運だけで冒険者ギルドに行ったら、大金とレベルMAXでギルドが騒然としました
魔王城での壮絶な戦い(という名の魔王の自滅と反乱)を経て、無事に魔王を生け捕りにし、人類と魔王軍との全面和平を成立させたルークたち。
王都への劇的な凱旋を果たし、国王から新たな称号『勇者』と、支度金としての【金貨1000枚】を賜った翌日——ルークとアイリスの2人は、王都の宿で、冷えた果実ジュースを手にしながらのんびりとした朝を迎えていた。
「ふぅ……なんだか怒涛の展開だったけれど、ひとまず魔王との戦いも平和に終わって本当に良かったよ」
「ええ、ルーク様。すべてはルーク様の神の如きご采配と、世界を平和へと導く強い御心のおかげでございます」
相変わらずの過剰な崇拝の眼差しを向けてくるアイリスに、ルークは照れくさそうに苦笑いを浮かべた。
「そういえばアイリス。国王さまから依頼された『太古の邪神の再封印』だけど、期限は『1年後』って言っていたよね?」
「はい。南の果てにある封印の地にて、邪神の封印が弱まりきるのがおよそ1年後とのことでございます」
「1年かぁ……。それなら全然慌てる必要もないし、まずは身の回りの整理から始めようか。……あ! そういえば僕たち、ダンゼルで50階層のダンジョンをクリアしたあと、忙しくて冒険者ギルドに報告に行ってなかったね!」
「おや、そうでございましたね。ダンジョン踏破の報告と、冒険者カードの更新を行わねばなりません」
「うん! それと、昨日国王さまから受け取ったこの超重たい金貨1000枚の袋も、持ち歩いてたら危ないからギルドに預けに行こう!」
ルークたちは仕度を整えると、王都の中央に鎮座する巨大な『冒険者ギルド本部』へと足を運んだのだった。
◇
活気に満ちあふれる冒険者ギルド本部の大きなホール。
大勢の冒険者たちが行き交う中、ルークとアイリスは以前お世話になった見知った女性受付嬢の窓口へと向かった。
「あっ、ルーク様、アイリス様! お久しぶりでございます! 無事にご帰還されたのですね!」
受付嬢は親しみやすい笑顔で2人を迎えてくれた。
「こんにちは! ダンジョンの攻略報告と、カードの更新、それとお金を預けに来ました!」
「かしこまりました! では、まずはお預かりするご資金のお手続きから承りますね」
ルークは「はい、これなんですけど……」と、肩に担いできたずっしりと重い革袋を、ドスンッ! とカウンターの上へ置いた。
袋の口が緩み、中から眩い黄金の光を放つ金貨の山が覗く。
受付嬢は一瞬、目を丸くして固まった。そして、おずおずと尋ねた。
「え……あの、ルーク様……? こちらの革袋には、一体いくらほど入っているのでしょうか……?」
「あ、国王さまからいただいた支度金で、金貨1000枚です!」
「「「き……ききき、金貨1000枚ーーーーっ!?!?」」」
ルークの軽い口調での言葉に、受付嬢だけでなく、後ろで聞き耳を立てていた周囲のベテラン冒険者たちが一斉に目玉を飛び出させて絶叫した。
「ば、バカな……!? 金貨1000枚だと……!? 小国の国家予算レベルの巨額だぞ!?」
「おいおい、以前あいつが預けた金貨600枚でもギルド史上最高額だって大騒ぎになったのに、その約倍だぞ!?」
ギルド内が蜂の巣をつついたような大騒ぎになる中、受付嬢はプルプルと震える手で魔法の計算機を操作し、ルークの口座情報を確認した。
「ヒ、ヒィ……! ……ルーク様のご口座情報を確認いたします! ……あっ! ルーク様、以前お預けになられていた金貨600枚ですが、ギルドの預金規約に基づき、1ヶ月ごとに『1%』の金利が発生しております!」
「えっ、金利ですか?」
「はい! 先月分の金利として【金貨6枚】が利息として自動加算されており、元の預金は606枚となっておりました! ……さらにですね!」
受付嬢が資料の束をめくりながら、思い出したように声をあげた。
「以前、ルーク様が温泉街でご登録された発明品——『温水シャワー』の特許権利につきまして、鍛冶屋協会から定期送金が届いております!」
「あ! 鍛冶屋さんに作ってもらったあのシャワーですね!」
「はい! あの温水シャワーが現在、王都や各都市の富裕層・冒険者の間で爆発的な大ヒット商品となっておりまして! 鍛冶屋協会から先月1ヶ月分として、ルーク様の口座に【金貨10枚】が振り込まれております!」
「ええっ!? シャワーの売上だけで金貨10枚も!?」
受付嬢は興奮冷めやらぬ様子で、最終的な合計金額を提示した。
「はい! ですので、「以前の預金600枚に、利息6枚とシャワーの売上10枚。そして本日お預かりした1000枚を加えまして……
合計、金貨1616枚でございます!」」
「い、1616枚……!?」
ルークは脳内で素早く暗算を行い、顔を青くした。
(待って待って……! この世界での金貨1枚は、普通の人間の『約1ヶ月分の生活費』だよね……? ということは……)
預金の金利(月1%):金貨1616枚に対して、毎月約16枚の金貨が自動で増える。
シャワーのロイヤリティ:毎月約10枚の金貨(変動あり)が勝手に振り込まれる。
(ということは……金利の16枚と、シャワーの10枚を合わせると……僕、何もしなくても毎月『金貨26枚』が勝手に手に入ってくるってこと……!?)
金貨26枚といえば、普通の人間の「26ヶ月分(2年以上)」の生活費である。
それが毎月、何もせず寝ているだけでも勝手に口座に転がり込んでくるのだ。
(うわぁ……! ただでさえ使い道に困ってるのに、毎月26人分の生活費が勝手に増えていくなんて……!本気でお金の使い道を考えないと、お金の山に埋もれちゃうよ〜っ!)
一人で頭を抱えて冷や汗を流すルークをよそに、受付嬢は続いて冒険者カードの更新作業へと移った。
◇
「ふぅ~!では続いて、ダンジョン踏破に伴う冒険者カードのデータ更新を行いますね。カードを専用の魔導具にお載せください」
「あ、はい! お願いします!」
ルークとアイリスがそれぞれの冒険者カードを水晶の台座へ置いた。
ぽわんと淡い光が灯り、魔導具が2人の最新データを読み取る。
次の瞬間——ポーン! という甲高いエラー音とともに、水晶玉が真っ赤な光を放ち始めた!
「 な、何事ですか!?」
受付嬢が慌てて表示された数値覗き込むと、その顔からスーッと血の気が引いていった。
「な……ななな……なんということでしょう……!!」
「えっ? 何か変な表示が出ちゃいましたか?」
ルークが心配そうに尋ねると、受付嬢はガクガクと膝を震わせながら、震える指先でカードの数値を指し示した。
【名前:ルーク】 【ランク:Sランク】 【レベル:999(LEVEL MAX)】
【名前:アイリス】 【ランク:Sランク】 【レベル:999(LEVEL MAX)】
「れ……【レベル999】ーーーーっ!?!? 限界突破表示ですーーーっ!!」
「「「な、なんだってーーーーっ!?」」」
ギルド内が一瞬にして静まり返り、次の瞬間、雷が落ちたような大歓声が巻き起こった!
「レベル999だと……!? おい冗談だろ!?」
「Sランク冒険者というだけでも世界に片手で収まるほどしかいないのに、レベル上限の999に達した奴なんて人類の歴史上聞いたことがねえぞ!!」
「これまでの歴史上の最高記録だって、レベル600台だったはずだろ……!?」
冒険者たちが狂喜乱舞する中、ルークは首をひねりながら受付嬢に尋ねた。
「あの、受付さん。僕たちレベル999になっちゃったんですけど……これからどれだけモンスターを討伐しても、もうレベルって上がらないんですよね?」
すると、受付嬢はハッと正気に戻り、大きく首を横に振った。
「いいえ、ルーク様! 実はそうではないのです!」
「えっ? そうじゃないんですか?」
「はい! 冒険者システム上、カードの表示上限は『999』で止まってしまいますが……これはシステムを作った魔導師たちが『人間がレベル999に達することなどあり得ない』という前提で作った規格なのです! 実際には、強さの限界値など存在いたしません!」
「へぇぇ! システムの表示限界だったんだ!」
「はい! ですので、カードの見た目の表示は『999』のまま変化いたしませんが、今後もモンスターを倒して経験値を積めば、ルーク様とアイリス様の攻撃力や防御力、魔力といった内部ステータスは無制限に上がり続けます!」
「なるほど〜! 表示が変わらないだけで、強さはちゃんと伸び続けるんだね!」
ルークは納得してポンと手を叩いた。
(そういえば……僕のステータス画面にある『運:∞』っていうのも同じなんだろうな。システム上の表示限界を超えているだけで、実際には僕の『運』のパラメータも、旅をする中でさらにどんどん伸び続けているんだな)
自身の規格外すぎる強さを再確認したルークは、(今後も折を見て、安全な場所でモンスター退治をして能力アップをしておこう)と心に決めるのだった。
◇
ギルドでの手続きを終え、ほっと一息ついたルークたちは、王都の街道に停めてあった馬車へと戻ってきた。
車内のふかふかソファに腰掛け、冷えた果実ジュースをゴクゴクと飲み干したルークは、ふと思いついたように向かいに座るアイリスへ話しかけた。
「ねえ、アイリス」
「はい、ルーク様。何でしょうか?」
「さっきギルドで預けたお金のことなんだけどさ。金貨1616枚もあるし、毎月不労所得で26枚も増えちゃうでしょ? だから……このお金、半分アイリスにあげても良いんだけどどうかな?」
ルークとしては、一緒に旅をして戦ってくれた大切なパートナーなのだから、山分けにするのは当然という感覚であった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、アイリスはハッと目を見開き、背筋をピンと伸ばして激しく首を横に振った。
「滅相もございません、ルーク様! そのような大金、私などがお受け取りできるはずもございません!」
「えっ? でも、半分あっても僕もお使い道に困っちゃうし……」
「ルーク様!」
アイリスは真剣な眼差しでルークの手を優しく包み込み、胸の奥からの溢れんばかりの感謝を口にした。
「私はルーク様と出会い、共に旅をさせていただいたおかげで、亡き友の仇である魔王の討伐という……一生をかけても果たせなかったはずの悲願を達成することができました。私にとって、ルーク様からいただいたその恩恵こそが、何物にも代えがたい十分すぎるほどの報酬でございます!」
「アイリス……」
「私の今後の目的はただ一つ。ルーク様のお傍でお仕えし、世界を救うルーク様のお手伝いをさせていただくことでございます! ですから、お金など一切必要ございません!」
あまりにも真っ直ぐで力強い忠誠の言葉に、ルークは「そ、そっかぁ……」と気恥ずかしそうに頬を掻いた。
(アイリスは本当に欲がないなぁ……。よし! それなら、これからの旅の途中でアイリスが欲しがるものや、美味しい食べ物、綺麗な洋服があったら、僕が全部買ってあげよう!)
ルークは心の中で密かにそう決意するのだった。
◇
「さてと! それじゃあアイリス、これからいよいよ『太古の邪神』が封印されている南の果てを目指して旅立ちだね!」
ルークが地図を広げると、アイリスが指で南の端を指し示した。
「はい、ルーク様。ここ王都から南の果ての『封印の地』までは、通常の馬車で移動した場合、およそ『3ヶ月』ほどの距離となっております」
「3ヶ月かぁ〜」
普通なら途方もない長旅であるが、彼らには伝説の天馬アルシオンが引く『空飛ぶ馬車』がある。
「アルシオンに頑張ってもらって、空を本気で飛べば……たぶん『2〜3週間』くらいで着いちゃうよね?」
「ええ、アルシオンの飛翔力をもってすれば、それほどの短期間での到着も十分に可能でございます」
ルークは顎に手を当てて考え込んだ。
(邪神の封印が弱まるのは『1年後』だし、急ぐ必要もないよね……。それに、ぶっ通しで空を飛び続けるのはアルシオンも疲れちゃうだろうしな)
ルークは旅行誌のような各地のマップを見つめながら、楽しそうに微笑んだ。
(どうせ時間に余裕があるんだから、急がず焦らず、途中にある色んな街や村を見て回りたいなぁ! 美味しいご当地グルメや、温泉みたいな観光地もあるかもしれないし!)
ルークは期待に胸を膨らませながら、アイリスに向き直った。
「ねえアイリス。これから南へ向かって旅をするけれど、時間がかかっても各地の街や村をのんびり巡りながら行きたいと思うんだけど……いいかな?」
アイリスはルークの言葉を聞いた瞬間、ハッと目を見開いた。
(……なんという素晴らしいお考え……! ルーク様は目的地へ急ぐことよりも、道中にある名もなき村々や人々に目を向けていらっしゃる……!)
アイリスの脳内で、ルークの何気ない提案が、いつものように壮大な深読みへと変換されていく。
(……そうです! 南へ向かう街道沿いには、モンスターの被害や貧困に苦しむ小さな村が数多く存在するはずです。ルーク様はあえて時間をかけ、各地で困っている人々を救い、希望を与えながら進む『世直しの旅』を行おうとされているのですね……! どこまでも慈悲深く、民を想う温かい御心……!)
アイリスは溢れんばかりの尊敬の念を込め、深々と頭を下げた。
「はい、ルーク様のご意向の通りに進めるのが、最も正しく素晴らしい道筋でございます! どこまでもお供いたします!」
「あはは、ありがとう!」
(南の美味いもの巡りと観光旅行、楽しみだなぁ〜!)と無邪気にワクワクするルークと、 (ルーク様による各地の世直しと救済の旅が始まるのですね……!)と使命感を燃やすアイリスであった。




