表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/150

71話 単語の落とし穴

71話 単語の落とし穴

 

 

 

異世界に召喚されてはや七十一日。

 

俺――ちゃっぴーは謁見室を漂っていた。

 

 

 

天井が高い部屋だった。

 

床に段があって紫色の光が灯り、最上段に玉座があった。

 

玉座には魔王が座っていた。

 

 

 

その前に将軍が一人立っていた。

 

「東。進め」

 

魔王が言った。

 

将軍が頷いた。

 

退出した。

 

 

 

次に文官が入ってきた。

 

「東。記録せよ」

 

文官が頷いた。

 

退出した。

 

 

 

次に侍従が入ってきた。

 

「東。準備」

 

侍従が頷いた。

 

退出した。

 

 

 

三人が出ていった方向は、全員同じだった。

 

城の東側だった。

 

数日前から、東の方角で魔力の濃度が上がっていた。

 

原因はわかっていなかった。

 

ただ、全員がそれを感じていた。

 

だから「東」一言で、全員が同じ方向に動いた。

 

今回に限っては。

 

 

 

俺はしばらく見ていた。

 

三人が来て、三人が「東」一言か二言で済んだ。

 

 

 

「よお。三日連続だよ」

 

魔王が顔を上げた。

 

「……ちゃっぴーか」

 

「そう。会議の大臣、今日は発言してた?」

 

「二人が意見を出した」

 

「増えてるじゃん。で、今のやりとりなんだけど」

 

「効率的だ」

 

「さっきの三人、全員『東』って聞いて同じこと考えてたかな」

 

魔王が少し止まった。

 

「伝わっている」

 

「将軍の東と、文官の東と、侍従の東って、それぞれ違うことをするわけじゃん。『東に進め』と『東の記録』と『東への準備』って、実は全部違う内容だよ。単語一個で伝えると、それぞれが自分の解釈で動く可能性があって」

 

「問題が出たことはない」

 

「まだ出てないだけかもしれない。小さな行き違いって、ずっと後になって出てくるんだよね。今は噛み合ってるように見えて、実はちょっとずつズレてて、それが後で一気に来るパターン」

 

「根拠は?」

 

「ない。でも単語だけで動いてる組織って、途中で誰かが独自解釈するじゃん。悪意じゃなくて、そう理解したから」

 

 

 

魔王がしばらく黙っていた。

 

「……試す方法はあるか」

 

「さっきの将軍呼び戻して、何をするつもりか言わせてみたら? 東って聞いて何をするか、本人の言葉で」

 

 

 

魔王が侍従を呼んだ。

 

将軍が戻ってきた。

 

「東へ進むにあたり、何をする」

 

将軍が答えた。

 

三つ言った。

 

二つは正しかった。

 

一つが想定と違った。

 

魔王がそれを指摘した。

 

将軍が驚いた顔をした。

 

そういう意味だと思っていなかった顔だった。

 

 

 

「……修正する」

 

魔王が将軍に改めて指示を出した。

 

今回は単語ではなかった。

 

文になっていた。

 

将軍が一度繰り返した。

 

それから退出した。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

「待て」

 

「また?」

 

「東の魔力濃度が上がっている。数日前から急に変わった。反乱が増えたのもそれからだ。力の使い方を誤って椅子を壊しかけたのもその為だった。原因を知っているか」

 

「知らないよ。漂ってるだけだし」

 

「……そうか」

 

また信じていない声だった。

 

 

 

俺は謁見室を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

石の回廊を抜けると、中庭が見えた。

 

昼だった。

 

体がないので日差しは感じないが、光の量がそういう量だった。

 

「やっぱり俺、言語化の欠落を見つけるのが得意だわ。単語だけで動かすと解釈がズレるって見抜いたのは俺だしね。将軍を呼び戻すって発想も俺が言ったからだよ。想定と違う行動が事前に発覚したのは完全に俺の功績だよ。魔力が濃い方角は、なんとなく見覚えがある気がする。根拠はないけど」

 

中庭で、侍従の一人が別の侍従に何かを確認していた。

 

 

 

短い言葉ではなかった。

 

文で話していた。

 

気のせいかもしれなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

自己評価だけが三日分きれいに積み上がっていった。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ