に入った。
しかし、店内には他にお客の姿はなく、奥から出てきた店主の男性は、申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「いらっしゃい……と言いたいところなんだがね、旅のお方。申し訳ないが、うちの食堂では今、お出しできる料理が何も無いんだよ……」
「えっ? お出しできる料理が無いんですか?」
アイリスが驚いて尋ねると、店主は力なく溜め息をついた。
「ええ……。見ての通り、この村の周りには森が無いから、木の実や果物は一切採れない。土地にも全く栄養が無くてね、畑で野菜を育てても親指ほどの大きさにしか育たないんだ。木の実や草木が無いからネズミやウサギみたいな小動物もおらず、それを狩る大きな肉食獣も近くには寄り付かない」
店主は外の干からびた景色を悲しそうに見つめた。
「近くに川や池も無いから魚も捕れない。水といえば村の中央にある古い井戸だけだが、その水量も年々減る一方なんだ……」
「うわぁ……それはすごく大変だね……。でも、なんでこんな大変な場所に村があるの?」
ルークが素朴な疑問を口にすると、店主は過去を振り返るように遠い目をした。
「昔はね……この村のすぐ近くまで豊かな森が広がっていたんだよ。だが何十年か前、遠く離れた場所に大きな街が出来た時、建材や燃料にするためにこのあたりの木々が残らず伐採されてしまってね……。結果として、木々が失われた土地は干上がり、こんな枯れた草原地帯になってしまったんだ」
店主は悔しそうに拳を握りしめた。
「ご先祖様から代々受け継いできたこの土地を離れられず、今日までなんとか凌いできたが……もう限界だ。このままここで飢えて死に絶えるか、住み慣れた村を捨てて街へ引っ越すかという、切羽詰まった状況なんだよ……」
「そっか……。それじゃあ、僕たちが何とかしてあげるよ!」
ルークはパッと明るい笑顔を浮かべて言い放った。
「えっ……? なんとかって……一体どうやって……?」
ポカンとする店主をあとに、ルークとアイリスはさっそく村の裏手にあるカラカラに乾いた畑へと向かったのだった。
◇
「う〜ん、確かに土がパサパサで、栄養が全然無さそうだなぁ」
ルークは干上がった畑の前に立つと、腰のポーチから神秘の宝珠を取り出した。
「よしっ! まずはこれを使ってみよう! 『浄化の宝珠』!」
ルークが畑の中央に浄化の宝珠を置くと、宝珠から神聖な光が放たれ、干からびていた土壌が一瞬で清らかな大地へと浄化された!
芽の出ていなかった野菜や果物の苗が、芽を出し、一瞬でツルを伸ばして成長していく!
「な……なんと! 一瞬で苗が成長いたしましたぞ!」
集まってきた村人たちが歓声をあげた……が、実ったトマトやニンジン、リンゴの実を見ると、どれもゴルフボールほどの小ささでカサカサに縮んでいた。
「あちゃ〜……。土地は浄化されたけど、やっぱり土の中の栄養(灰や窒素、カリウム)が決定的に足りないから、実は小さいままだねぇ……」
ルークは腕を組んでうーんと唸った。
……その時であった!
ルークの頭の中に、転移前にテレビか本で見た記憶が、ふっと閃いたのである!
(あ……! そうだ! 枯れ草や落ち葉、木の枝を焼いてその『灰』を混ぜ込むことで、土に圧倒的な栄養を与える方法だ!)
「よーし! ひらめいたぞ! アイリス、ボルト、ヴォルカ! ちょっと森まで素材集めに行こう!」
ルークは空飛ぶ馬車をひとっとびさせ、数キロ離れた深い森へと向かった。
森に到着すると、機械人形のボルトと一緒に、落ちている大量の枯れ木、木の枝、乾いた落ち葉を凄まじいスピードでかき集めた!
それらを馬車いっぱいに積み込んで村の畑へと持ち帰り、畑全体にまんべんなく敷き詰めたのだった。
「ヴォルカ、お願い! 弱めの炎で、これをサッと焼いてくれる?」
真っ赤な巨大龍ヴォルカが口から繊細な火炎ブレスを吹き吐き、畑の上の枯れ葉や枝を一気に焼き払う!
チリチリと燃え上がった枯れ木や落ち葉は、上質なミネラルと栄養を豊富に含んだ漆黒の『草木灰』となり、畑の土壌へと隙間なく混ざり込んでいった!
「よしっ! ここに野菜や果物の種を撒いて……もう一度『浄化の宝珠』!」
再び宝珠が神聖な光を放った——その瞬間であった!
栄養満点の灰を吸い上げた畑から、まるまる肥えたトマト、ナス、瑞々しく実った大粒の果実たちが、地破らんばかりの勢いで大量に実り弾けたのである!
「う……うわあぁぁぁぁーーーっ!?!? なんだこの巨大で美味そうな野菜や果物はぁぁぁーーーっ!?」
村人たちが目を限界まで見開いて大腰を抜かした!
「ふぅ〜! これで野菜と果物の問題は解決だね!」
◇
「よしっ、次は『水』の問題だね!」
ルークは村の地図を見渡し、数キロ先に大きな川が流れているのを確認した。
「数キロ先の川から、この村まで水を引いてくれば解決だよね! ……そうだ! ボルトなら、川からここまで水路を掘れるんじゃないかな?」
以前機械人形で学校と宿舎を作ったのを思い出し、ボルトのその精密かつ超高速な作業能力なら、水路の掘削などお手の物のはずだと考えた。
ルークは村の道具屋で頑丈な金属スコップを買ってくると、ボルトに手渡した。
「ボルト、川に向かって溝を掘っていってくれる?」
ボルトはコクリと頷くと、スコップを手に川の方角へ向かった。
次の瞬間!
目にも留まらぬ残像のような超高速ステップでスコップを振るい、地上をザクザクと爆速で掘り進めていくボルト! まるで重力掘削機のような凄まじいスピードで、一瞬にして一本の見事な水路の溝が川へ向かって伸びていったのだった!
「すご〜い! さすがボルトだね!」
「さて、次は引いてきた水を受け止める『巨大な池』を作らなくっちゃ!」
ルークは手に持った杖を掲げ、【魔法使い】の姿へと変身した!
「えーっと……まずは地面を柔らかくして爆砕するよ! 『極大雷界呪』! 『極大炎界呪』!!」
ドドドカァァァァンッ!!
天から降り注ぐ雷光と業火の魔法が、村の広場横の不毛な大地を直撃! 頑丈だった地盤が一瞬で細かく粉砕され、柔らかく解解された!
「仕上げは……『極大風界呪』!!」
ズババババァァァンッ!!
真空の超大嵐が吹き荒れ、軟化した大量の土砂を一気にごっそりと吹き飛ばした!
あとに残されたのは、直径数十メートル、深さ数メートルにおよぶ、見事なまでに巨大で綺麗な『人工池』の大穴であった!
村人たちは開いた口が塞がらず、ただただ口をぐうぐうと開けて固まっていた。
◇
「次は『牧場』の建設に取り掛かろう!」
ルークは巨大龍ヴォルカに手伝ってもらい、少し離れた森から建材となる太い木材を何本も調達してきた。
ヴォルカは大きな口で器用に木材をくわえて村まで運んでくれ、ルークとアイリスがそれを削って杭にし、整然と打ち込んでいくことで、あっという間に広大な『牧場の柵』が完成した!
「よしっ! 今度は牧場に入れる動物たちを捕まえに行こう!」
ルークは長くて頑丈なロープを手に取ると、白銀の天馬アルシオンの背に跨がった!
「アルシオン、森へ行こう!」
『ヒヒヒ〜ン!』
疾風のごときスピードで森へ飛んだルークは、森の開けた場所で草を食んでいた大型の草食動物(野生のウシやヤギの群れ)を発見した!
「えいっ!」
ルークがロープの先端に輪っかを作り、カウボーイのようにぐるぐると回して投げる!
すると、ルークの持つ【運∞】の力で、普通なら当たるはずもない遠距離から放たれたロープが、まるで意志を持っているかのように空中を滑空し、一発で野生の草食動物の首元にスッとはまったのである!
「うわっ、一発でかかった! 次はあっち! えいっ! えいっ!」
投げれば当たる奇跡の投げ縄により、ルークはわずか数分で10頭もの大型草食動物をノーミスで捕獲してしまったのだ!
村まで連れて帰り、完成した牧場の柵の中へと放す。
「ふぅ〜! これで牧場の完成だよ! 乳を搾れば美味しいミルクが飲めるし、子供が生まれればどんどん増えていくはずだよ。……少しかわいそうな気もするけど、いっぱい増えたらお肉も頂けるからね」
ルークは村人たちに『投げ縄の結び方と投げ方のコツ』を親切に指導し、自分たちで森に行って動物を補充できるように教えてあげたのだった。
◇
そうこうしているうちに、川から溝を掘り進めていたボルトが作業を終え、巨大な池へと繋がった。
「ボルト、ありがとう! アイリス、川の堰を壊しに行こう!」
川の途中に作っていた土止めを壊すと、川から清らかな水が勢いよく水路へと流れ込んだ!
ドドドドド……ッ!!
水路を滑るように駆け抜けた水は、ルークが極大魔法で作った巨大な池へと勢いよく流れ込み、あっという間に波なみなと水を取りたたえた美しい池が完成したのである!
「ああっ! アイリス、見てごらん! 池の中に魚がいるよ!」
水と一緒に、川から流れてきた大きな魚たちが何匹も元気に泳いでいた。
「ルーク様、魚まで流れてまいりましたね!」
「うん! 村のみんなには後で釣りの仕方を教えてあげるね! あと、水路の出口に柵をしておけば魚が逃げないから、エサを与えて池で育てる『養殖』をするのもおすすめだよ!」
さらにルークは、完成した水路の周囲に木々の苗木を何本も植樹した。
「仕上げに……もう一度『浄化の宝珠』!」
宝珠が神聖な光を放つと、苗木が一気に大木へと急成長し、水路に沿って青々とした美しい『林』があっという間に形成されたのである!
「これで日陰も出来たし、もうすぐここに鳥や動物たちも帰ってくるはずだよ!」
その言葉通り、完成した清らかな池を目指して、空からたくさんの渡り鳥(野生の鴨や水鳥)がバシャバシャと舞い降りてきたのだった!
「あっ、渡り鳥だ! アイリス、大きな網を作ったから、挟み撃ちにして捕まえよう!」
ルークは大きな捕獲網を作ると、四方を村人たちに持たせ、池の片側から二人が走って鳥の上から網をバサッとかぶせることで、見事に大量の渡り鳥を傷つけずに捕獲してみせた!
「こうやって捕まえれば、美味しいお肉や卵が手に入るからね!」
◇
わずか一日足らずの間に——。
カラカラに干上がっていた不毛の村は、瑞々しい大粒の野菜と果物、牧場の美味しいミルクとお肉、池で獲れる新鮮な魚、林の木の実、そして渡り鳥の肉と卵がすべて手に入る、世界一豊かな『自給自足の黄金郷』へと劇的な大変貌を遂げたのである!
「う……うあぁぁぁぁ……っ!! なんということだ……!! 夢だ……夢を見ているようだ……っ!!」
村長をはじめ、村人全員が涙を流して地面にひざまずき、ルークに向かって何度も何度も手を合わせた。
「貴方様は我が村の……いや、生きとし生けるすべての命の恩人です……!! 感謝しても、感謝しきれません……!!」
「あはは! 喜んでもらえて良かったよ! もうしばらくすれば、もっと食材も充実して賑やかになるからね!」
ルークは爽やかな笑顔で手を振ると、感謝の涙を流す村人たちに見送られ、再び仲間たちとともに空飛ぶ馬車へと乗り込んだ。
「さあ、アイリス! 次の街へ出発だーっ!」
「はい、ルーク様! どこまでも、どこまでもお供いたします!」
白銀の天馬アルシオンが羽ばたき、風を切って大空へと颯爽と走り出す馬車。
ふかふかのソファで冷えたジュースを飲みながら、笑顔で乾杯するルークとアイリス。
——なお、この時ルークが村で行った『焼畑による土壌改良』『魔法と水路による水系確保』『生態系を呼び戻す植樹と養殖』という一連の自然再生手法は、瞬く間に世界中へ噂となって広まった。
後に、同様に土地の荒廃や飢餓に悩む世界中の町や村から多くの人々がこの村を訪れ、ルークの編み出した手法を学ぶ新たな『自然再生事業』へと発展していくのだが——当のルークはそんな未来を知る由もなく、今日も仲間たちとともに気ままな旅を楽しんでいるのであった——。




