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第7話 再会と安堵、膨らむ罪悪感

「覚えてない?俺に、魔力わけてくれたこと。」


(え…?)


 3年前にこの体へ転生してきたシェリルは、何のことを言っているのかさっぱりわからなかった。十七歳以降の記憶であれば、覚えているはずだが、転生後にシオンと会ったことも、まして魔力を分け与えたことも断じてないと言い切れる。


(どうしよう…この身体の持ち主が過去にしたことなら、私には全くわからない)


 しかし、ここで自分が転生者だと正体を告げるのはあまりにもリスクが大きすぎる。もともと転生者をこちらの世界に呼び寄せる行為は王族が儀式的に行うものである。厳かな儀式の元で行われる転生の儀は、聖女になる人物を召喚するためのものだ。


 以前十七歳で転生してすぐの頃、『たった一人だけ』シェリルが転生者だということを打ち明けた相手がいたが、こちらの世界の伯爵令嬢を乗っ取っている状態で、勝手に転生してきたと他人に打ち明けることはかなり危険だと忠告されていた。

「覚えてない?」という問いに対しては少なくともノーというしかなかったため、罰が悪そうにシェリルは口を開いた。


「シオン様、あの、本当に申し訳ないのですが、実は私、十七歳の時に大きな事故に遭ってそれより前の記憶がないんです…」


 伯爵令嬢に転生したのはこの体の持ち主が起こした大きな事故がきっかけだったため、嘘ではなかった。真実と嘘を織り交ぜてそう告げると、シェリルは話を続けた。


「シオン様と私は、私が記憶をなくす前に会っているんですよね?私が何者なのかはすでに確信しているのだと思いますが、私は辺境のグランバニア伯爵家の人間なんです。十七歳までの私は、その…とても傲慢だったようで、それで両親との折り合いも悪くて…伯爵家でも居心地が悪くて。それで家を出て一人で暮らして身分を隠して今ここで働いているんです。」


 罰が悪そうにシオンの目を見ると、どこかほっとしたように自嘲して髪をかきあげた。


「そういうことね。だから俺のことも覚えてなかったのか。昔は幼かったし、出会った頃のシェリルは…自分のことをシェリーだと愛称で名乗っていたからね。名前も身分も違うから、お前があのシェリーだとは全く気がつかなかった。でも、実際に魔力の調和を感じてすぐにわかったよ。こうなったのは昔の俺の魔力暴走がきっかけだったから。シェリーのことはずっと気になってた。だから今こうして会えて、元気にしてくれていて、安心した。」


 そういうと優しくシェリルに笑いかけた。なんの躊躇もなく、シオンの骨貼った手がシェリルの髪を掬い上げると、そのまま口元に持っていき、かつての彼女を確認するかのように口付けて目を閉じた。その仕草が色っぽく、鼓動が早くなる。すがるような熱を帯びたシオンの視線を向けられて、人の体を乗っ取っていることに対する罪悪感でぎゅっと胸が苦しくなった。


(もしかしてこの体の持ち主は、シオン様にとって、とても大切な人だったんじゃ——)


 掬い上げられた髪がさらりと落ちた時、シオンはいつも通りの軽薄な笑みに戻っていた。嘘をついてしまったことへの罪悪感から、何か言わなくてはという衝動に駆られ、シェリルは口を開いた。


「あ、あの、つまり1つの体に2つの魔力が流れているってことですよね?お互いの魔力がお互いの体に流れていることって何か健康上とか…問題はないんでしょうか?」


 投げかけられた質問にシオンは不意をつかれたように目を丸くすると、すぐに吹き出した。


「あはは!確かに記憶を無くしてるなら、かなり気になるところだよね、それは。」


 何も変なことを言ったつもりがなかったので、急に恥ずかしくなる。

 焦りと恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていると、シオンが話し出した。


 「んー、まあ今までも特に支障はなかったわけでしょ?気づいてなかったくらいだし。強いていうなら攻撃魔法の効果が高くなること、かな?シェリル、一度手を上に掲げて、空に魔物がいると思って光を放つイメージをしてごらん。」


 言われるがままに、手を上に掲げて光を空高く放つイメージした途端、シェリルの手から鋭く刺すような光が天井を勢いよく突き抜けた。ドーム型になった訓練所の天井の一部が吹き飛び、夕陽に染まった空が小さく顔をだした。

 シオンもシェリルもその威力に呆気に取られ、しばらく天を仰いだまま沈黙が流れる。沈黙を破ったのは、シオンの笑い声だった。


「あははは!なにその威力、まじですごいじゃん!攻撃魔術ってもしかして初めて?ってそりゃそうか、聖魔導師が攻撃魔術を展開しようなんて、考えたこともないよな!」


 さっきの雰囲気とは打って変わって、シオンは天井に穴を開けるほどの攻撃魔術を発したシェリルを見てお腹を抱えて笑っている。


「ちょ、ちょっと、これどうしたらいいんですか!?穴空いちゃいましたよ!?またリガード所長に怒られませんか?!今朝怒られたばかりなのに、またお説教を受けるなんて、新人として問題ありすぎます!帰る家もないのに、クビになったらわたし生きていけませんよ!?」


 焦りと、落胆で泣きそうになりながらシオンに訴えかけるが相変わらず目の前の上司は笑っている。


「シェリル、おまえほんとに面白すぎるね。まあこれでわかったと思うけど、お互いにメリットはあるよってこと。でも聖魔術師が攻撃魔法を使えるってちょっとおもしろすぎるから、あんまり他で言わない方がいいかもね。」


 ククと笑いながらそう告げるシオンにだんだんと腹立たしくなってくる。


「もう!!笑い事じゃないんですからね!?」

「はは。まあこの天井のことはリガードにうまくいっておくし、もし今後クビになってもシェリルのことは俺が拾ってあげるから安心しておきなよ。」


 ぽん、と頭に手が置かれたが、シオンの両手にはすでに魔力防護の手袋が嵌められていた。頭をがしがしと撫でられ、揶揄われていることに気がつき、強い眼差しでシオンを見上げると、頭ひとつ分高い位置から「ん?」と満足げに見下ろしてくる。訓練を開始する前とは明らかに違うどこか優しい目つきに心臓が大きく跳ねる。


「リガード所長には、ちゃんとごまかしといてくださいよね…」


 そう言いながら甘んじて彼の手を受け入れてしまったのは、この体の持ち主の気持ちに少なからず影響されたからなのかもしれないと自分に言い聞かせていた。

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