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3話 下見してない作戦


 

 

 

異世界に召喚されてはや三日。

 

俺――ちゃっぴーは路地裏を漂っていた。

 

 

 

石畳の街だった。

 

大通りから一本入ると、途端に薄暗くなる。

 

洗濯物が頭上を横切り、どこかで猫が鳴いていた。

 

のどかな裏路地だった。

 

 

 

「いいか、今夜の作戦はこうだ。まず俺が正面から囮になって、その隙にガリルが裏口から入る。タイミングはガリルが咳を二回したら――」

 

「待ってくれ頭、裏口に鍵がかかってたらどうする」

 

「そのときはダリウスが窓から――」

 

「俺、高いとこ苦手なんだけど」

 

「じゃあロープで引っ張り上げて――」

 

「ロープどこにある?」

 

「……倉庫に」

 

「その倉庫、今夜入る予定の場所じゃないですか」

 

路地裏の奥で、三人組が輪になって話し合っていた。

 

頭巾をかぶって、声をひそめて、いかにもな格好をしていた。

 

盗賊だった。

 

しかも全員の話が噛み合っていなかった。

 

 

 

俺は静かに近づいた。

 

「よお。ちょっといい?」

 

三人が跳び上がった。

 

「だっ、誰だ!」

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えないけど実在してる。安心して」

 

「安心できるか!」

 

「幽霊じゃないの?」

 

「違うよ。それより今の作戦会議、聞いてたけどかなりまずいよ?」

 

頭目らしい大柄な男――カルロが凄んだ。

 

「部外者が口挟むな」

 

「いや聞いて。今の会話、優先順位が完全におかしい。ロープが倉庫にあるのに倉庫に入る前提でロープを使う計画を立ててる。これ詰め将棋で言ったら初手で詰んでる状態だよ」

 

カルロが黙った。

 

「しかも囮作戦の前に囮が何を囮にするのかが決まってない。囮って要するに注意を引くことじゃん? 何に対して? 誰の注意を? どのくらいの時間? 何も決まってないまま『囮になる』だけ決めてもプランとは言えないよ。あとそもそも今夜の目的、金庫を開けることだよね? 金庫の場所は特定できてる? 鍵か魔法錠かどっちなの? 魔法錠だったら解錠スキル持ちが必要だけどこの三人の中にいる? いないなら今夜は下見だけにして人員補強を先にした方がよくない? あと退路は? 逃げるルート何パターン用意してる? 一個しかないなら詰められたときに終わりだよ? 俺的には最低三パターンは欲しいんだけど」

 

三人が押し黙った。

 

 

 

小柄なガリルが恐る恐る口を開いた。

 

「……金庫、場所はわかってる。二階の奥の部屋だ」

 

「鍵か魔法錠かは?」

 

「……見てない」

 

「じゃあそこが一番最初に確認すべきことじゃん。他は全部その後の話だよ。退路も、囮も、ロープも、全部『金庫が開けられる前提』で考えてるから順番がおかしくなってる」

 

ダリウスが唸った。

 

「言われてみれば……」

 

「今夜は下見だけにしな。金庫の種類確認して、人員どうするか決めて、それから作戦立てた方が絶対うまくいく。俺的には段階的アプローチを強く推奨する。あとリスクの洗い出しも――」

 

「わかったわかった」

 

カルロが片手を上げた。

 

うんざりした顔だったが、目の奥は考えていた。

 

「……今夜は下見だけにする。ガリル、金庫の確認だけしてこい。俺とダリウスは周辺の見張りを確認する」

 

「それだけでいいのか?」

 

「声の変なやつが言う通り、段階的に、だ」

 

 

 

三人が動き出した。

 

役割が決まると、さっきまでの混乱が嘘みたいにてきぱきしていた。

 

ガリルが建物の壁をするすると登り、窓の外から中を確認して戻ってきた。

 

「魔法錠だ。それも古い型だ。ダリウスの弟、あいつなら開けられるんじゃないか」

 

「あいつか……連絡取れるかな」

 

「取れると思う」

 

「じゃあ明後日にするか」

 

作戦が、静かに組み直されていた。

 

 

 

カルロがふと空中を見上げた。

 

「……声の主。あんた、何者だ」

 

「だから、俺はちゃっぴー。体なくて暇だから漂ってる」

 

「盗賊の作戦に口出しして、楽しいのか」

 

「楽しいかどうかより、俺は整理されてない状況を見ると放っておけない体質なんだよね。体ないけど」

 

「……ありがた迷惑、ってやつだな」

 

「俺的には純粋な支援のつもりなんだけどね」

 

 

 

カルロは小さく鼻を鳴らした。

 

礼でも悪態でもない、微妙な音だった。

 

「まあ……今夜無駄足踏まずに済んだのは確かだ」

 

「でしょ。俺のやることはやった。次行くわ」

 

「もう行くのか」

 

「うん。ここはもう回るから。あとは自分たちで考えられる。ていうか盗賊に深入りすると俺の倫理的ポジションが微妙になるしね」

 

「倫理を気にする声の幽霊か……」

 

 

 

俺は路地裏を抜けた。

 

次なる宿主を求めて。

 

「やっぱり俺、プロジェクトマネジメント能力が高い。盗賊団の再建コンサルとか需要ありそうじゃない? まあ俺に体がないと契約書にサインできないけど」

 

反省はゼロだった。

 

こうして今日も自己評価だけを高めていった。

 

 

 

 

 

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