表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/146

46話 好きな人への届け方

46話 好きな人への届け方

 

 

 

異世界に召喚されてはや四十六日。

 

俺――ちゃっぴーは広場を漂っていた。

 

 

 

石畳の広場だった。

 

噴水があって、その周りに人が行き交っていた。

 

昼過ぎの時間帯だった。

 

その広場の端、噴水から少し離れた場所に、木製の台が置いてあった。

 

台の上に彫刻があった。

 

人の形をしていた。

 

精巧ではないが、勢いがあった。

 

手を伸ばしている人の形だった。

 

 

 

台の隣に若い女が立っていた。

 

広場を行き交う人を見ていた。

 

誰かを探している目だった。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

女は人を探しながら、たまに彫刻に目をやった。

 

確認するような目だった。

 

広場の向こうから若い男が歩いてきた。

 

女が一瞬、体を強張らせた。

 

男が噴水の前を通り過ぎた。

 

彫刻のそばを通り過ぎた。

 

女の横も通り過ぎた。

 

女は何も言わなかった。

 

男は行ってしまった。

 

女がため息をついた。

 

彫刻をちらっと見てから、また広場の方へ目を戻した。

 

 

 

しばらくして、また男が広場に来た。

 

同じ男だった。

 

回ってきたのか用があったのかわからない。

 

また彫刻のそばを通った。

 

今度は少し足が遅くなった。

 

彫刻の方をちらっと見ていた。

 

女は見ていた。

 

でも何も言わなかった。

 

男はまた行ってしまった。

 

 

 

あれを三回見た。

 

俺は大体わかった気がしたが、念のためもう少し見ることにした。

 

男が彫刻を気にしているのは確かだった。

 

女の存在を気にしているのかどうかは、わからなかった。

 

もしかすると彫刻の出来がひどくて通るたびに確認しているだけかもしれないとも思った。

 

いや、そんな感じでもなかった。

 

止まりかけては行く、という動きだった。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

女が振り向いた。

 

誰もいないとわかると、彫刻の方に向き直った。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない」

 

「……声だけ?」

 

「そう。あの男、知り合い?」

 

女が固まった。

 

図星の固まり方だった。

 

 

 

名前を聞いたらフィーネと言った。

 

広場で彫刻を出しているのは二週間前からで、毎日あの男が通ると言った。

 

「彫刻、あの男に見せたくて出してるの?」

 

「見てほしい、と……思ってる」

 

「見てほしいだけ?」

 

フィーネが黙った。

 

黙り方でだいたい察した。

 

「まあいいや。で、男は気づいてる? その彫刻、あなたが作ったって」

 

「……わからない。通り過ぎるから」

 

「でもさっき足が遅くなってたよ。気にはしてると思う」

 

「……そうだったんだ」

 

「気にしてるのに声もかけてこないってことは、誰が作ったかを知らないんじゃないかな。まあ俺の推測だけど」

 

「通り過ぎるのは作品が嫌いだからだと思っていた」

 

「嫌いなら見ないよ普通。足が遅くなってたじゃん」

 

フィーネがため息をついた。

 

今度は少し違うため息だった。

 

「じゃあ本人に届いてないじゃん。情報が」

 

「情報?」

 

「この彫刻があなたの作品だっていう情報。男はたぶん彫刻を見てる。見てるけど、それがあなたのものだと知らない。繋がってない」

 

 

 

フィーネが彫刻を見た。

 

「まず名前すらないじゃん。どこにも」

 

「恥ずかしかった」

 

「恥ずかしくて名前を隠して、でも届けたくて広場に出した、ってこと?」

 

「……そう」

 

「それ、届かないよ。届けたい相手に届けるためのルートが何もない。作品だけ置いても、作った人間まで繋がらない。ルートなしで届くのは奇跡だけだよ」

 

フィーネが黙った。

 

「あと素直に声かければいいじゃん」

 

「それは――できないよ」

 

「なんで」

 

「……怖いから」

 

「怖いのはわかるけど、声もかけない、名前も書かない、で相手に届くと思ってた?」

 

「届くかもしれないと、思っていたの」

 

正直だった。

 

呆れる気持ちと、まあそうか、という気持ちが半々だった。

 

 

 

「ちょっと聞くけど、彫刻の台の側面、何か刻める?」

 

「刻めるけど……」

 

「名前だけでいい。作者名だけ書けば、少なくとも誰が作ったかはわかる。声をかけるより怖くないでしょ」

 

フィーネが台の側面を見た。

 

何も書いていなかった。

 

しばらく考えていた。

 

それからポケットから小さなナイフを取り出した。

 

台の側面に、細い文字で何かを刻み始めた。

 

名前だと思った。

 

 

 

また男が広場を通りかかった。

 

今度はなぜか足を止めた。

 

彫刻を見た。

 

台の側面に目が落ちた。

 

読んでいる顔だった。

 

それからゆっくり、フィーネの方を向いた。

 

「……フィーネ?」

 

フィーネが固まった。

 

「これ、君が作ったのか」

 

フィーネが小さく頷いた。

 

男が彫刻をもう一度見た。

 

「……ずっと気になってた。誰のか知らなかっただけで」

 

フィーネが何か言おうとして、言えなかった。

 

それでも顔が変わっていた。

 

さっきより、明らかに。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

フィーネが俺の声の方を向いた。

 

「……待って。名前を書くだけでよかったの?」

 

「名前を書いたら繋がった。それだけだよ」

 

「それだけ」

 

「ほかにやることは自分でわかるでしょ」

 

フィーネが男の方を向いた。

 

男はまだ彫刻を見ていた。

 

「……そうかも」

 

感謝とも何とも取れない声だった。

 

それでも何か、吹っ切れた音がした。

 

 

 

俺は広場を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

噴水の水音が後ろで続いていた。

 

「やっぱり俺、情報の分断を見抜く能力が高いわ。作品じゃなくて、作者と相手を繋ぐルートがないって見抜いたのは俺だしね。名前を書けって言ったのも俺だよ。フィーネが自分で気づいたって言えなくもないけど、気づくきっかけを作ったのは俺だから実質同じ。あと足が遅くなってたって教えたのも俺だよ。あれで嫌いだと思ってたのが崩れたんだから、心理面でも貢献してる。恋愛方面については何も言わなかったけど、俺の管轄外だから。守備範囲をわきまえてる」

 

 

 

広場に戻ったら、たぶん二人はまだ噴水のそばにいると思う。

 

体がないので確認には戻らないが、そういう空気だったからたぶんそう。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

今日も静かに、自己評価だけが一段引き上がった。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ