運だけで鉱山を浄化し、貴重な鉱石を見つけました
王都グランヴィルを国挙げての大パレードで見送られたルークとアイリスは、快適な馬車を進め、魔王城へと続く街道を順調に北上していた。
王都から離れるにつれて、大気に含まれる魔素の濃度がわずかに高まっていくのが感じられた。
それとともに生息する生き物たちの気配も少し重苦しいものへと変化しつつあった。
出発から数日が経過した頃、ルークたちは山あいの小さな村『コバルト村』へと到着した。
だが、村の広場に集まる人々はみな暗い表情を浮かべ、落ち込んだ様子で頭を抱えていた。
「あの、何か不吉なことでもあったのでしょうか?」
馬車を止めたアイリスが、村の集会場の前にいた村長らしき老人に声をかけた。
村長は深い呼吸とともに、山の斜面を指差しながら事情を語り始めた。
「ああ、旅の冒険者さんたちかい。実はね、うちの村の唯一の収入源である採掘鉱山が、数日前に発生した凶暴な魔物に占拠されてしまったんだよ。あの鉱山は地形的に局所的な魔素が溜まりやすい場所でね。魔物が急に強力になって、鉱員たちが全員追い出されてしまったんだ」
村長の話によれば、鉱山の中には鉄を喰らう巨大な怪物や地竜の類が居座り、村の誰も近づくことができないのだという。
その話を聞いたアイリスは、凛とした眼差しでルークを見つめた。
「ルーク様、王都周辺より少し魔素が濃く、歯ごたえのある魔物が生息している鉱山であれば、私たちのレベル上げには良い機会かと存じます」
(確かに、魔王城に近づきながらレベルを上げるっていう方針には合っているけれど……いきなりそんな危険そうな鉱山に入って大丈夫かな……)
ルークは心の中で密かに冷や汗を流した。
しかし、村人たちの困惑する姿とアイリスの期待に満ちた視線を前にして、断る選択肢は存在しなかった。
「そうだね。村のみなさんも困っているようだし、鉱山の様子を見に行ってみようか」
「まあ……! 危険を顧みず村のために動いてくださるなんて、ありがとうございます!」
村長たちの感謝の声に送られ、ルークとアイリスは村の裏手に位置する暗く巨大な坑道の入口へと足を踏み入れた。
◇
鉱山の内部は外気とは比べものにならないほど不気味な重圧感に満ちていた。
湿り気のある冷たい空気が肌を刺し、壁面に埋め込まれた不完全な魔導鉱石が、かすかな光を放っていた。
ルークとアイリスは慎重に坑道を進んでいった。
(やっぱり中は薄暗くて不気味だな。変な巨大モンスターと鉢合わせしたらどうしよう……)
表向きは静かに周囲を観察する落ち着いた動作を見せつつも、ルークの胸の内は焦りでいっぱいだった。
坑道を奥へと進んでいくと、やがてかつて鉱員たちが作業を行っていた広い採掘場へと出た。
そこには、鉱員たちが放置していった古い採掘道具や、鉱石を運ぶための木製のトロッコが残されていた。
まさにその時だった。
ルークの足元に転がっていた、錆びついた金属製の採掘道具。
薄暗い洞窟内で足元に気づかなかったルークは、それを勢いよく踏みつけてしまった。
(体勢が崩れる……!)
ルークは心の中で焦りながら体勢を崩した。
倒れそうになったルークは、咄嗟に横の岩壁へと手を伸ばして身体を支えようとした。
だが、ルークの手が偶然にも強く押し当たった場所には、急勾配の線路の上に停車していた木製トロッコの、古びたブレーキレバーが存在していたのだ。
ルークの手圧によって錆びたレバーが外れ、固定が解除された。
鉄の車輪が大きな音を響かせ、重厚な木製トロッコが傾斜のついた線路の上を恐ろしい速度で走り出した。
(えっ……何かすごい勢いで転がっていっちゃったんだけど!?)
ルークが心の中で呆然としていると、暗闇の先から低く不気味な咆哮が響き渡った。
最奥部の空洞から姿を現したのは、この鉱山を占拠していたボスモンスター『ギガントゴーレム』だった。
全身が硬い岩石で構成された巨大なモンスターは、侵入者に対して口から猛烈な火炎ブレスを吐き出そうと、体内の魔力を限界まで高めて火種を発生させた。
しかし、曲がり角から猛スピードで飛び出してきたトロッコの直撃を受け、モンスターは体勢を崩した。
さらに、衝撃で天井から落ちてきた爆発性の魔導鉱石が、モンスターの開いた口の中へと吸い込まれるように飛び込んだ。
体内の火種と爆発性鉱石が接触した一瞬、モンスターの中で凄まじい誘爆が発生した。
モンスターは内側から砕け散って、一瞬にして消滅ドロップしたのだった。
そしてモンスターが消滅した跡には、拳ほどの大きさがある七色に怪しく輝く超レア素材『ギガントゴーレムの核心(超高純度大魔石)』が、静かに転がって残されていた。
ボスモンスターを倒したことで膨大な経験値が入ったが、アイリスのステータスを確認したルークは複雑な顔になった。
ルークのレベルは一気に上昇したが、最後のトドメをルークの不運な連鎖で刺してしまったため、直接攻撃に参加していなかったアイリスにはほとんど経験値が入っていなかったのだ。
(これだと僕ばかりレベルが上がって、アイリスのレベルが上がらないな……。僕がトドメを刺すんじゃなくて、僕が支援に回ってアイリスにトドメを刺させないと意味がないぞ)
ドロップした超高純度大魔石を拾い上げ、崩れた壁の奥に七色に輝く『オリハルコン原石』の巨大な鉱脈が露出しているのを目撃しつつも、ルークは一度村へと引き返すことにした。
◇
村に戻ったルークは、アイリスを宿屋で休ませている間に、村にある小さな魔導書屋へと足を運んだ。
「いらっしゃい。うちは初級から中級の魔導書を扱っているよ」
「店主さん、味方の攻撃力や防御力を大幅に高める支援魔法の魔導書はありますか?」
ルークが尋ねると、店主は首を横に振った。
「味方を強化する支援魔法か。魔導書自体はあるんだが、それを解読して習得するには、触媒となる『魔導宝珠』という特別な宝珠が必要なんだよ。ただ、その宝珠はあの鉱山に生息するジュエルラビットが滅多に落とさない貴重品でね。今や鉱山は魔物に占拠されているから手に入らないんだ」
店主の言葉を聞いたルークの頭の中で、すべての考えが繋がった。
(鉱山のモンスターが魔導宝珠をドロップするのか! それなら、もう一度鉱山に行こう! 宝珠を手に入れて支援魔法を覚えれば、僕はアイリスのサポートに専念できる。それに、さっき奥で見つけたオリハルコンも一緒に持ち帰れば、僕たちの武器や防具を大幅にパワーアップできるじゃないか!)
ルークは宿屋へ戻り、アイリスに提案した。
「アイリス、もう一度だけ鉱山へ行こう。僕たちの武器と防具を強化するための貴重な鉱石と、新しい魔法に必要な宝珠を取りに行きたいんだ」
「ルーク様のお考えとあらば、どこまでもお供いたします!」
アイリスは嬉しそうに頷き、2人は再び鉱山へと向かった。
◇
二度目の鉱山探索。
ルークの【運∞】の力は、ここでも恐ろしいまでの引き寄せる能力を発揮した。
坑道を歩いていると、天井から突然落ちてきた2匹のジュエルラビットが、勝手に足元で跳ねて壁に激しく衝突し、一瞬で消滅ドロップした。
その跡には、光輝く2つの『魔導宝珠』が残されていた。
「あ、目的の宝珠が簡単に手に入ったね」
「さすがルーク様です。狙った獲物を一瞬で見つけ出すのですね」
さらに奥の採掘場へと進み、先ほど発見した『オリハルコン原石』の鉱脈から、自分たちの武具を新調するのに十分すぎるほどの大量の原石を回収した。
村へ戻ったルークは、手に入れた魔導宝珠を使って支援魔法『攻撃力上昇』と『防御力上昇』を瞬時に習得した。
さらに、村の腕利き鍛冶屋に大量のオリハルコン原石を渡し、加工賃を支払って、自分とアイリスの武器および防具を極限まで強化・パワーアップさせた。
出来上がった漆黒と七色の輝きを放つオリハルコン製の武具を身につけ、アイリスは感無量の表情を浮かべた。
「素晴らしい切れ味と軽さです……! ルーク様の支援魔法とこの新しい装備があれば、どのような強敵が相手でも負ける気がいたしません!」
「うん、これならアイリスが中心になって安全にレベルを上げていけるね」
ルークが支援系魔法使いとして味方を強力にサポートし、アイリスがトドメを刺して確実にレベルを上げていくという、理想的なパーティ戦術がここに完成した。
莫大な資金、ギガントゴーレムの大魔石、強化された至高の装備、そして強力な支援魔法を手に入れたルークとアイリスは、大満足で次なる目的地へと馬車を滑らせるのだった。




