表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/77

72 あの日の結末①

〈10年後〉




「あ!こら、待ちなさーい!」


「やっだよぉー」


桃色の髪をした小さな影がいつものように元気に屋敷中を駆け回っています。私はそのやんちゃぶりに手を焼いていました。


今年で6歳になる彼女は最近『ロープを使った罠100選』という本にすっかりハマっていて、そこら辺に罠を仕掛けては駆け回るいたずらっ子なのです。この間も老執事が罠にかかってしまい芋虫状態にされたのでやり過ぎないように叱ったばかりだというのに……困ったものです。


6歳にしてあんな分厚い本を読みきるなんて、誰に似たのかしら?


「やれやれ、あいつはまたいたずらしてるのか」


追いかけ回すのに疲れた私がどうしたものかと頭を悩ませていると廊下の影から聞き慣れた声が聞こえてきました。


「もう!あなたからも叱って下さいよ!最近は技術が向上していて腕前がプロ並みなんですよ?このままじゃ罠屋敷になってしま……あら、あなたも罠にかかってるじゃないですか」


そこにはしっかり罠に引っ掛かって逆さまの状態で宙ぶらりんになっている私の夫がいました。


「いやぁ、つい。成長したなぁ~って感動しちゃってさ」


そう言うといつものにんまり顔でどこからともなく小さなナイフを出してロープを切ると軽々と脱出してみせます。どうせその罠にもわざと引っ掛かったのでしょうけれど、その態度が余計にあの子を意地にさせているのだとわかっているのでしょうか?


「今度こそ父様が本気で驚く罠を仕掛けるんだって躍起になっているんですよ。さすがに部屋の中にジャングルを作っていた時は私も驚きましたけど……」


「えー、オレを?そんなのジャングルくらいで驚いてたら父親業なんかやってられないよ。でもちゃんと褒めたのになぜか怒りだしちゃったんだよなぁ」


……そうですよね、あなたはそういう人でしたよね。にんまりしたまま「お前は可愛いなぁ~、すごいなぁ~」なんて言って喜ぶような娘なら誰も苦労しません。


「あの子は、あなたが驚いて腰を抜かす場面を見たいようですよ」


「おー、それは今後に期待しとこう」


我が子をどれだけ罠名人にしたいんでしょうか。これはまた複雑な罠が増えそうです。


「せめて使用人たちの通路には作らないように言い聞かせないと……そのうちトーマスが腰をやられてしまいます」


あの子も老執事であるトーマスのことは大好きなのでケガはさせたくないはずですから。トーマスも「まだまだ現役です!」と張り切ってはいるのですが、アニーからの報告では毎夜腰に湿布を貼っているようなので心配です。


あぁ、子育てとは難しいですね。


「……かあさまぁ~っ」


「あら、とうとう観念して戻ってきたの?」


さっきまで逃げ回っていたはずの屋敷を罠だらけにした張本人がなにやら泣きそうな顔をして私の所へ駆け寄ってきました。その後ろにはアニーがいて肩を竦めています。


「リボンがほどけちゃったの……」


私に似た淡い桃色の髪を結んでいた銀の刺繍を施したグレーのリボンはこの子のお気に入りなのですが、どこかにひっかけてしまったようですね。罠はあんなに器用に作るのにリボンを結び直すのはうまく出来なかったようで結び目がこんがらがっていました。


「花瓶にロープを結び付けようとした時に、リボンが一緒に絡まってしまったようなんです。ですから危ないですよと申しましたのに、アニーの言う事を聞かないからですよ。こういうのを自業自得と言うのです!」


「ごめんなさい~っ」


昔に比べてすっかり落ち着いたアニーですが、私と一緒に子育てをしてくれているので変に甘やかしたりせずちゃんと叱ってくれます。でもこの子の向上心は認めているようで罠づくりを無理にやめさせようとはしません。本当に危ない時だけ注意をしてくれたり止めてくれるので安心して手伝ってもらえています。


「ふふ……さぁ、直してあげるから見せて」


リボンを綺麗に整えてあげると途端に灰色の瞳を輝かせて笑顔を見せてくれました。


「もう今日のいたずらはおしまいよ。ちゃんと罠を解除してトーマスにも謝っていらっしゃい。明日にはラスドレード国へ向かいますからね」


「はぁい、かあさま。ルーナおばあちゃまのお墓参りだね」


「えぇ、そうよ。ルゥナ」


そうしてアニーに連れられてトーマスのもとへと謝りに行った娘の後ろ姿を見ながら隣に立つ夫……ジルさんの肩にこてりと頭を預けました。


「……ちょっぴりお転婆になってしまいましたねぇ。そのうち落とし穴に誰かを埋めそうで心配です」


「最強に可愛いよなぁ。今から悪い虫がつかないように気を付けないと……」


確かにめちゃくちゃ可愛いんですけど、ジルさんって親バカですよね。とは思っていても口には出しませんよ。


「オレたちも準備をしようか。ラスドレード国で元占星術師殿がお待ちだ」


「そうですね。早くレベッカ様に会いたいです」


あの日から10年の月日が流れるように経ちましたが、あの時の事は目を瞑ればまるで昨日の事のように脳裏によみがえります。


そう、実はあの時のパーティー後。私はジルさんと婚約をしたものの、やはり両親と領地の事が気になりレベッカ様に相談した事からそれはそれは急展開を迎えることになったのです。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ