運だけで難所を突破したら、知らない間に王都を救って英雄になりました
大都市グランデを出発してから約3週間。
ルークとアイリス、そして可憐な領主の娘エレノアの3人を乗せた馬車は、王都『グランヴィル』の手前に位置する最後の宿場町へと到着していた。
だが、宿場町の入口は王都を目指す大勢の旅人や商人たちでごった返し、異様な重苦しい気に包まれていた。
僕たちが身を寄せた宿場町の宿屋で、アイリスがカウンターの主人に事情を尋ねた。
「あの、町の入口が大変混雑しているようですが、街道で何かあったのでしょうか?」
宿屋の主人は深いため息をつきながら答えた。
「ああ、参ったよ。昨夜の豪雨の影響で、王都へ続く唯一の本道で大規模な土砂崩れが発生してしまってね。崩落した大量の岩や土砂を取り除いて開通するまで、最低でも1週間は通行止めなんだ」
その言葉を聞いた瞬間、隣にいたエレノアが青ざめた顔で声をあげた。
「1週間も通行止め……!? そんな……それでは王都の高等魔法学校の始業式や入学手続きに間に合わなくなってしまいます……!」
ショックで言葉を詰まらせるエレノアを見かねて、ルークが宿屋の主人に尋ねた。
「あの、迂回できるような他の抜け道は本当に存在しないのですか?」
すると主人は、声を潜めて声を低くした。
「ないわけじゃないが……お勧めは一切しない。森の奥に『魔の峠』と呼ばれる古い旧道があるんだが、あそこは一年中深い濃霧が立ち込め、凶暴な高ランクモンスターが巣食う開かずの難所なんだ。踏み込んだ者は二度と生きて戻れないと言われている。行くのは命を捨てるような自殺行為だよ」
主人の言葉に緊張が走った。しかし、エレノアは必死の思いでルークの手をぎゅっと握り締め、胸の前で手を合わせてすがるような瞳で見つめてきた。
「ルーク様……! もしほんの少しでも可能性があるのなら、私、どうしても諦めたくありません……! 何とかして学校の式典に間に合わせたいのです……!」
可憐なエレノアから潤んだ瞳で必死に頼み込まれ、断れない性格のルークは首を横に振ることができなかった。
「分かりました……! 僕たちなら大丈夫です、その『魔の峠』へ行ってみましょう!」
「まあ……! ありがとうございます、ルーク様!」
こうしてルークたちは、誰もが引き留める危険な『魔の峠』へと向かうことになったのだった。
◇
だが、ルークたちが『魔の峠』に足を踏み入れた瞬間に、奇跡的な現象が巻き起こった。
一年中晴れることがないと言われていた深い濃霧が、ルークたちの進む先から潮が引くように鮮やかに晴れ渡っていったのだ。
さらに、本来なら街道を襲うはずの凶暴な魔物たちも、ルークの【運∞】によってルークたちの前には一匹たりとも姿を現さなかった。
結果として、危険な難所であったはずの旧道をわずか数時間で爽快に駆け抜け、ルークたちは本道の通行止めをよそに、本来のルートよりも数日早く王都『グランヴィル』へとたどり着いてしまったのだった。
「まあ……! 本当に王都に着いてしまいました! ルーク様は道案内まで完璧なのですね!」
白く巨大な王都の城門を見上げ、エレノアは胸の前で手を合わせて感動に目を輝かせた。
予定よりも数日早く到着できたおかげで、入学式までに大きな時間の余裕が生まれた。
ルークたちは王都の宿屋に荷物を預けると、見学と気晴らしを兼ねて、3人で華やかな王都の中央市場へと繰り出した。
「ルーク様、見てください。あちらに美味しそうな肉の串焼きが売っていますよ」
「わあ、香ばしくて美味しそうだね。買ってみよう」
賑やかな露店街で、ルークたちは焼き立ての肉串を買って食べ歩きを楽しんでいた。
だが、その時だった。
路地の片隅で肉串を口に運んでいたルークは、うっかり手に持っていた串焼きの肉を滑らせて落としそうになった。
「うわっ、危ない!」
ルークは慌てて膝を折り、低い姿勢で身体を深くかがめ込んだ。
その瞬間、近くの小石が奇跡的な角度と軌道を描いて飛んでいった。
それはルークがかがんだ横に建つ建造物の地下へ続く小さな『通気口の鉄格子』の隙間へと、吸い込まれるように正確に飛び込んでいったのだ。
小石は地下の暗闇へと落下していった。
そして落下した先には、運悪く(あるいは運良く)、魔王軍の王都潜伏工作員たちが極秘裏に持ち込んでいた『大規模爆破魔導具』の露出した信管へと接触した一瞬、地下の暗闇の中で静かな誘爆が引き起こされた。
地上にはドンという音と揺れがあったが皆「地震かな?」と思う程度であった。だが、地下のアジト内部では連鎖的な爆発が巻き起こり、王都を壊滅させる予定だった魔王軍のテロ工作員部隊が、一瞬にしてほぼ壊滅したのだった。
◇
一方その頃、路地のすぐ近くでは、王都騎士団が街の監視を行っていた。
彼らは偶然にも、ルークの一連の動作を目の前で目撃していた。
「な、なんだ……!? あの少年、歩いている途中で一瞬にして気配を変え、完璧な見切りで地下の通気口へ向けて何かを投げ入れたぞ……!?」
直後、通気口から上がった一筋の煙。
異常を察知した騎士団員たちは、剣を抜いて地下アジトの入口へと突入した。
そこで彼らが目にしたのは、王都の中央広場や主要施設、そして高等魔法学校を一網打尽に大爆破する予定だった大量の爆薬が燃えた跡と、わずかに命を取り留めた数名の魔王軍のテロ工作員たちの姿だった。
現場を改めた騎士団長は、震える声で言葉を漏らした。
「なんということだ……! 大規模テロ計画を、あの少年は遠くから完璧に察知していたというのか……! わざと見物人を装い、たった一撃で敵の兵器を誘爆させて未然に粉砕したのだ……! なんという恐ろしい眼力と実力なのだ……!」
騎士団員たちは、路地で肉串を落としそうになってかがんだだけのルークに対し、絶対的な尊敬と畏怖を抱くこととなった。
当の本人であるルークは、そんな裏での大騒動など知る由もなく、「ふう、落とさずに済んで良かった」とお気楽に串焼きを味わい、アイリスやエレノアと楽しい観光を続けて宿へと戻るのだった。
◇
数日後。
無事に手続きを終えたエレノアは、晴れやかな笑顔で魔法学校の寮へと入寮することになった。
「ルーク様、アイリス様。王都までの長旅、本当にありがとうございました! お二人と過ごした時間は、私の人生で一番楽しくて素敵な思い出です。」
エレノアは感極まった様子でルークに抱きつき、感謝を伝えてくれた。
隣でアイリスが静かに唇を尖らせて視線を送ってきたが、無事に護衛クエストを遂行できたことにルークは胸をなで下ろした。
そしてエレノアを見送った後、ルークとアイリスはついに本来の目的を果たすため、王都冒険者ギルド本部へと向かった。
窓口で『Aランク冒険者カード』を提示したルークは、ずっと目指していた目標を口にした。
「Aランク冒険者のルークとアイリスです。常設の『魔王討伐クエスト』の受注をお願いします」
「かしこまりました! Aランク冒険者様ですので、ただちに受注手続きをします」
職員が手続きを進めようとしたその時、ギルドの警備をしていた王都騎士団の団員が声を掛けてきた。
「あなた様は先日のテロを阻止したお方では! 国王陛下がお目にかかりたいとお呼びである! ただちに王宮へ参内されたし!」
◇
王宮の謁見の間。
絨毯の先に鎮座する国王の前に膝をついたルークとアイリスに対し、王都騎士団長が声を震わせながら誇らしげに告げた。
「国王陛下! 先日、王都地下にて発覚した魔王軍による王都大規模爆破テロ計画ですが……そちらにおられますAランク冒険者ルーク殿の手によって、事前に完璧に察知され、未然に粉砕されました!」
「なに……!? 王都爆破テロだと!?」
国王が激しく狼狽し、目を見開いた。
騎士団長は目撃した内容を、国王と重臣たちへ熱弁し始めた。
「魔王軍は王都全体を大爆破する計画でした! もしルーク殿が爆破テロを未然に阻止してくださらなければ、王都は壊滅するところでございました!」
(爆破テロ……? 僕が未然に阻止……? 一体何の話をしているんだ……!?)
ルークが心の中で激しく困惑していると、真相を知った国王は深い感動のあまり座所から立ち上がり、震える声でルークを激賞した。
「おお……! 我が王都と、愛する国民たちの命を救ってくれたか! 魔王軍の卑劣な陰謀を未然に打ち破るその知謀と実力、まさに大英雄と呼ぶにふさわしい!」
さらに国王は、眼前に立つルークとアイリスに向かって力強く手を差し伸べた。
「聞き及べば、そなたたちはすでにAランクとして『魔王討伐クエスト』を受注し、これから魔王を倒す旅に出るところであったな! 王都と国民を救ってくれた大英雄を送り出すにあたり、我が王国は全力を挙げてこれを支援する!」
国王の合図とともに、重厚な箱が運ばれてきた。
「魔王討伐の軍資金として、金貨500枚を授与する! 大英雄ルークよ、見事魔王を討ち果たすのだ!」
「き、金貨500枚!?」
一瞬で手渡されたズシリと重い金一封を前に、ルークは目を丸くして引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
隣でアイリスが「さすがルーク様です……! 王都に着いて早々、このような偉業を成し遂げ、国を挙げて送り出されるなんて!」と感動の眼差しを向けてくる。
(またしても知らない間に大金が手に入っちゃったよ……!)
こうして、単に早く着いて肉串を食べ歩いていただけのルークは、またしても王国の歴史に名を残す大英雄となり、莫大な軍資金とともに『魔王討伐』への旅路へと華々しく送り出されるのだった。




