78羽:小物軍団と烏の因縁
1日目と同じチーム分けで任務に当たる恭介達。
成子・小栗ペアも例に漏れなかったが、1日目とは装いが変わっていた。
「なんかこういうのも新鮮だねぇ」
「そう……だね」
彼女らの身を包むのは、恭介達も着用していた能研の制服。
今回は『街角女神』とは別に、貴重な回復能力持ちの女性、藍音 クラウンへの聞き込み及び周辺調査をメインとしていた。そうした調査への協力を得るには、能研所員という立場を明確にした方がいいだろうとの思惑があった。
柄ではなかったが、実際に能力を掛けられた小栗が出向いたほうが話はしやすいだろう。恭介達が対応して変に警戒されても仕方なかったので、引き続きこのチーム分けでの対応となっていた。
「流石に家まで押しかけるのは悪いからさ、大学の帰りとか捕まえられたらいいね」
「うん……でも、探さなくても近いうちに会えそうな気がする」
「え?」
手のひらを擦る小栗の返答に訝し気な返事を返す成子。
見れば消えたと思っていた、彼女に掛けられた能力が再び淡い光を放っていた。1日置いてもまだ継続効果がある能力は珍しい。もしかしたら長時間接続の能力というよりかは、一度発動したら解除するまで残るタイプの技能かもしれない。
「ふーん、奥が深いんだねぇ……っと」
「わっ! ご、ごめんなさい!?」
小栗の方を見ながら話していた成子が、曲がり角で誰かとぶつかりそうになってしまう。間一髪で成子が避けたため、掠る程度だったが、相手は非常に慌てていた。
「ふふ、また会えたね……」
「……なんか、わざとそういうとこで待機してたりしてないよね?」
「え? え!?」
そこには成子と小栗を交互に見てあたふたする女性。成子達と二度目の出会いとなった、藍音 クラウンの姿があった。
*
「恭介さん」
「なんだ?」
「何かあてってあるんですか?」
ところ変わって、こちらは恭介・真代・修チーム。
1日目は目立った収穫はなかったものの、彼らは『街角女神』を探す視点ではなく、1区のはぐれ者達の様子を確認するところから探っていた。その辺りは、成子達よりも当然詳しい。恭介に至っては、躍起になって能力者狩りを行っていた時期もあったぐらいだ。
「そうだな、そういった小物軍団はちらほらと散らばってるが……」
「小物軍団……っ」
恭介の発言を聞いて、変なツボにはまったらしく、くっと堪えて顔を背ける修。
どこにでもアウトローを気取りたい人はいる。人にはない、自分だけの能力に目覚めたものであれば尚更だ。素直に能研でその力を振るえばいいのだが、指図されたくない、人の言うことを聞きたくない、でも好きにやりたい、というなかなか困った能力者は一定数居る。これは1区に限らず、どこにでもある悩みだった。
「一番規模が大きいところはここだな」
「【黒天鳴音】……? へぇ、リーダーがAランクなんて、よく能研が野放しにしてますね」
「別に野放しにしてるわけじゃないんだけどな」
能研の管理とは別にそうしたチームを立ち上げるものは、ある程度いる。
ただ真っ向から能研に喧嘩を売ったものは即効で潰されるので、その目を盗んで悪態をつきながら、仲間達とだべるのだ。能研の所員が見回りに来ると、あまり大事にならないうちにさーっと蜘蛛の子を散らすように解散してしまう。
ただそういったチームが多い中で、【黒天鳴音】は割と好戦的なメンバーで構成されていた。
なかでもそのリーダー格【反英雄】を名乗る、鳴守 胤人という男は、恭介とも散々戦闘を繰り広げたが、未だに決着を付けきれないでいた。
「へぇ。ますますなんでそんな危険人物がそのままになっているのか、不思議です」
その話を聞いて、修が改めて疑問を呈する。
恭介の戦闘能力は高い。Aランクと言えば能研でもエース級の実力者揃いだ。そして、修は恭介の力量はその中でも上位だと思っている。そんなエース所員にも劣らない実力を持った能力者が率いる、好戦的な反能研のチームが治安の良い1区に存在しているという事実が、修には信じらなかった。
「もちろん1区の戦力を傾ければ、勝てない相手じゃない」
「ならどうして?」
「厄介なことに、奴にはある種の人望というか、人を惹きつけるものがあってな。馬鹿ではあるが、あれはあれでまとめる力がある」
「要は小物の統制役として、利用価値があると」
「不本意ではあるがな」
もちろんそれを能研が公に認めることはない。
だがアウトローにはアウトローなりのルールがある。それが1区の治安にも関わってくるのであれば、おいそれと突けない部分となっているのも仕方のないことだと言えた。
「まどろっこしい。もっとシンプルに考えられたら楽なんだけど」
「あれ、真代さんって潔癖というか、けっこう正義感強いタイプですっけ」
恭介と修の会話にぼそっと入ってきたのは真代だ。別に修に煽る意志はないが、そこは人の倫理観に関わる問題だ。それでも真代は特別表情を変えることもなく、淡々と返す。
「考え方の問題よ。煩わしいことは嫌いなの」
「なるほど。大人の事情ってやつは、どれも堅苦しいですからね」
分かったような分からないような、あやふやな返事で対応する修。
真代もそれ以上乗っかる気はないのか、再び口を閉じた。二人はそれなりにチームとして共に行動する機会が多かった。別に今更信頼関係を築いていかなければいけない間柄ではない。ただそんな掛け合いもどこか恭介には新鮮で、興味深げな視線を送るのであった。
*
結局3人組は【黒天鳴音】に的を絞って再び調査を開始した。
1日目に感じた、大人しすぎるまでの静けさが、恭介のアンテナに微かに引っかかっていたのだ。
「やつ自身は細かいことはやってこない。動くとしたら彼女だろう」
「榎本 加恋、そのチームのNo.2ってやつですね」
「ああ、彼女には脚がある、見失うなよ」
「「了解」」
恭介の領域”悪夢の中心”の端に僅かに引っかかっているのは、その加恋だ。1日目からマークしていた人物であり、最近は特に人目を気にして行動している節があった。そのため、ばれないようにその様子を追っていくことにしたのである。
息をひそめる中、件の彼女は急に行動を開始した。
度々誰かと電話でやり取りをしていたかと思えば、何か予定外の事があったのか、慌てて動く仕草を見せた。
「追うぞ。二人はそれぞれ別方向からマーク頼む」
単独でも動ける恭介に、潜入捜査・情報収集などが専門の真代と修が加われば、追えないものはない。3人は気配を隠し各自行動を開始する。そんな中、ターゲットである加恋が向かった先、そこはなんでもない近くの公園であった。




