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第4話 言えない違和感

「シェリル、何故呼び出されたか、私の言いたいことがわかるよね?」

 

 朝一番、室長室に呼ばれたシェリルを待っていたのは真剣な面持ちのリガードだった。昨日の今日で、リガードが言いたいことは痛いほどによくわかっている。


 シオンが去った後、1人で自宅に戻ったシェリルは改めて冷静に自分の行動を振り返ったが、状況がわからないまま1人で判断して魔力暴走の現場に飛び込んで行ったのは極めて危険な行為だったと一晩中猛省していたからだ。


「はい…わかっています。昨日は勝手に判断をして飛び込んでしまって申し訳ありませんでした…。」


 深々と頭を下げながらそう返事をすると、リガードは大きなため息をついた。


「外に逃げ出した研究員から、女性の聖魔術師に助けてもらったと聞いた時は本当に驚いたよ。おまけにまだ中にいるって言うんだから…肝が冷えたよ。」


 リガードは落ち着いた声で、淡々と言葉を続ける。


「暴走した魔道具にはどうやら強い呪いがかかっていたようで、それが発動してしまったらしい。シオンが間に合ったから良かったけどいくら魔力量が多いきみでも、一歩間違えたら間違いなく死んでいたところだったんだぞ。」


 最後は少し強い口調で咎められ、情けなさといたたまれなさでだんだんと視界が揺れてゆく。


「本当に申し訳ありませんでした…。あの時、単独で判断して進むべきじゃなかったと、凄く反省しました…。」


 泣きそうになるのを必死に堪えながら正直な気持ちを伝えると、リガードは今度は優しく微笑んでシェリルに目を向けた。


「かなり反省しているみたいだね。君の上司である手前、その自己判断が正しかったとは言い難いが、あの場で助けを求められたら魔導師であれば体が動いてしまうだろう。結果的に君は聖魔導師としてその場に倒れていた人たちを全員救ったんだからね。それは立派なことだ。」


 立場上は新人の独断での判断を許すことはできない。しかし、リガードはしっかりとシェリルのことを評価していた。


「リガード様…ありがとうございます…。」


 シェリルは涙がこぼれ落ちそうなのを必死に堪えながら再び深く頭を下げた。


「それより、だ。シオン…あいつの方が厄介だ。」


 顔を上げると困ったような顔をして、リガードは椅子にもたれかかりながら頭を抱えていた。


「暴走した魔力を封じるためとはいえ、なにも実験室のものを全て消し去ることはないと言うのに。こちらの気も知らないでまったく。上への報告を考えるだけでも頭が痛いよ。あいつのことだ、新人にいいところを見せたかったんだろう。」


 リガードの呆れたような言葉を聞いて、昨日シオンが「こんな機会滅多にないからよく見ておくように」と言っていたことを思い出した。あれほどのことをしなくても、きっとシオンなら他の方法で止めることができたのだろう。微笑しながら魔術展開を見せてくれたことを思い出して、自然とシェリルの口角が上がる。


「いいところを見せたい、ですか…。でも、確かにそうだったのかもしれません。」


 シェリルがくすりと笑うと、リガードもそんなシェリルの姿を見てふっと口元を緩めた。気が緩んだからか、シェリルはふと昨日シオンと手が触れた際の不思議な感覚について思い出し、リガードなら何かわかるかもしれないと思い立ち、尋ねることにした。


「あの、昨日シオン様の手を直接握った時に、身体中にシオン様の魔力が流れ込んできたんです。驚いたんですが、とても心地よくて…その後も特に体調を崩すようなこともなくて。こんなことってあるものなんでしょうか?」


 魔力や魔道具についての興味から、深く考えずに何気ない会話の延長として話しただけだったが、リガードの顔色が急に硬直する。

その様子に、聞いては行けないことを聞いてしまったのだろうかとシェリルの中に焦りが芽生えた。


「シェリル、それは…」


 リガードから言葉が出るより先に、コンコンと室長室のドアがノックされた。リガードが「どうぞ」と声をかけると、シオンがドアを開けて入ってきた。そのまま部屋の真ん中にある革張りの重厚なソファにどさりと腰を沈め、背もたれになだれ込み、リラックスモードのままこちらに顔だけを向ける。


「2人とも、朝が早いね。あ、お説教は終わった?」


 揶揄うような笑みをこちらに向けながら、シオンが尋ねるので、リガードはまた深くため息をついた。今度はシオンに向かって実験室のものを全て消し去ったことについて文句を垂れたが、シオンは真剣に聞いている様子がなく、シェリルは上司の苦悩を思うとなんとも不憫に感じた。


(リガード様、きっと普段から苦労をしているのね。部下のわたしだけでもしっかりしないと…。)


 そう心に誓いを立てていると、リガードと話をしていたシオンが今度はシェリルに向かって口を開く。


「新人ちゃん、今日は午後から別館の訓練所に集合ね。理由は来てから話すから。俺はあっちの自分の執務室にいるから、何かあったら呼んで。」


 そう言うと立ち上がり、リガードの執務室を出て行った。


(なんか、シオン様には言い逃げされてばっかりだな…)


 そんなことを思いながら、シェリルもリガードに一声かけて、自分の席がある中央の部屋に戻った。先ほどリガードに話をした魔力の流れについては、シオンの訪問ですっかり忘れてしまっていた。


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