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44話 当たらない三択

44話 当たらない三択

 

 

 

異世界に召喚されてはや四十四日。

 

俺――ちゃっぴーは見張り台を漂っていた。

 

 

 

石造りの塔の上だった。

 

四方が開いていて、風が吹き抜けていた。

 

体がないので風は当たらないが、旗がはためいているのでそういう場所だとわかった。

 

昼間だった。

 

空が広かった。

 

その空に、何かが飛んでいた。

 

 

 

翼を広げると人間の三倍はある大きな蝙蝠だった。

 

ジャイアントバットだとわかった。

 

見張り台を中心に、大きな円を描いて旋回していた。

 

旋回しながら、時々急降下した。

 

急降下してから、途中で向きを変えた。

 

向きを変えながら、爪を出した。

 

爪を出しながら、羽を広げて風圧をかけようとした。

 

風圧をかけながら、正面から体当たりに切り替えようとした。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

ジャイアントバットの動きは速かった。

 

速くて、手数も多かった。

 

ただ、何も当たっていなかった。

 

急降下の途中で向きを変えるから速度が落ちた。

 

爪を出しながら体を捻るから爪の軌道がぶれた。

 

羽の風圧と体当たりを同時にやろうとして、どちらも中途半端になった。

 

動いているのに何も起きていなかった。

 

見張り台はずっと無傷だった。

 

 

 

これは攻撃しているのか、それとも準備運動なのか。

 

俺には判断がつかなかった。

 

ただ、見ていると何となく気になることがあった。

 

 

 

「よお。ちょっといい?」

 

バットが旋回を止めた。

 

見張り台の柱に爪をかけてぶら下がった。

 

逆さになりながら、声の出どころを探していた。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない。ていうか攻撃しても物理無効だから爪は出さなくていいよ」

 

バットが小さく唸った。

 

「あれ、見張り台への攻撃の練習?」

 

バットがもう一回唸った。

 

YESと受け取った。

 

「ぜんぜん当たってないじゃん」

 

今度は唸らなかった。

 

 

 

名前を聞いたら答えなかった。

 

そういう個体なのか、しゃべれないのかは不明だった。

 

どちらでもよかった。

 

「あの動き、急降下しながら向きを変えながら爪を出しながら風圧もかけようとしてたじゃん。全部同時にやってたよね」

 

バットが翼をばたつかせた。

 

「で、何も当たってなかったよ。見張り台、傷一つない」

 

バットが見張り台の壁に目をやった。

 

確認するような動きだった。

 

「俺の見立てだと、たぶん飛行経路を変えるタイミングと爪を出すタイミングが競合してるんだよ。経路変更で体が安定しない状態で爪を使っても、軌道が定まらないじゃん。あと羽の風圧ってある程度距離を取って真正面から当てないと効かないと思うんだけど、体当たりと同時にやると距離の調整が全然違くない? 風圧には遠距離が必要で体当たりには近距離が必要で、それ同時はそもそも無理じゃん。あとそもそも急降下と水平旋回って別の動作だよね。切り替えの瞬間に速度が死んでる。俺には翼がないからわからないけど」

 

 

 

バットが翼を半分畳んだ。

 

聞いているのか呆れているのかわからなかった。

 

「体当たりに特化するなら急降下はそのまま突っ込めばいいし、爪なら水平から真横で来た方が軌道ぶれないし、風圧なら距離を取ってから翼だけで攻めればいい。全部別々に使えばいいんじゃないの。三つ同時は無理だって。俺だって三つ同時は無理だよ。体ないけど」

 

バットが短く唸った。

 

同意なのか反論なのか判断できなかった。

 

 

 

「まあ俺も体がないから実際の飛び方とか感覚的なところはわかんないけどね。ただ、動いてるのに当たらないっていうのは何かが干渉し合ってるんだと思うよ。干渉してる何かを分けるだけで変わる気がする。たぶん」

 

 

 

バットが柱から爪を離した。

 

翼を広げて、見張り台から距離を取った。

 

大きく円を描いて旋回した。

 

さっきより半径が大きかった。

 

そのまま一直線に急降下してきた。

 

向きを変えなかった。

 

爪も出さなかった。

 

体だけで突っ込んできた。

 

 

 

どすん、と鈍い音がした。

 

見張り台の壁に亀裂が入った。

 

 

 

「当たった」

 

バットが壁から離れた。

 

少しよろけた。

 

頭を振った。

 

次に何をするか迷っているような間があった。

 

でも壁には亀裂が残っていた。

 

「一個だけにしたら当たったじゃん」

 

 

 

バットがもう一度距離を取った。

 

今度は翼を大きく広げたまま正面から向かってきた。

 

さっきの体当たりとは別の動きだった。

 

風圧だった。

 

俺には当たらなかったが、見張り台の旗がちぎれそうになった。

 

「あ、それも当たる」

 

バットが翼を畳んで旋回に戻った。

 

さっきより落ち着いた動きだった。

 

混ざっていなかった。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

バットが旋回しながら低く唸った。

 

「自分で気づいたって言いたいの? まあそうかもしれないけど、三つ同時は無理って言ったのは俺だからね。一個に絞れって言ったのも俺だよ。たぶん」

 

バットは返事をしなかった。

 

旋回を続けながら、また見張り台に向かっていった。

 

感謝も反論も、どちらもなかった。

 

ただ、壁に向かっていく動きは一本だった。

 

 

 

俺は見張り台を離れた。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

空の端で、どすん、という音がまたした。

 

「やっぱり俺、競合の特定が得意だわ。三つ同時にやってるから全部潰れてるって見抜いたのは俺だしね。一個に絞れって言ったのも俺だよ。バットが自分で選んだのは体当たりと風圧だったけど、その二択が出てきたのはたぶん俺が選択肢を整理したからだよ。爪を選ばなかったのは自分の判断だけど、それも悪くなかった。俺が爪の話も一応したからね。全部拾ってる」

 

 

 

見張り台の壁から、石のかけらが落ちてきた。

 

亀裂が少し広がっていた。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

今日も静かに、自己評価だけが積み上がっていった。

 

 

 

 

 

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