71 通じ合ったふたつの想い
ジルさんが、私の事を好き……?
唇に触れる柔らかい感触とぬくもり。見開いたままの私の瞳にはジルさんの顔が間近にあり、恥ずかしさから自然と目を閉じてしまいました。
永遠かとも思われた長いキスが終わった頃には体の力が抜けてしまい、息が途切れながらもただひたすらにクエスチョンマークがよぎるばかりです。
「……ロティーナ、オレの気持ちわかってくれた?」
「────ジルさん……」
湿った唇を指で拭われてジルさんの指の感触にすら心臓が壊れそうなくらいでしたが、これだけははっきり言わなければいけません。
たとえ嘘でもそんな事を言われたら嬉しくて死にそうですが、それだけは許されてはならないのです……!
「……ジルさん!浮気は殺人の次に罪深い犯罪ですよ?!」
「……なっ、えっ、は?!」
ジルさんは王女様という愛する婚約者がいながら、私と浮気しようとするなんて!確かに今回は私が誘惑した形になってしまいましたが、国王である前にひとりの男として女性に対して浮ついた態度はいけません!
「わ、私なんかに同情して、こんなことするなんて……!こんな、期待だけさせて後から振られるくらいなら最初からはっきり言ってくれた方がどんなにいいか……!
そりゃぁ私は1度婚約破棄されているキズモノですし、しかも昨夜あんなことしたとんでもない女ですけど!
でも、だからって、……あぁ、もう!だから憐れみだけでこんなことしてたら本命の王女様に嫌われてしま「オレが好きなのはロティーナだけだ!」……え」
離れようとしていた体を再び引き寄せられ、力強く抱き締められてしまいました。少し痛いくらいに力が込められていて、なんだかジルさんが必死なように感じてしまったのです。
「何を勘違いしているのか知らないけど、昨夜の事だって死ぬほど嬉しかったしオレはずっとロティーナが好きなんだ!
ロティーナ以外の女なんかいらない。ロティーナがいてくれたからオレはここまでやってこれたんだ。
────君を愛しているんだ」
だから、オレから離れないで。
そう耳元で囁かれ、止まったはずの涙がまたあふれでてしまいました。
……本当に?本当にそうならば、どんなに嬉しいか。どうしようもなく嬉しくて……ジルさんへの想いが溢れてしまい、ジルさんの背中に腕を回して私からも強く抱きしめたのでした。「はい」と頷きながら。
後々、あの王女様とのことは全部が私の勘違いで誤解だったと説明され……その王女様に依頼して特別に作って貰ったという婚約指輪を指に嵌めてくれました。細かい銀細工の施された指輪は私の指にピッタリで、世界でも希少な鉱物を使ってるって……いえいえ、そんな気軽に使う鉱物じゃないですよね?!え、それくらい真剣に思い詰めてたって……だからってもっとなにか……いえ、はい、そうですか。なぜ私は説得されているのでしょう?
それからどんなに私の事を好きか語られ恥ずかしい時間を過ごす事になりました。この3年間をお互いに片想いしてたなんてさらに恥ずかしすぎます。
ちょっと待ってください。ジルさんの初恋?!私が!?あんなに胡散臭かったくせに、私が初めての相手なんて……なんですか、ギャップってやつですか。今まで本でしか知らなかった“萌え”と言う感情を初めて体験してしまいました。
私たち、お互いに初めてだらけですね。ってちょっと笑ってしまいます。
しばらくすると部屋にレベッカ様たちがやって来てジルさんが謝りながら説明をしたのですが……。
「それでは、今日の聖女解任パーティーは……おふたりの婚約パーティーに変更でよろしいですわよね?」と、レベッカ様とアニーが笑ったのでした。
その後、本当に婚約パーティーが開かれてしまいました。なんとジルさんはパーティーに集まった人々の目の前で私にプロポーズをしたのです。ターイズさんが「3年分のヘタレが蓄積されていたのが爆発したようだ」としみじみと頷いていましたがなんですかそれ。
さらには王女様も祝福の言葉をくださいました。「本当によかったですわ!新しいドレスが必要な時はいつでもおっしゃってくださいね!え、噂?なんですかそれ?」と首を傾げられ、本当にジルさんと王女様の間には何もなかったようだとホッとしてしまいます。
ジルさんに誤解していたことを改めて謝りましたが、それもこれも誤解されるような事をしていたジルさんが悪いのだとレベッカ様が私を庇ってくださり、ジルさんはターイズさんからお説教されていたみたいでしたけれど。
そして聖女反対派の人々ですが、レベッカ様からジルさんが王女様の事をなんとも思っていないのだと教えられ、一気に顔色を悪くしていたのだとか。それでもやっぱり信じられないとこのパーティーにやって来たようでしたがジルさんが私にプロポーズしているのを見て手のひらを返して私のご機嫌伺いをしようとしたようでした。
私の事はともかく、アニーにした嫌がらせは許せませんでしたが……謝罪は受け取ることにしました。そして今後、もしまた王国のありように反発する事があったとしても使用人同士で嫌がらせや争いをした場合は重罪とすると新たな法律までできてしまいました。とりあえずは丸く収まって良かったです。
それから王女様が「お祝いに」とお酒を持ってきてくれたのですが……それが例の〈鬼殺し〉だったので丁重にお断りしたのは言うまでもありません。
もう2度とそのお酒は飲みません……!




