運だけで快適な護衛旅を終え、魔法戦士になりました
Cランクに昇格した翌日、僕とアイリスは今後の方針について話し合っていた。
「ルーク様のおかげで私は命を拾いましたが、今の私の実力はまだDランク……このままではルーク様の足引っ張りになってしまいます。私も早くレベルを上げなければいけません」
アイリスの言う通り、彼女のレベルを上げるにはモンスターとの戦闘経験を積むのが一番だ。 手っ取り早いのは、モンスターが数多く生息するダンジョンに潜ることだった。
だが、一度ダンジョンに入れば簡単に街へ戻ることはできない。 体力を回復し、万全の状態で探索を続けるためには、回復魔法をはじめとしたサポート系魔法の習得が不可欠だった。
戦士であるアイリスは魔法を一切使えない。 消去法で、僕が回復魔法を覚える必要があった。
僕たちは確認のため冒険者ギルドへと向かった。 冒険者カードに記載されている僕の役職欄を見ると、そこは「空欄」になっていた。
受付の女性に尋ねると、首を傾げながら解説してくれた。 「役職が『空欄』……要するに無職ということですね。特定の得意分野を持たない代わりに、デメリットなしでどんな役職の適性もそれなりにこなせる珍しいタイプです」
2人パーティのうち1人が純粋な戦士であるアイリスだ。 僕が目指すべきは、物理攻撃をベースにしつつ攻撃魔法や回復などの補助魔法も扱える「魔法戦士」だった。 ソロや少人数パーティでは重宝される万能な役職である。
「魔法使い専門の職に比べれば魔法の威力的には劣りますが、剣も振れて回復も使える魔法戦士は非常にバランスが良いですよ」
受付の言葉を聞き、世の中うまくできているものだと感心しながら、僕はギルドで「魔法戦士」のジョブ登録を行った。
◇
次に向かったのは、以前もお世話になった魔導書を扱う店だった。
「すみません、回復系の魔法を覚えたいのですが……」
カウンターで店主に尋ねると、彼は困ったように眉を下げて頭を振った。
「あいにくですね、現在当店にはCランクレベルに相当する回復系の宝珠の在庫が無いのですよ」
店主の説明によると、回復系の宝珠は薬草が群生する地域に住み、その薬草を主食とするモンスターからしかドロップしないらしい。 その地域は街から少し離れた場所にあり、遠距離の移動を覚悟する必要があった。
「弱ったな……わざわざ遠くまで歩いて探しに行くしかないのかな」
途方に暮れながらギルドの掲示板へ戻ると、驚くべき依頼が目に入った。
【クエスト名:薬草採取の商人護衛】
【ランク:Cランク対象】
【内容:薬草群生地までの往復移動における馬車の護衛】
あまりの都合の良さに、僕は目を疑った。 まさに今から僕たちが行きたい目的地へ向かう商人が、護衛を募集していたのだ。 なんて運が良いのだろうと感心しながら、僕は即座にそのクエストを受注した。
◇
街道の移動は驚くほど快適だった。
本来なら野盗やモンスターが頻繁に出没する危険な道のりだ。
だが、僕たちの馬車の周囲には、まるで結界でも張られているかのように敵影が一切現れなかった。
商人は何度も周囲を見回しながら呟いた。
「こんなに安全な道中は初めてですよ……」
危険な気配すら一切感じないまま、馬車は予定通り目的地である薬草の群生地へと到着した。
現地に着くと、商人のお抱え従者たちが手際よく薬草の採取を始めた。 僕とアイリスが周囲の警戒にあたっていると、草むらが大きく揺れて1体のモンスターが飛び出してきた。
鋭い爪と翼を持つ、緑色の肉体をした小型の魔獣だった。
「ルーク様、モンスターです!」
「任せてください!」
僕は手に入れたばかりの小剣を構え、昨日習得したばかりの中級魔法を発動させた。
「火炎弾!」
僕の手元から放たれた炎の弾丸が、一直線にモンスターの胸元へと命中する。 直撃を受けたモンスターは激しい炎に包まれ、悲鳴を上げる間もなく倒れ伏した。
実はこのモンスターは火属性に極めて弱い風属性の種族だったらしく、覚えたての中級魔法1撃で完全にノックアウトしてしまったのだ。
息絶えたモンスターは静かに光の粒子となって消滅した。 その跡地には、緑色に透き通った丸い宝珠がぽつんと残されていた。
「おお、見事な腕前ですね! それは間違いなく、薬草を食べて育った魔獣が残す回復系の宝珠ですよ」
同行していた商人が教えてくれた。
僕はあらかじめ魔導書屋で購入しておいたレベル50の回復系魔導書を取り出し、手に入れた宝珠をセットして習得の試練を行った。
宝珠がやわらかな光を放って消滅し、僕の冒険者カードの表示が更新される。
【習得魔法:中級治癒】
【使用可能(必要レベル:50以上)】
狙い通りの回復魔法を一発で習得することができ、僕は胸を撫で下ろした。
帰り道もモンスターの襲撃を受けることは一切なく、馬車は無事に街へと到着。僕たちの初護衛クエストは完璧な形で終了した。
◇
その日の夜、確保した宿屋の食堂で夕食を摂りながら、僕はふと気になっていたことをアイリスに尋ねた。
「アイリスさんは、どうしてそこまでして魔王討伐を目指しているんですか?」
僕の問いに、アイリスは少し寂しそうな笑みを浮かべ、手に持ったコップを見つめた。
「……私の親友が、昔モンスターに殺されたんです」
静かに語られ始めた彼女の過去。
「その子は戦士の父親に憧れていて、将来は自分も立派な戦士になって世界を救うんだって、いつも笑顔で語っていました。でも……ある日、村を襲ったモンスターから私を庇って……」
アイリスはギュッと拳を握りしめた。
「親友の無念を晴らすための復讐と、彼女が叶えられなかった夢を代わりに果たすため、私は剣を取りました。だから私は、絶対に魔王を倒さなければならないんです」
まっすぐな瞳で理由を明かしてくれたアイリス。 彼女は真剣な眼差しで僕を見つめ直すと、深々と頭を下げた。
「ルーク様……勝手なお願いだとは分かっています。ですが、どうか魔王討伐まで私に力を貸していただけないでしょうか?」
元いた世界に良い思い出がなく、この異世界で特別な目的も持っていなかった僕。 それに、人からの頼み事を断るのが大苦手な性格だ。
なにより、目の前にいるのは息をのむほどの美少女である。 転生前の世界では女性と会話する機会すら存在しなかった僕にとって、彼女のような美少女と旅ができるのは密かにとても嬉しいことだった。
「……僕で良ければ、最後までお供させてください」
「本当ですか!? ありがとうございます、ルーク様!」
アイリスはぱっと表情を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。
◇
この世界のダンジョンは、放置しておくとモンスターの住処として増殖し、溢れ出したモンスターが街や村を荒らしたり、街道の旅人や行商人に危害を加えるといった深刻な被害をもたらす。
そのため、被害を未然に防ぐべく、街の盟主から定期的に「ダンジョン討伐」の依頼が出されるのだという。 危険が伴う分、得られる報酬やドロップ品も非常に魅力的なクエストだった。
翌日、僕たちは武器屋や道具屋を巡って装備と消耗品を万全に整えた。
準備を終えてギルドの掲示板へと向かうと、ちょうど良いクエストが出されていた。
【クエスト名:街道近くのダンジョン討伐】
【ランク:Dランク対象】
【内容:ダンジョン最下層に潜むボスの討伐】
「よし、このクエストを受けましょう!」
僕とアイリスは顔を見合わせると、ダンジョン攻略に向けて強く頷き合うのだった。




