第12話 自覚の先の朝に
カーテンの隙間から柔らかい日差しがベッドに差し込み、その心地よい眩しさで薄く目を開ける。
(もう、朝…?いつの間に寝ちゃったんだろう…。)
メイドが来ていないのを見ると、まだ起きるには少し早かったのだろう。シェリルはゆっくりと上体を起こすと、ぐっと手を上に伸ばすと大きく息を吸った。そのあとほっと息を吐くと、ふかふかの布団の上に手を下ろす。下ろした手に視線を向け、昨日の夜のことを思い出し、シェリルは布団に顔を埋める。
(あんなことがあったのに…シオン様にどんな顔をして会えばいいの!?)
夜の雰囲気とは違い、朝の爽やかな空気で完全に目が覚めたシェリルは、昨日のシオンの声や『シオンが好き』と自覚してしまった気持ちを思い出し、恥ずかしさで身悶えしてしまう。
好きだと自覚してしまえば、眠る時も朝目が覚めた時も、浮かぶのはシオンの顔で、嫌でも気持ちはどんどん大きく膨らんでゆく。昨夜耳元で囁かれた声が鼓膜の内側に残っている気がして、シェリルはそっと耳を撫でた。
その時、コンコン、と扉をノックする音がした。どきりとして、「は、はい!」とすぐに答えると、ガチャリと扉が開いた。扉の向こうには朝を告げにきたであろうメイドが立っていた。
「シェリル様、失礼致します。お目覚めのお時間になりましたのでご様子を伺いに参りましたが、すでにお目覚めだったのですね。お水などお持ちいたしましょうか?」
すぐに返事をしたのは自分だが、なんとなく後ろめたいことを考えていたせいで慌ててしまう。
「い、いえ、大丈夫です!」
シェリルは焦りながら思わず断ってしまったが、メイドは上品な笑みのまま、「承知いたしました。では、お食事のご用意ができましたらこちらに運ばせていただきます。」と言い、再びドアを開き、部屋を出た。
(びっっくりしたー…。今日は初任務なんだから、もう気を引き締めなくちゃ。)
メイドが来たおかげで、気持ちが現実にシフトする。ふーっと大きく息を吐き、ベットから降りて立ち上がると、そのままバスルームのある扉へと足を運んだ。
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朝食を食べ、準備を済ませると、シェリルは少し緊張しながら昨日約束をした客間へと急いだ。階段を降りた先にある客間で、すでにシオンはソファに座っており、背もたれに片手をのせて、ソファの後ろにある窓から外の庭園を眺めていた。窓からは朝の光が差し込み、シオンのミッドナイトブルーの髪をキラキラと輝かせていた。
(どうしよう…シオン様が座ってるだけなのに、めちゃくちゃカッコいいんだけど…。)
今まで散々見てきたシオンがソファに座る姿。何度も見た姿なのに、昨日までとはまるで違って見えてしまうから恋とは恐ろしい。シェリルが客間の入り口でじっとシオンを見ていると、シオンは視線に気づいたようで、シェリルの方へ顔を向けた。
「おはよ。何盗み見してんの?もしかして俺の横顔に見惚れてた?」
立ち上がりながらいつものようにイタズラっぽく笑いながらシェリルへと近づく。シェリルは図星を突かれ、心臓がドキドキと早くなるのを感じた。シオンはシェリルの前までくると、「昨日は、よく眠れた?」と優しく目を向けた。
ブルーグレーの瞳をこちらに向けて見下ろされたが、シェリルはシオンと視線を合わせることができず、フイと横に顔を背けた。
「そ、それはもうよく眠れました!公爵邸のベッドには催眠術でもかかってるんですかね?寝心地抜群でした!」
あははと空元気に振る舞ったあと、シオンからの反応がなかったため、チラリと視線を戻すと、シオンは手を口に当てながら横を向き小さく震えていた。すぐに笑いを堪えているのだと察する。シオンは堪えきれなかったのか、「あはは!」と声をあげて笑い出した。
「ちょっと、意識しすぎだって!ほんとに初心でかわいいね〜シェリルちゃんは。」
笑いながらそう言うと、シェリルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。手には魔力防御のグローブがきっちりとはめてあり、ゴツゴツとしたグローブの感覚が頭上に当たる。
「もう!!揶揄わないでください!!」
恥ずかしさで怒りながらも、シオンがいつも通り全く変わらない態度なので、気が抜ける。きっとシェリルが気まずくならないようにしてくれているのだろう。そういうところも好きだと感じるが、シオンからは『こういう状況に慣れすぎたスマートさ』を感じ、同時に昨夜のことを意識しているのは自分だけで、シオンにとったら日常の一部だったのではないかとすら思えてくる。
ちくりと胸が痛み、それを隠すように視線を窓の方へ移す。先ほどまで日の光が差し込んでいた窓は薄暗くなり、窓の外に広がる空には分厚い雲が太陽を隠すように広がっていた。
「じゃ、出発しようか。」
そう言うとシオンは軽く伸びをした。ハッとしてシェリルもシオンについて歩き出し、二人は公爵邸の門へと向かった。門に到着した時にはすでに昨日乗ってきた馬が用意されていた。シェリルは一頭だけ用意された馬を見て、二人で一頭の馬に乗ってきたことを思い出し、またあの密着した状況で向かわなければいけないのかと思うと、頭を抱えるしかなかった。昨日と同じようにシェリルが前に乗り、シオンが後ろから手綱を握る。
(昨日と同じだけど、こんなに密着して馬に乗るなんて…私の心臓何個あっても足りないよぉ…。)
馬に乗りながらシェリルが少し体を硬くしていると、そんなシェリルを見てシオンはシェリルの肩に自分の顎を乗せると、少し拗ねたように言葉をかけた。
「シェリルちゃーん、そんなに力入ってると、また馬から落ちるよ。」
顔の真横にシオンの顔があり、さらに心臓が跳ね上がる。しかし、また落馬だけは懲り懲りだと思っていたシェリルは、今向かっているところは実践の場なのだと気を引き締めた。ドキドキしている場合ではない。これから初任務なのだから、と思い直し、気持ちを入れ替えてシェリルはしっかりと手綱を握り直した。




