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30話 見せ方の問題


 

 

 

異世界に召喚されてはや三十日。

 

俺――ちゃっぴーは路地裏を漂っていた。

 

 

 

石畳の路地に、屋台の明かりが届いていた。

 

大通りから一本入ると薄暗くなる、そういう路地だった。

 

夕方だった。

 

人通りが減り始める時間帯だとわかった。

 

路地の端で、男が一人立っていた。

 

上等な服を着ていた。

 

ただし、上等な服にしては所々がほつれていた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

男は通り過ぎる人間を見ていた。

 

声をかけようとして、やめていた。

 

声をかけようとして、またやめていた。

 

踏み出せずにいた。

 

詐欺師だとわかった。

 

詐欺師にしては、踏み出せていなかった。

 

 

 

「よお ちょっといい?」

 

男が振り返った。

 

誰もいないとわかると、また大通りの方を向いた。

 

「声だけの存在、ちゃっぴーだよ。体ないから見えない」

 

「……声だけの存在に用はない」

 

「詐欺、うまくいってないじゃん」

 

男が止まった。

 

「詐欺師じゃない」

 

「じゃあなんで声をかけようとしてやめてるの」

 

「……考え中だ」

 

「何を?」

 

「どう声をかけるか」

 

「なんで決まらないの?」

 

男が黙った。

 

図星の黙り方だった。

 

 

 

名前を聞いたらレイムと言った。

 

言葉巧みに人を騙す能力があると言った。

 

「どんな能力?」

 

「声に乗せた言葉が、相手に真実として伝わる」

 

「嘘が本当に聞こえるってこと?」

 

「そうだ」

 

「それで今日は何をするつもりだったの?」

 

「貴族のふりをして、投資話を持ちかける」

 

「上等な服着てるのはそのため?」

 

「そうだ」

 

「うまくいってないじゃん」

 

「……声をかける前に相手が通り過ぎてしまう」

 

「なんで声をかけるのが遅いの?」

 

レイムが少し間を置いた。

 

「……相手を選んでいる」

 

「どうやって?」

 

「裕福そうな人間を探している」

 

「裕福そうな人間を見分けるのに時間がかかって、その間に通り過ぎてるってこと?」

 

「そうなる」

 

 

 

俺は少し考えた。

 

声に乗せた言葉が真実として伝わる能力がある。

 

なのに声をかけられない。

 

声をかける前の段階で詰まっていた。

 

能力の出番が来ていなかった。

 

「ちょっと聞くけど、その能力、声をかけた後に使うものでしょ」

 

「そうだ」

 

「じゃあ声をかける前の問題には、その能力は関係ないじゃん」

 

レイムが止まった。

 

「今、能力を使う前の段階で詰まってる。裕福そうかどうかを見分けようとしてるから時間がかかって、その間に相手が行ってしまう。能力があっても使えてない」

 

「……どうしろと言うんだ」

 

「裕福かどうかを判断してから声をかけようとするから遅くなるんじゃない? 先に声をかけて、反応を見て、続けるかやめるかを決めた方が速くない?」

 

「声をかけた後に相手が裕福じゃなかったら無駄になる」

 

「今は声をかける前に相手が行ってしまってる。全員に無駄になってるじゃん。裕福じゃない相手に一回声をかける無駄と、全員を取り逃がす無駄、どっちが大きい?」

 

 

 

レイムが長い間黙った。

 

路地の向こうで人が通り過ぎた。

 

また通り過ぎた。

 

「……先に声をかける」

 

「うん」

 

「で、反応を見て続けるか決める」

 

「そうだよ。能力があるなら声をかけた後はどうにかなるんでしょ」

 

「……なる」

 

「じゃあ声をかけることだけ考えればいい」

 

レイムが大通りの方を向いた。

 

次の人影が路地の入口を通りかかった。

 

レイムが一歩踏み出した。

 

 

 

「少しよろしいですか」

 

声をかけた。

 

相手が足を止めた。

 

レイムが続けた。

 

俺には聞こえない声だったが、相手の表情が変わっていくのは見えた。

 

引き込まれていく顔だった。

 

能力が機能していた。

 

 

 

しばらくして、レイムが路地に戻ってきた。

 

財布を持っていた。

 

「……うまくいった」

 

「声をかけたらいけたじゃん」

 

「……そうなった」

 

複雑な顔だった。

 

うまくいった顔と、今まで何をしていたんだという顔が混ざっていた。

 

「能力は最初からあったじゃん。使う前の段階が問題だっただけで」

 

「……そうなる」

 

「まあ詐欺はよくないと思うけどね」

 

「今更言うな」

 

「一応言っておかないといけないから」

 

レイムは財布を懐に入れた。

 

返事をしなかった。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

「もう行くのか」

 

「うん。あとは自分でできるでしょ」

 

「……まあ、そうなる」

 

短い返事だった。

 

感謝はなかった。

 

詐欺師なので感謝を期待していなかった。

 

でも複雑な顔はしていた。

 

迷惑とも何とも取れない顔だった。

 

 

 

俺は路地裏を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

大通りに出ると、夕方の人通りが戻ってきていた。

 

屋台の明かりがついていた。

 

「やっぱり俺、能力の使い方の整理が得意だわ。能力を使う前の段階に問題があったって見抜いたのは俺だしね。先に声をかけて反応を見て決めろって言ったのも俺だよ。詐欺師を助けてしまったのはちょっと複雑だけど、能力の適用タイミングの問題を解決したのは事実だからね。あと一応よくないって言ったし。それで帳消し。たぶん」

 

 

 

路地の奥で、レイムがまた誰かに声をかけていた。

 

今度は迷わなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

自己評価だけが都合よく上がっていた。

 

 

 

 

 

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