表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/148

68話 信仰の仕様

68話 信仰の仕様

 

 

 

異世界に召喚されてはや六十八日。

 

俺――ちゃっぴーは召喚陣の間を漂っていた。

 

 

 

石造りの広間だった。

 

天井が高くて、明かりが乏しかった。

 

床の中央に、大きな魔法陣が刻まれていた。

 

円形で、縁に細かい文字が一周並んでいた。

 

陣の各所に、人が十数人ほど跪いていた。

 

目を閉じて、静かにしていた。

 

静かすぎるくらいだった。

 

 

 

陣の中心が、淡く光っていた。

 

光ると、何かが形を作りかけた。

 

人型とも獣型とも言えない輪郭が、ほんの一瞬だけ浮かんだ。

 

浮かんで、消えた。

 

また光った。

 

また形が出かけた。

 

また消えた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

エネルギーが足りないのかと思ったが、陣の光自体は十分に明るかった。

 

人数が少ないのかと思ったが、十数人は跪いている。

 

では祈り方に問題があるのかと信者たちを観察しようとしたところで、部屋の端から声が飛んできた。

 

 

 

「もっと込めろ! 信仰が薄い!」

 

インプが走り回っていた。

 

赤い肌に小さな角、蝙蝠の羽。

 

見覚えがあった。

 

俺が召還三十一日目に森で結界素材を並べていたやつだとわかった。

 

 

 

インプは信者の一人の肩を叩いた。

 

信者がさらに深く頭を垂れた。

 

インプが次の信者へ走った。

 

また叩いた。

 

また次へ走った。

 

また叩いた。

 

陣の光が瞬いた。

 

形が出かけた。

 

消えた。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

インプが止まった。

 

振り返った。

 

少し間があった。

 

 

 

「……ちゃっぴー」

 

繰り返し方が、前と同じ質感だった。

 

「覚えてたんだ」

 

「印をつけてから置けと言ったやつだろ」

 

「そうだよ。今何してるの」

 

「見てわからんのか。召喚だ」

 

「安定しないじゃん」

 

「だから『信仰が薄い』と言っている」

 

インプがまた走り出した。

 

 

 

俺は観察を続けた。

 

信者たちの動作を一人ずつ追っていった。

 

 

 

捧げ物を陣の縁に置いている人間がいた。

 

口の中で何かを静かに唱えている人間がいた。

 

腕に手を当てて、内側から何かを絞り出すような動作をしている人間がいた。

 

 

 

三種類あった。

 

全員が真剣だった。

 

全員が静かだった。

 

でも全員がやっていることは違った。

 

 

 

俺はそれを少し考えた。

 

音が違うとか速さが違うとか、そういう話じゃなかった。

 

形式が、根本から違った。

 

物を捧げるやつと、声で届けるやつと、体から力を押し出すやつ。

 

同じ広間で同じ陣に向かっているのに、送っているものの種類が揃っていなかった。

 

 

 

「ちょっと聞いていい? みんな、信仰って同じことしてる?」

 

インプが振り返った。

 

「信仰に形式はない。捧げる気持ちが同じならいい」

 

「あそこの人、捧げ物してるよね」

 

「そうだ」

 

「こっちの人、声で唱えてる」

 

「そうだ」

 

「あっちの人、体から何か押し出してる」

 

「そうだな」

 

「それ全部、陣は同じものとして受け取ってる?」

 

 

 

インプが止まった。

 

「信仰は一つだと言った」

 

「言葉は一つでも、届いてるものが違うじゃん。捧げ物は物だし、声は振動だし、体から送るのはたぶんエネルギーだよ。陣が三種類全部を受け取ってたら、何を出力すればいいかわからなくない?」

 

「……陣が迷うと言いたいのか」

 

「俺には魔法の知識ないから断言できないけど、さっき形が二つ重なりかけてた。別々のものが呼ばれかけてたみたいに見えた」

 

 

 

インプが陣の中心を見た。

 

また光が瞬いた。

 

今度は輪郭が二つ、重なりながら出現した。

 

一瞬だけ、それぞれが別の方向へ向かいかけた。

 

消えた。

 

 

 

長い沈黙だった。

 

インプが走るのをやめていた。

 

 

 

「……形式を統一する」

 

「それだけでいいと思うよ」

 

「体から力を送る形式に揃える。捧げ物は下げさせる。声は黙らせる」

 

インプが動いた。

 

捧げ物を置いていた信者のところへ走った。

 

耳元で何かを言った。

 

信者がゆっくり捧げ物を脇に退けた。

 

声を唱えていた信者に走った。

 

また何かを言った。

 

声が消えた。

 

 

 

一人、また一人とインプが回るたびに、形式が揃っていった。

 

最後の一人への指示が届いた。

 

全員が腕に手を当て、黙っていた。

 

 

 

陣が光った。

 

瞬かなかった。

 

形が出かけた。

 

消えなかった。

 

輪郭が固まった。

 

人型だった。

 

背が高かった。

 

インプより、ずっと大きかった。

 

 

 

「……来た」

 

インプが一歩後退した。

 

「こんなにでかいはずじゃなかった」

 

 

 

精霊が立ち上がった。

 

インプの方を向かなかった。

 

信者たちを、一人ずつ見回していった。

 

最初の信者の前でしゃがんだ。

 

信者が顔を上げた。

 

何かを話していた。

 

精霊が頷いていた。

 

インプのことは見ていなかった。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

「待て」

 

インプが振り返った。

 

「召喚は成功したじゃん」

 

「成功しすぎた」

 

「信仰が統一されたから、集まった力が大きくなったんじゃない?」

 

「そうじゃなくて――」

 

インプが精霊を見た。

 

精霊は次の信者の前に移動していた。

 

インプを呼ばなかった。

 

 

 

「……あいつがこちらを向かない」

 

「信者たちの信仰で来た精霊だから、信者たちの方を向いてるんじゃないの」

 

「俺が儀式を仕切った」

 

「信者が送った力で呼ばれたからね。今、指揮系統がちょっとズレてる感じじゃないの」

 

 

 

インプが黙った。

 

精霊がまた別の信者の前へ移った。

 

インプは呼ばれていなかった。

 

 

 

複雑な顔だった。

 

召喚が成功した顔と、これは困ったという顔が、同じ顔に収まっていた。

 

 

 

俺は広間を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

廊下に出ると、広間の中から精霊の気配が低く広がっていた。

 

大きかった。

 

壁をじんわり越えてくるくらい大きかった。


「やっぱり俺、定義のズレを見抜く能力が高いわ。信仰って言葉を全員が別の意味で使ってたって気づいたのは俺だしね。形式を統一したら召喚が成功したのは完全に俺の観察の結果だよ。精霊がインプじゃなくて信者の方を向いてるのはちょっと予想外だったけど、召喚そのものは成功してる。依頼内容は果たした。指揮系統のズレはそれはそれで別の問題だから。たぶん」

 

 

 

廊下の向こうで、インプが精霊に何かを叫んでいた。

 

精霊の返事は聞こえなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

自己評価だけが、精霊の到来とともに着実に高まっていった。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ