84羽:throw dust in eyes
「真代……」
呆然とする恭介。
数多くの任務を重ねた恭介は、仲間のけがや離脱などは幾度となく見てきたし、経験してきた。しかし、目の前で戦友を亡くした経験は未だない。ましてや自分が指揮を執って臨んだ作戦で、彼女はそのチームの一員だった。
恭介の甘さが、弱さが、彼女を殺した。
膝から崩れ落ちそうになるのを必死に耐える。戦場では心が折れたら終わりだ。その戦士としての意地だけが、彼を支えようと躍起になっている。
「ふん。無駄死にだな」
とことんまで憐れんだ視線を向ける鳴守。
恭介との一戦を邪魔したお邪魔虫。空気の読めない出しゃばり女。ありとあらゆる罵倒を思いついた先に、言葉にして吐き捨てる。
「鳴守っぃいいいいい!!!!!」
そこまで言われて黙ってはいられない。恭介の顔が激高して赤く染まる。
彼女を、真代を侮辱されて、膝を折る訳にはいかない。行動を阻害されようが、抵抗の意思は示さなければならない。内側から決して壊れない鳥籠を何度も何度も揺らして、あらん限りの声量を振り絞って吠える。
「はっ! 惨めなもんだな」
「……」
「こんな簡単なことに、俺は今まで時間を取られてたってのか……」
自分の手のひらを広げて茫然と覗き込む鳴守。
傍にはそれを焦点の合わない目で眺める少女”アビス”。危険極まりない能力だ。鳴守との組み合わせはもちろんだが、あれは初見殺しになる。能研にとっての重大な脅威だ。何としてでも、この脅威は伝えなければいけない。
例え、自分が助からないとしても。
「さて、次はてめぇの番だ」
「うぉおおおおおおおおおっ!?」
「あ?」
真代と同様の手口で恭介を屠る算段を語る鳴守。
そんな彼の耳に場違いな、無理やり出したような大声が聞こえた。声の主自身を奮い立たせるために発せられたそれは、速度をもって鳴守に近づいてきた。
「これでもくらえっ!!」
「……なんだそりゃ」
声の主は空中を飛んできたかと思うと、そのままの勢いで鳴守に下手くそなドロップキックをかます。しかし、鳴守の守りを担う『闇外套』にあっさりあしらわれる。
「修!? よせ! 手を出すな!!」
「嫌ですよ! こんな……見過ごせるわけがないでしょ!!」
「……行って!!」
鳴守に捨て身の攻撃を仕掛けたのは修。
技能”一足飛び”で飛んできたままの勢いをぶつけた彼ではあったが、その威力は切ない。そして、違う方向からは、薔薇の化け物が群れを成して迫ってきていた。姿は確認できないが、その奥には小栗がいるのだろう。一度は離脱した彼らだったが、いつの間にかすぐ近くまで戻ってきていたらしい。
しかし、彼らをもってしても鳴守達の相手は厳しい。
特に全く情報のない、鳥籠を操る少女”アビス”には、他者を完璧に抑え込める能力がある。うかつに攻め手を増やしても、逆効果に繋がりかねない。
「……」
「くるぞ! 逃げろっ、修!!」
「くっ!!」
鳴守は修を追わない。面倒くさそうに、遠目に迫る薔薇の化け物の方を向いている。
鳴守の近くで着地した修は、真代がいた周辺に駆け寄る。武器を使う気なのか、壊れていない投げナイフを手に持って鳴守を睨みつける。しかし、そこに”アビス”の目が向けられる。ぼんやりとした様子の彼女から、監獄に誘うプレッシャーが放たれる。
「"攻撃誘導”!!」
「……なんだぁ!?」
真代と同じく修も鳥籠に捕まってしまう。
その場面を幻視してしまった恭介だったが、実際に鳥籠に捕らわれたのは、その横にいた鳴守。攻撃回避術として重宝される、修の代名詞の技能"攻撃誘導”により、向けられた技能をまんまとターゲットをそらし、鳴守に誤爆させて見せたのである。
これは誘導先を自分で引ける、修だからこそできた離れ業であった。
「おい! さっさとこれを解け!!」
「……」
狙いが外れ、無表情のまま僅かに首を傾げた”アビス”。
鳴守の命令には従順なのか、その怒鳴り声を受け、鳥籠の解除を行う。その直後、真上から降り注ぐ薔薇の化け物の嵐。最初から捨て身に近い攻撃をとにかく、やみくもに振り撒いていく。派手に土埃が舞い上がり、周辺を覆い隠す。これでは、小栗を追うこともできないだろう。
その中で、ただ鳴守の悪態と罵倒だけがこだまするのだった。




