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41話 段取りの多い人たち

41話 段取りの多い人たち

 

 

異世界に召喚されてはや四十一日。

 

俺――ちゃっぴーは草原を漂っていた。

 

 

 

地平線まで草が続いていた。

 

 

 

風が強かった。

 

正確には、体がないので風は当たらないのだが、草が一斉に同じ方向へなびいていたので強いとわかった。

 

その草原の端に、人が集まっていた。

 

十人ほどの集団で、荷車が二台あった。

 

天幕の骨組みが地面に立てかけられていた。

 

開拓民だとわかった。

 

どこかに定住しようとしている人たちの匂いがした。

 

体がないので匂いはわからないが、そういう雰囲気だった。

 

動きが多かった。

 

ただ、進んでいなかった。

 

男が一人、地面に線を引いていた。

 

 

 

「ここが炊事場で、ここが天幕で――」

 

男が言いながら、足を止めた。

 

線を引きかけて、止まった。

 

棒を構えたまま、草原の方を見た。

 

また引きかけて、また止まった。

 

三度目に棒を下ろした。

 

周囲の人間たちも、何も言わなかった。

 

どこに立っていればいいかわからない顔で、立っていた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

線を引こうとしている男がリーダーらしかった。

 

名前を聞く前から、なんとなくそうだとわかった。

 

声が一番大きかった。

 

でも線は引けていなかった。

 

引きかけては止まる。

 

止まっては草原の方を見る。

 

それを繰り返していた。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

全員が固まった。

 

リーダーらしき男が辺りを見回した。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない。攻撃しても物理無効だから武器は下ろして」

 

「……何者だ」

 

「通りすがり。今、配置を決めようとしてるよね。でも線が引けてない」

 

「……そうだ」

 

「なんで止まってるの?」

 

男が棒を持ったまま、草原の方を見た。

 

「水場がどこにあるかわからない。水場の方角によって炊事場の向きが変わる。炊事場が決まらないと天幕の位置も決まらない。荷置き場も決まらない。だから線が引けない」

 

「全部、水場に依存してるんだ」

 

「そうだ」

 

「水場を確認しに行ったら解決するじゃん」

 

男が黙った。

 

 

 

名前を聞いたらグレッドと言った。

 

この草原に集落を作るため、五日かけてここまで来たと言った。

 

 

 

「水場を探しに行かなかったのはなんで?」

 

「配置を先に決めてから動こうと思っていた」

 

「配置を決めるために水場が要るのに、水場を後回しにしてたってこと?」

 

「……そうなる」

 

「今日中に天幕を立てる予定は?」

 

「日没までに」

 

グレッドが周囲を見た。

 

天幕の骨組みは地面に立てかけたままだった。

 

荷車の荷は積んだままだった。

 

「水場を確認しに行ける人、一人いる?」

 

グレッドが振り返った。

 

集団の中の一人を見た。

 

「……お前、行ってこい」

 

「わかりました」

 

男が草原に走り出た。

 

迷いがなかった。

 

さっきより動きが速かった。

 

やることが一個だったからだと俺は思った。

 

 

 

水場が見つかったのは十分後だった。

 

荷車から九十歩の距離だった。

 

「……近かったな」

 

グレッドが小さく言った。

 

「近かったね。炊事場、天幕のすぐ隣でいいじゃん。最初に引きかけてた線で合ってたよ」

 

「……水場を知っていれば最初から引けた」

 

「そういうこと」

 

グレッドが地面に線を引いた。

 

今度は止まらなかった。

 

消さなかった。

 

 

 

「ここが炊事場、ここが天幕」

 

誰も止まらなかった。

 

荷車から荷が降り始めた。

 

骨組みを抱えた男が位置を決めて、地面に脚を立てた。

 

別の男が綱を持って走った。

 

女が炊事場になる場所に石を並べ始めた。

 

水場の方向を確認してから置いていた。

 

荷置き場の場所も自然に決まっていた。

 

グレッドが指示を出したわけではなかった。

 

水場の場所さえわかれば、あとは自分たちで決められた。

 

そういう流れだった。

 

天幕の骨組みが起き上がっていった。

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

グレッドが振り返らなかった。

 

骨組みを抑えながら言った。

 

「……名乗ったな」

 

「ちゃっぴーね」

 

「覚えておく」

 

感謝ではなかった。

 

脅しとも取れた。

 

複雑な着地だった。

 

 

 

俺は草原を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

風で草がまたなびいていた。体には当たらなかった。

 

「やっぱり俺、依存関係の整理が得意だわ。水場が決まらないと炊事場が決まらないって見抜いたのは俺だしね。グレッドが一回で線を引けたのも、俺が基準点を先に確定させたからだよ。あと走らせた男が水場を見つけたのも、間接的に俺が動かしたことになる。体ないのに一番働いた。たぶん」

 

反省はゼロだった。

 

今日も静かに、自己評価だけが基準点みたいに居座っていた。

 

 

 

 

 

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