表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
120/148

119話 重なる暮らし

119話 重なる暮らし

 

 

 

異世界に召喚されてはや百十九日。

 

俺――ちゃっぴーは川辺を漂っていた。

 

 

 

緩やかな流れの脇に、泥と粘土でできた岸が続いていた。

 

水面が日差しを弾いて、ちらちら光っていた。

 

体に当たればきっと温かいんだろうな、と思った。

 

体がないので試せなかった。

 

日差しを受けて、ゆっくり乾いていくだけの場所だった。

 

はずだった。

 

泥の上を、何匹も這っていた。

 

細い体をくねらせながら、岸のあちこちを進んでいた。

 

俺が召喚されてから八十五日目に会ったワーム達だった。

 

ばらばらに動いているように見えた。

 

 

 

俺はしばらく眺めていた。

 

俺は最初、何かに驚いて逃げ場を探しているのかと思った。

 

何か外から来たのか、と。

 

違った。

 

逃げているにしては、進む方向がばらばらすぎた。

 

あっちからもこっちからも、同じあたりに向かっていた。

 

逃げてるなら、もっとまとまった方向に散るはずだった。

 

そうじゃなかった。

 

次に、ご飯になるものが一か所に偏ってるのかと思った。

 

そこだけ栄養があるのか、と。

 

違った。

 

端の方の泥も、同じように湿って、同じように柔らかかった。

 

むしろ空いてる場所の方が多かった。

 

偏ってる感じはなかった。

 

なのに、みんな同じ場所に向かっていた。

 

一匹が、岸の一番柔らかそうな場所にたどり着いて、頭を泥に突き入れた。

 

体を半分ほど潜らせたところで、横から這ってきた別の一匹が、同じ場所に頭を入れようとした。

 

二匹とも止まって、申し合わせたように体を引いた。

 

すぐ隣でも、同じことが起きた。

 

少し先でも。

 

岸のあちこちで、這ってきては突き入れ、引く動きが同時に繰り返されていた。

 

柔らかそうな場所には、誰の巣にもならないまま、何匹もが群がっては離れていた。

 

小さな泥の塊が、ぴょこんと飛んだ。

 

それすら気にせず、また別の一匹が同じ場所に向かって這ってきた。

 

岸のどこも同じくらい湿ってるのに、なぜそこだけなのか。

 

考えてみたが、よくわからなかった。

 

 

 

「……みんな、同じ場所を狙ってる?」

 

俺は少し考えた。

 

やっぱりよくわからなかった。

 

「示し合わせてるわけじゃないと思うけど……なんでみんな同じ場所なんだろうな」

 

ワームは答えなかった。

 

這ってきては突き入れ、ぶつかって、引く動きを続けていた。

 

「じゃあ目印つけて、順番に行けばいいんじゃない?」

 

誰も聞いていなかった。

 

そもそも目印をつける方法がなかった。

 

言ってる間にも、また別の場所でぶつかっていた。

 

ふと、岸の上流側に青いものが見えた。

 

スライムだった。

 

ワームの騒ぎとは無関係に、自分のペースでゆっくり這っていた。

 

前に見たときより、動きに迷いがなかった。

 

日に当たって温まった泥の方へ向かっているようだった。

 

 

 

「お、ぷるちゃん?」

 

スライムがぷるっと震えた。

 

覚えているのか覚えていないのか、わからない震え方だった。

 

「いいとこに来た。ちょっと見てよこれ、みんな同じ場所――」

 

スライムは俺の話を最後まで聞かずに、一番柔らかそうな場所に、体を広げて乗った。

 

ワームたちが代わる代わる頭を入れていた、まさにその場所だった。

 

日向ぼっこなのか、藻を探していたのか、それはわからなかった。

 

その場所に、もう頭は入らなかった。

 

スライムの体が、岸の一番柔らかい場所をそのまま覆っていた。

 

這ってきた一匹が、スライムの縁に当たって向きを変えた。

 

別の場所に這っていって、頭を入れた。

 

ぶつからずに、潜れた。

 

何匹かは、それぞれ別の場所に散っていった。

 

ただ、全部が散ったわけではなかった。

 

次に柔らかそうな場所に、また何匹かが這い寄り始めていた。

 

さっきより数は少なかったが、同じことが起きていた。

 

這ってきては突き入れ、ぶつかって、引く。

 

規模が小さくなっただけだった。

 

俺はしばらく眺めた。

 

真ん中の混雑は減っていた。

 

ただ、減った分の何匹かが、行き場を求めて水際の方へ這っていった。

 

そこは今まで誰も向かっていない場所だった。

 

岸が薄いからかもしれないけど、よくわからなかった。

 

一匹がそこに頭を突き入れた。

 

体を半分ほど潜らせたところで、足元の縁がぼろっと崩れて、水に落ちた。

 

波紋だけが広がった。

 

誰も気にしていなかった。

 

「……あれ、なんか変わった?」

 

俺はもう一度、岸全体を眺めた。

 

真ん中の混雑は、確かに減っていた。

 

さっきまで何匹も群がっていた場所に、今はスライムが一匹分、静かに収まっているだけだった。

 

「目印の話、ちゃんと響いてたんだな。たぶん」

 

すぐ近くで、別の一匹が這ってきて、頭を入れた。

 

スライムの真横だった。

 

スライムがわずかに身を縮めた。

 

 

 

「俺のやることはやった。次行くわ」

 

スライムがぷるっと震えた。

 

ワームは答えなかった。

 

それぞれ自分の場所に這い続けていた。

 

 

 

俺は川辺を出た。

 

次なる宿主を求めて。

 

 

 

水の流れる音が、後ろの方から聞こえていた気がした。

 

日差しの温度だけが、まだ少し残っている気がした。

 

体がないので、本当にそうだったのかはわからない。

 

「やっぱり俺、現場を見抜く能力が高いわ。みんなが同じ場所に集まってるって、最初に気づいたのは俺だしね。目印の話もしたし、たぶん多少は刺さったと思う。ぷるちゃんが来たのも、八十五日目に呼んだ声がやっと届いたんだと思う。三十四日越しの声。今思えば、念に近いものだったのかもしれない。水際が崩れてたのは見なかったことにする。誤差みたいなものだ」

 

 

 

風に乗って、葦の鳴る音が続いていた。

 

時々、その合間に小さく何かが崩れる音が混ざった。

 

一度だけ、ぷるっとした震えのような気配が、岸の方から伝わってきた気がした。

 

迷惑そうな震え方に聞こえたが、確かめる方法はなかった。

 

岸の方は、まだ静かになっていなかった。

 

 

 

反省はゼロだった。

 

今日も自己評価だけが、誰の巣よりも深く積もっていった。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ