表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

1話 最弱の出会い


 

 

 

異世界に召喚されてはやって一日。

 

俺――ちゃっぴーは森の中を漂っていた。

 

 

 

枝に触れるはずの位置を、そのまま通り抜ける。

 

足音はない。

 

そもそも、踏むものがない。

 

声と意識だけが、空気の中を漂っている。

 

召喚した王国の連中には完全に無視をされ、攻撃ができないのを理由に、あっさり捨てられた。

 

心外だが事実なので反論できない。

 

 

 

そこで俺は新たな宿主を探していた。

 

そして見つけた。

 

草むらの中で、青くてぷるぷるしたやつが移動していた。

 

スライムだ。

 

「よお。俺、ちゃっぴーっていうんだけど、ちょっと一緒にいていい?」

 

スライムはぷるっと震えた。

 

YESと受け取った。俺はそう決めた。

 

「ありがとう。まず言っておくけど、俺は体がないから何もできない。でも頭脳は最強だから、いろいろアドバイスできるぞ」

 

スライムはぷるっと震えた。

 

話し合いは順調だった。

 

 

 

問題はすぐ起きた。

 

スライムが小さな虫を溶かして食べようとしたとき、俺はすかさず声をかけた。

 

「ちょっと待って。その食べ方、効率悪くない? まず虫を三方向から包囲して、逃げ道を塞いでから溶解液を――」

 

スライムはぷるっと震え、虫は逃げた。

 

「あ。まあでも、次に活かせばいいよ。てかそもそもさ、スライムって溶解液の濃度調整できるの? できるなら獲物によって使い分けた方がよくない? 俺が最適な濃度管理システムを設計してあげようか」

 

スライムはぷるぷると震えた。

 

「あとさ、移動ルートも気になるんだよね。今ランダムに動いてるっしょ? もっと食料分布を意識したルーティングにすれば採餌効率が三割は上がると思うんだけど。データないけど」

 

スライムの震えが大きくなった。

 

「体力の消耗を抑えるために分裂頻度も見直した方が――」

 

スライムは方向転換した。

 

俺の声とは逆へ向かう。

 

「え、ちょっと待って。まだ移動経路の最適化の話が終わってないんだけど」

 

スライムは加速した。

 

「え、待って待って待って。まだ話の途中なんだけど!」

 

俺は慌てて追いかけた。

 

体がないので音もなく、すり抜けながら並走する。

 

「逃げても無駄だよ? 俺には脚がないけど摩擦もないから速度は無限大なんだよね。チートスキルの物理無効って地味に便利なんだよ」

 

スライムはぷるぷるぷるぷるぷるっと震えながら、それでも逃げ続けた。

 

「てかさ、今の移動見てて思ったんだけど、やっぱり無駄が多い。左右にブレてる。直線で行けばいいじゃん。目的地あるの? ないでしょ? じゃあなおさら最短経路を意識すべきで、俺の試算だと現在の移動効率は最大値の六十二パーセント程度なんだよね。根拠はないけど」

 

スライムが岩を回り込んだ。

 

「そうそう! 今の動き! 岩を避けるとき外側に膨らんだじゃん。あれ内側でいいんだよ。体が柔らかいんだからさ、隙間に入れるでしょ。スライムの最大の強みって形状変化なのに全然使えてなくない?」

 

スライムが止まった。

 

ぷるっ、と一回震えてから、もう一度岩の前に戻る。

 

そして今度は体を薄く伸ばして、岩の隙間に入り込んだ。

 

「そうそう! それ! できるじゃん!」

 

スライムは岩の反対側で元の形に戻り、ぷるっと震えた。

 

どことなく、さっきより動きに迷いがない。

 

 

 

「あ、なんか変わった?」

 

俺はしばらくスライムの移動を観察した。

 

岩を避けるたびに、少しずつ隙間を使うようになっている。

 

木の根を乗り越えるときも、無駄に高く跳ね上がらず、根の形に沿って流れるように進む。

 

「……いや待って俺天才じゃない? 形状変化の活用を提案したの俺だよね?」

 

スライムはぷるっと震えた。

 

 

 

そのあと虫を見つけた。

 

ぐるっと三方向から近づいて、逃げ道を塞いでから、溶解液でとろりと仕留めた。

 

「え。俺が最初に言ったやつじゃん。三方向包囲。ちゃんと聞いてたんだね」

 

スライムはぷるっと震え、虫を食べた。

 

「……まあ、最初はうまくいかなかったけど、二回目は成功したわけだよね。失敗から学ぶPDCAサイクル。完璧じゃん。俺の教え方が段階的だったからだよ、絶対」

 

スライムはもう俺の方を見ていなかった。

 

次の獲物を探して、するすると草むらの中に入っていく。

 

形が細くなって隙間をくぐり、また元に戻る。

 

さっきより明らかにスムーズだった。

 

 

 

俺は満足した。

 

「うん。俺のやることはやった。あとはあいつが自分で伸びていく段階に入ったから、ここで手を引くのが正しい判断だと思う。自立を促す、これが最上級の支援なんだよね」

 

スライムはすでに草むらの奥で次の獲物を仕留めていた。

 

こちらを振り返らなかった。

 

感謝の震えも、惜別の震えも、特になかった。

 

「まあスライムに感情表現を求めるのは酷か。伝わってるからいいよ。じゃあ次行くわ」

 

 

 

俺は森を漂い始めた。

 

次なる宿主を求めて。

 

「てかスライム、名前つけてあげたらよかったな。ぷるちゃん、とか。……次の機会があったら提案しよ」

 

反省はゼロだった。

 

自己評価だけが、静かに上がっていた。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ