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81話 順番の決め方

81話 順番の決め方

 

 

 

異世界に召喚されてはや八十一日。

 

俺――ちゃっぴーは城門前を漂っていた。

 

 

 

石畳の広い通りだった。

 

城壁の門が正面にあって、その左右に詰め所が一つずつあった。

 

昼間だった。

 

人が通るたびに、両方の詰め所から人間が同時に飛び出していた。

 

 

 

右の詰め所から出た男が、通行証を確認しようと手を伸ばす。

 

左の詰め所から出た男が、荷物を調べようと手を伸ばす。

 

旅人が二人の間で固まった。

 

どちらを先に見ればいいのかわからない顔だった。

 

右の男が「まず書類を」と言い、左の男が「荷物から先に」と言った。

 

旅人がどちらにも対応しようとして、その場でぐるぐる回り始めた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

旅人が一人通るたびに、同じことが起きた。

 

右と左が同時に出てきて、どちらを先にするかで詰まる。

 

詰まった旅人が立ち往生して、後ろに続きができた。

 

列は動いていなかった。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

右の男が振り返った。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない」

 

「また声だけの奴か」

 

「また、ってことは前にも来た?」

 

「他の門に来たって話を聞いた」

 

「俺だよ、それ」

 

 

 

右の男の名前はカルンと言った。

 

書類確認担当で、左の詰め所の男はドルズ、荷物検査担当だと言った。

 

「あの、旅人が毎回止まってるじゃん」

 

「荷物と書類、両方確認するから同時に始めた方が早い」

 

「早くないじゃん、旅人が止まってるよ」

 

カルンが腕を組んだ。

 

「止まるのは旅人の問題だ。どちらに対応すればいいか考えすぎる」

 

「二人から同時に声をかけられたら誰でも止まるでしょ」

 

 

 

左のドルズが近づいてきた。

 

「書類を後回しにするから遅い。荷物を先に開けてもらえれば書類はすぐ終わる」

 

「逆だ。書類で身元が確認できてから荷物を開けさせるのが手順だ」

 

「手順の話じゃなくて時間の話をしてる」

 

「手順を崩すと見落としが出る」

 

二人が言い合いを始めた。

 

旅人が一人、止まったまま固まっていた。

 

 

 

俺はしばらく聞いていた。

 

カルンは書類が先、ドルズは荷物が先、どちらも間違ってはいなかった。

 

ただ、どちらも自分が先だと思ったまま同時に飛び出していた。

 

 

 

「ちょっといい? 一個確認」

 

二人が口を止めた。

 

「どっちが先かって、決めたことある?」

 

沈黙。

 

「担当が違うから、それぞれが始める」

 

「担当が違っても旅人は一人じゃん。一人に二人が同時に声をかけたら止まるのは旅人の問題じゃないよ。止まった後どっちを先にするかが決まってないから詰まってる」

 

ドルズが顎に手を当てた。

 

「じゃあどっちを先にするんだ」

 

「俺にはわからないけど、どっちかに決めれば今よりは動くんじゃない?」

 

 

 

カルンが詰め所の壁を見た。

 

貼り紙があった。

 

検問手順と書いてあったが、書類と荷物のどちらを先にするか書いていなかった。

 

「……書いていないな」

 

「書いてないじゃん。じゃあ二人とも根拠なく自分が先だと思ってるってこと」

 

「根拠はある。書類で身元を確認してから荷物を開けさせるべきだ」

 

「荷物に危険物がある場合は書類より先に検査すべきだ」

 

「……」

 

「……」

 

二人が黙った。

 

旅人がまだ立っていた。

 

 

 

「とりあえずこの旅人は誰かが先に進めてあげなよ」

 

ドルズが旅人に声をかけた。

 

「荷物を見せてください」

 

カルンがすぐに割り込んだ。

 

「書類を先に」

 

旅人がまたぐるっとした。

 

 

 

俺は黙って見ていた。

 

どちらが正しいかを決めるのは上の人間の仕事で、俺には権限も体もなかった。

 

「ねえ、二人の上に誰かいる?」

 

「門番長のセリアスだ」

 

「今どこ?」

 

「休憩中だ」

 

「旅人が止まり続けてることと、休憩中なこと、どっちが優先度高い?」

 

カルンが少し間を置いた。

 

「……呼んでくる」

 

詰め所に戻った。

 

 

 

ドルズが旅人に「少し待ってください」と言った。

 

旅人が「どのくらい待てば」と聞いた。

 

「……少しです」

 

旅人が遠い目をした。

 

 

 

しばらくして、カルンが戻ってきた。

 

後ろに小柄な女が続いていた。

 

セリアスだった。

 

半分眠そうな目だったが、状況を一目見て目が覚めた顔になった。

 

「何人詰まってる」

 

「今一人だ。さっきまで四人いた」

 

セリアスがため息をついた。

 

「書類を先にする。荷物はその後。今日からそれで統一」

 

「危険物の場合は」

 

「私が判断する。そういうケースは私を呼べ」

 

ドルズは返事をしなかった。

 

一歩下がって、詰め所の方を向いた。

 

戻るつもりの動きだったが、戻らなかった。

 

その場で腕を組んだまま、旅人が通るのを見ていた。

 

 

 

旅人が書類を出した。

 

カルンが確認して、ドルズに頷いた。

 

ドルズが荷物を確認した。

 

旅人が通っていった。

 

詰まらなかった。

 

 

 

「……動いた」

 

「順番が決まったからね」

 

セリアスが俺の声の方向を向いた。

 

「声だけの存在か」

 

「そう。ちゃっぴーだよ」

 

「今日は助かった」

 

「俺はセリアスを呼べって言っただけだよ。順番を決めたのはセリアスじゃん」

 

「お前が呼びに行かせなければ私は休憩のまま三時間寝ていた」

 

「三時間?」

 

「長めの休憩だ」

 

複雑な話だった。

 

 

 

後ろに並んでいた旅人が二人、順番に通り始めた。

 

ドルズは黙ってそれを見ていた。

 

荷物を開けさせるとき、手順通りにやっていたが、確認の速度が少し遅かった。

 

丁寧なのか、不服なのか、外からはわからなかった。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

セリアスが伸びをした。

 

「また来い。今度は昼の混雑時に来い」

 

「来るかどうかはわからないよ」

 

「わかった」

 

あっさりしていた。

 

 

 

俺は城門前を離れた。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

石造りの門をすり抜けて、城外の道へ出た。

 

遠くに街道が続いていた。

 

「やっぱり俺、調整役の才能あるわ。二人が同時に飛び出してるのが問題だって見抜いたのは俺だしね。セリアスを呼べって言ったのも俺だよ。セリアスが三時間寝るつもりだったのは想定外だったけど、呼ばれる前に起きたとも言えるし。ドルズがまだ何か思ってそうなのは、二段階目の問題だから今日は範囲外。俺は一個ずつ解決するタイプなので」

 

 

 

城門の方から、旅人の足音が続いていた。

 

詰まっていなかった。

 

ドルズの手元がどんな速度で動いているかは、もう確認できなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

今日も静かに、自己評価だけがひとりの旅路ぶん積み上がった。

 

 

 

 

 

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