表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

31話 結界の中身


 

 

 

異世界に召喚されてはや三十一日。

 

俺――ちゃっぴーは結界の中を漂っていた。

 

 

 

薄く光る膜が周囲を囲んでいた。

 

球形だった。

 

直径は十メートルほどだった。

 

結界の外は森で、木の葉が風に揺れていた。

 

結界の中は風がなかった。

 

静かだった。

 

静かなはずだった。

 

 

 

「急げ急げ急げ! 時間がない!」

 

結界の中で、小さな生き物が走り回っていた。

 

赤い肌に小さな角、蝙蝠の羽を持っていた。

 

インプだとわかった。

 

走り回りながら、地面に何かを並べていた。

 

石と棒と草を、一定の間隔で置いていた。

 

置いては走って、置いては走っていた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

インプは速くて、手数も多かった。

 

ただ、並べた石と棒と草が、一カ所だけ密集していた。

 

端の方はまだ何もなかった。

 

均等に並べようとしているのに、均等になっていなかった。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

インプが走りながら叫んだ。

 

「邪魔するな!」

 

「あそこ、密集してるよ」

 

インプが止まった。

 

密集している場所を見た。

 

「……ちっ」

 

並べ直し始めた。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない」

 

「知らん! 急いでる!」

 

「何の結界なの?」

 

「魔物除けだ! 日没までに完成させないといけない!」

 

「日没まであとどのくらい?」

 

「三十分もない!」

 

「今どのくらい進んでる?」

 

インプが結界の端から端を見た。

 

「……半分も終わってない」

 

「なんで密集したの、さっきの場所」

 

「急いでたから!」

 

「どこから置き始めたの?」

 

「入口から!」

 

「入口に近い方から順番に置いてきたってこと?」

 

「そうだ! 何が悪い!」

 

俺は少し考えた。

 

入口から順番に置いている。

 

急いでいるので間隔が乱れる。

 

乱れたら並べ直す。

 

並べ直している間に時間が減る。

 

また急ぐ。

 

また乱れる。

 

これが繰り返されていた。

 

 

 

「ちょっと聞くけど、結界の素材、全部でいくつある?」

 

「石が二十、棒が二十、草が二十。全部で六十だ」

 

「結界の円周に均等に置くとして、何カ所に置く?」

 

「二十カ所だ! 三種類を一セットで置く!」

 

「二十カ所を均等に割るなら、先に置く場所を決めてから置いた方が乱れないんじゃない? 今は置きながら間隔を目で測ってるから乱れる。先に二十カ所に印をつけてから置けば、置くだけになる」

 

インプが止まった。

 

「印をつける時間がもったいない」

 

「並べ直す時間の方がもったいなくない? さっきの密集を直すのに何分かかった?」

 

インプが黙った。

 

「印をつけるのに何分かかる?」

 

「……一分もあれば」

 

「並べ直しは?」

 

「……三分はかかった」

 

「じゃあ印をつけた方が速いじゃん」

 

 

 

インプが結界の中を見回した。

 

まだ何も置いていない端の方を見た。

 

置きかけの密集した中央を見た。

 

「……今から印をつけ直すか」

 

「残りの場所だけでいいよ。置いてある分はもう動かさない」

 

「でも間隔がずれる」

 

「多少ずれても結界は機能するの?」

 

「……完璧じゃなくても機能はする」

 

「じゃあ置いてある分はそのままにして、残りの場所だけ先に印をつける。それだけ」

 

インプが小石を一つ拾った。

 

地面に置いてある素材の間隔を確認しながら、まだ何もない場所に小石を並べ始めた。

 

目印だった。

 

一周分の目印を置くのに一分もかからなかった。

 

インプが走り始めた。

 

今度は目印の場所に素材を置いていった。

 

迷わなかった。

 

並べ直しがなかった。

 

速かった。

 

 

 

日没まで十分ほど残して、インプが最後の素材を置いた。

 

結界の光が安定した。

 

均等ではなかった。

 

でも光っていた。

 

「……できた」

 

「できたね」

 

「時間が余った」

 

「印をつけた分が効いたんじゃない?」

 

インプが結界を一周見回した。

 

「……多少ずれてるが、光ってる」

 

「機能してるなら十分でしょ」

 

インプが羽をばたつかせた。

 

安堵の動きだとわかった。

 

「……最初から印をつければよかった」

 

「急いでたからね」

 

「急いでたから乱れて、乱れたから余計に時間がかかった」

 

「そうだよ」

 

インプは短く返事をした。

 

それ以上は言わなかった。

 

認めたくないが認めた顔だった。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

インプが羽を畳んだ。

 

「……名前は」

 

「ちゃっぴー」

 

「ちゃっぴー」

 

繰り返した。

 

覚えようとしているのか確認しただけなのかわからなかった。

 

「礼は言う。ただ、お前がいなくても気づいた」

 

「いつ?」

 

「……日没後には」

 

「結界が完成してない状態で気づいても遅いじゃん」

 

インプが黙った。

 

返事はなかった。

 

でも反論もなかった。

 

 

 

俺は結界を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

森の夜風が木の葉を揺らしていたが、体がないので当たらなかった。

 

「やっぱり俺、段取りの最適化が得意だわ。置きながら測るから乱れるって見抜いて、先に印をつけろって言ったのは俺だしね。インプが日没後には気づいたって言ってたけど、間に合ってないじゃん。間に合わせたのは俺だよ。たぶん。結界が多少ずれてても光ってるのも、完璧主義を手放させた俺の功績だと思う」

 

 

 

結界の光が森の暗がりに浮かんでいた。

 

均等ではなかったが、消えなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

自己評価だけが淡々と増えていた。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ