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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
2章.芽生えた彩花は静かに揺れる

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81羽:闇の力を纏いし者

 両者が激突する。


 恭介は駆けだすと同時に影手2本使用した黒翼を展開。腰の黒刀を両手に構え、全力で鳴守を迎え撃つ。戦闘モードに入った恭介の顔には、烏を模した鳥仮面が浮き上がる。近接戦闘に特化したスタイルであり、手数と反応速度においては他者の追随を許さない。


「"英雄形態(フォルムチェンジ)”!!」


 一方の鳴守も実力は恭介と互角。最初から出し惜しみは不要と技能を発動する。


 声に出して発動したそれにより、鳴守の出で立ちが変わる。頭、身体、腕、脚と黒い包帯のようなものが羽織っていた外套の内側から飛び出て、瞬時にグルグルに巻き付いたかと思うと、その次の瞬間には別の姿に変身していた。


 まるで戦隊モノのヒーローと言うべきか、全身を専用の衣装で身に包んでいる。


 ただよくいる赤や青などのカラフルな色ではなく、その色は恭介にも劣らないほど真っ黒であった。彼の能力の名は『闇外套(ブラッククローク)』。能研所員でもエース級に値するA-ランクの能力者だ。


 能力名にもある通り、彼の能力はいつも羽織っている大きめの外套だ。


 それを身に着けていることにより、身体強化、とりわけ耐久力・防御力アップの恩恵があるのだが、今はそれをフルに活用できる戦闘スタイル。恭介の刀と素手で堂々と打ち合えるような、超人的な強化がなされている。


 振り下ろされた鳴守の拳が、容易く地面を砕く。


 彼の様な、言ってしまえば別の形態に変身する能力は通称、身体変化系(トランス)、変身した形態はトランス体と呼ばれる。身体強化系とは違い、人体のつくりとは別のものに生成され直す、という言い方になるのか、なんにせよ珍しい能力なのは間違いない。


 能研内でも、身体変化系の評価は高い。


 主に強化体の生成+突出した一部のステータス、さらには、ダメージを持ち越さないなどの特徴が挙げられる。彼の場合、もちろん全体的な強化はあるのだが、一番に防御力、その次に攻撃力が突出している。簡単に言えば殴り合い上等、近接戦闘には滅法強いのである。


 そして最大の特徴である、ダメージ継続無し。


 仮にこのトランス体で腕や脚、最悪頭が吹っ飛んでも、元の能力者に影響は残らない。トランス体を維持できなくなった時点で、その技能は解除され、再発動には幾分かのクールタイムが必要になる。中には技能の発動自体に時間制限があるものや、精神を消耗するものなど、そのリスク管理は様々だ。


 そこを突くことこそが、対身体変化系における基本戦術だ。


 ただ鳴守に関しては、彼がタフなだけなのか、技能の発動自体にデメリットはないように見受けられる。それはすなわち、彼を倒すにはまずトランス状態の彼を打ち負かし、さらにその後、まだほかの技能も使える状態の彼を倒す必要がある。


 トランス体との戦いは死闘になる上、それなしでも手ごわい彼を相手取るのは、戦闘経験豊富な能研所員といえど、決して簡単なことではなかった。


「はっ!!」

「おらぁ!!!」


 剣と拳が接触し火花が弾ける。


 天性の戦闘センスと、能研での修練と実戦で培った戦闘技術で恭介が畳みかける。しかし、対する相手もはぐれ者の頂点に立つ者。武術などを修めた綺麗な立ち回りではないが、それ故に対応しづらい独特のリズムがある。彼だけであれば、猛者が集結する4区でも十分通用するだろう。


 近接戦闘時、特に1対1では無類の強さを誇る恭介。


 認識阻害と集団催眠、そして意識遮断の技能を惜しみなく使う恭介。特に認識阻害に関しては、1対1であれば、ほぼ必勝に持ち込める能力なのだが、それでも鳴守の鉄壁を崩しきれない。


 意識の外から殴られようが、その攻撃はなかなか通らない。


 そこに耐えての反撃をされるため、決して恭介も油断できない。またその場合、全方位への攻撃が飛んでくるので、決着が長引く戦闘では案外使いづらい。周りへの被害を抑える意味でも、現在は恭介自身には認識阻害の技能を使わずに対応していた。今は真代がその辺りのフォローはしてくれているはずだ。


 小手先の攻撃が通じないのであれば、後は火力と必殺に懸けるしかない。


 恭介の必殺である意識遮断の技能”引きずり込む悪夢(ラストナイトメア)”であるが、これはトランス体にも有効である。実際、初めて対峙した時には、恭介が鳴守を瞬殺していた。しかし、鳴守には特定の技能へのカウンタースキルがあったらしく、それ以降は狙っても逐一対応され、必殺足り得てはいなかった。


「つくづく憎らしい堅さだな!」

「はっ! 俺も色々特区内を回ってきたが、俺より堅かったのは【鉄鬼(てっき)】のおっさんぐらいだな!」


 恭介の刀や黒翼を素手で跳ねのけ、剛腕を振るう鳴守。


 手数は恭介が勝っているため、時折身体にもらっている攻撃もある。だが、その防御力までは貫けていない。もちろん彼も人間なので、徐々にそのダメージは蓄積されている。


 また鳴守の言う【鉄鬼】とは、6区のエース級の能力者だ。


 鳴守と同じく身体変化系であり、その硬度は鳴守を凌ぐ、能研随一の防御力と称されていた。


「5区には【護り人(まもりびと)】っつー堅いやつもいるみたいだが、別にそこで張り合うつもりはねぇ」

「あの人は『錬成型』の中でも最強の一角。お前如き瞬殺だろう」

「はっ! 言ってくれるねぇ。俄然興味が湧いてきたぜ!!」


 振り被っての強烈な一撃。刀を交差して受け止めた恭介が大きく弾かれる。


 鳴守の目的は、能力者の中で一番の堅さを手に入れることではない。高い攻撃力を誇る能力者を相手に防ぎ切って、真正面から完膚なきまでに叩きのめすこと。それが彼が能力に目覚めてからの生きがいであった。


「【案山子(かかし)】の噂を聞いて来たってのに、お前なんかに足止めされるとはよお!」

「それこそ瞬殺だ。まずは俺を超えてからにしろ」

「当たり前だ! やられっぱなしで引き下がれるわけねぇだろうが!!」


 各区を渡ってきた鳴守であったが、何も全ての戦いで勝てた訳ではない。


 それでも持ち前の硬度と耐久力により、悪くて引き分け。土を付けられたことはなかった。そうこうするうちに名が売れるようにはなったが、全て上手くはいかなかった。能研に目を付けられながら、本腰を入れてやり合うにはしんどいと、半ば放置されたような状態になってしまったのだ。


 募る苛立ち。鳴守は強者を欲していた。


 そして、聞きつけたのは最強の能力者集団【七人の悪魔(グリモアセブン)】に迫る攻撃力を持つと言われた【案山子】の噂。つまり、1区の戦闘班班長を務めている、恭介の上司、憑神のことであった。


 そして、いざ降り立った1区で訪れた初めての敗北。


 それは狙っていた憑神ではなく、恭介の手によるものだった。


 それからムキになった鳴守は度々恭介に戦いを挑み、その都度敗北を積み重ねていた。単純な攻撃力だけでなく、精神系の異能を混ぜた攻撃は、鳴守には未知との遭遇だった。何回も挑んでいるうちに、1区内でも注目されるようになり、徐々に周りに集まるはぐれ者も増えてきた。


 一匹狼を気取り、最初は煙たがっていた鳴守。


 だが加恋との出会いや、追い払ってもついて来ようとするはぐれ者達との交流を経て、いつしか誕生していたチーム。それが【黒天鳴音(ハウリングノイズ)】。


「チームの旗を上げるのに! 俺がこのままでいられるか!!」

「ぐっ!!」


 鳴守の攻撃速度と威力が上がる。


 いつにもまして鬼気迫るその表情で、百戦錬磨の恭介をも押し込む。いつしか彼の夢はチームの夢となっていた。1区から羽ばたく、最強のチームへ。


「ふっ!」

「ぬぉ!?」


 しかし、それを許すほど、能研も甘くはない。


 手数で押す恭介は鳴守との攻防を経て、身体に宿した3本の影手”重なる影(リフレインシャドウ)”と精神領域”悪夢の中心(ナイトメアコア)”によるリンク機能『自動回避』が有効となる。超近距離でも鳴守の攻撃は恭介には当たらず、逆に恭介の攻撃は鳴守の身体を捉える回数が増えてきた。それでも持ち前の防御力で凌ぎきる鳴守。


 苛立つ彼は、それを払しょくしたいがために、大振りな攻撃を放ってしまう。


「糞があああああああ!!!」

「隙あり」


 大振りな攻撃を避け、その腕が振り切られたところをトンと弾く。


 軽い攻撃でバランスを崩しガードが空いた鳴守の正面、腰に黒翼を展開させていたはずの恭介の刀から、黒い閃きが零れる。その場で竜巻の様に回転して放たれる、零距離”黒刃”()()()。全てをまともに喰らった鳴守は、派手に吹っ飛ばされ土煙に沈む。


 それが、第一ラウンド終了の合図となるのだった。

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