75羽:街角女神を捕捉せよ
「おなかすいた~……。くりちゃん、それなんか実がなったりしないの?」
「お花は咲くけど……どうかな。頑張ったらできるかも?」
ここは能研の一室。
ここ最近の【A級案件】での打ち合わせに使われている会議室で、人が増えるにつれ、いつしか溜まり場のようになっていた。前回晴れて恭介のチームに加わった古賀姉妹の妹、成子が早速小栗にちょっかいを出している。
雑に後ろから抱き着き、小栗の頭から生えた花をちょいちょい弄る。
それ自体が割とシュールな様子なのだが、今更突っ込む者はいない。それなりに毎回集まるのが楽しいのか、小栗の顔には控えめだが笑顔も咲いていた。
「親交を深めるのも悪くはないが、今は会議の時間だ」
「えー、お兄さん堅い~。あ、そう言われると興奮しちゃう?」
「いいから、話は聞いておいてくれよ」
「はーい」
「ふふ……」
成子の加入により、一気に場の雰囲気が柔らかくなった気がする。
多少だれて見えることもあるが、あれで気配りはできる女性だ。問題はないだろうと思いつつ、今後も手を焼きそうだなと、一人ため息を呑み込んだ恭介。今は上司の憑神も交えて、改めて結果報告を全体の場で行っている。
「『怨念髑髏』の件も、これで任務達成ですね」
「ああ、幸い被害を受けた感知能力者3名も、今は問題ないらしい」
小栗で遊んでいた成子が気づき、ばつの悪そうな顔を浮かべる。
「あー、本人の前でそれ言う? 悪かったって」
「これからの働きで返してくれればいい」
「うぇ、借金スタート!? まあ頑張るけどさぁ~」
『怨念髑髏』の一連の騒動で、恭介達が実際に戦闘を行ったのは姉の芽衣子とだったが、能研の感知能力者を襲ったのは、妹の成子に黒い靄が憑りついていた時だ。少し意地悪かもしれないが、やはり元は敵対関係にあった者同士。意識をした上で、それを乗り越えていかなければいけない。
「【A級案件】ってもう一つ……あるんだよね」
「ああ、そうだな。そろそろ本題に入ろう」
「くりちゃん、いい子」
「ふふ、くすぐったい……」
スキンシップ多めの成子に頭を撫でられまくる小栗。
成子は大人っぽく見られるが、高1で15歳、小栗が中2の13歳なので、実際そんなに年の差はない。しかし、その様子はまるで成子が親戚の子供をあやしているかのようだ。ただ小栗も満更でもなさそうなので、他人がどうこう言うことはないだろう。
『薔薇屋敷』『怨念髑髏』という二つの特殊な【A級案件】は、能研にとって重い案件ではあったが、最終的に協力を取り付けることができた。またその能力者同士の仲も悪くはないというのは、これからの任務に当たる上で、非常に助かることだ。
「最後の案件はこれだ」
「『街角女神』……?」
「ああ、基本的には今までと同じ。この能力者を見つけ出し、仲間に引き込めれば任務達成だ」
「どうでもいいけど、毎回誰がこういう名称付けてんの?」
『怨念髑髏』である成子の突っ込みを綺麗に流し、彼らは情報の確認を行う。
成子の時と同じく、対象者の詳細な情報はないに等しい。しかし、確実に存在していて、放っておくと能研の脅威になり得る可能性が出てきたことから、急遽【A級案件】に格上げされ、全貌の解明が急がれていた。
「ここ1区は特区の中でもかなり治安のいいほうだが、当然はみ出し者もいる」
「ええ。アズミの話だと、ガス抜きのために雑魚は無視してるって」
「ああ、旦那と嬢ちゃんが本気出せば、まず悪の芽は根こそぎ刈られるからな」
「うわー、なんか知らないけどおっかなそう」
現支部長であるアズミと、現役バリバリながら隠居生活を送っている支部長補佐の立花。彼らの能力は相性も良く、自治においては最適とも言える能力である。
それでも警戒するのは人の感情。
安全な街は誰もが理想とするところだが、締め付けが強すぎると人は集まらない。能力に目覚めて調子に乗るものも多いが、小物には目を瞑ることで、比較的住みやすい安全な街という一定の評価を得ていた。
1区は基本的に不要な能力の使用は認めていない。
特区において、そういったルールは各区によって変わり、逆に能力の使用上等と謳っているのは4区だ。能力のみで成り上がりを夢見るものは4区を目指す。
治安は悪いが、一種のロマンを求めるものにはたまらないだろう。
その証拠と言うべきか、4区のTOP3【三影者】は、そういった成り上がり組が担っている。他の区ではまず考えられないことだ。1区の小物はそういった場所があるにもかかわらず、安全圏で吠えてるだけなので、能研の脅威にはなり得ない。
「しかし、その扱いが少し変わってきているかもしれないと?」
「ああ、ばらばらな奴らがここ最近、結束を強めている」
「そのまとめ役が『街角女神』だと?」
「あくまで予想だがな」
これは何も1区に限った話ではない。
不要な能力行使で抗争を繰り広げる、はみ出し者が所属するチームは各地に複数存在している。普段は能研に対してだけでなく、彼ら同士ででもいがみ合っている訳なのだが、ここ最近は全くそういう動きが見られていない。
我が強く、特定の仲間内の意識しかない彼らが、急に足並みを揃えるのは不自然だ。
そんな中、噂に聞くようになったのが、『街角女神』の情報という訳だ。抗争中だった二つのチームを声一つで止めたとか、大型チームのリーダー格が一撃でやられたとか。
聞くのは、そんなカリスマを感じさせるような話ばかり。
一人一人が脅威とはなり得なくても、人が集まると当然話は変わってくる。能力の組み合わせにより、思いもよらない力を発揮することはよくあることだ。またそれらをまとめて指揮を執れるものが出てくるとなると、いよいよ野放しにはしておけない。
「ただ奴らも学習したのか、下手な抗争は最近起こしてなくてな」
「それを理由に捕まえることができていない、じれったい状況という訳ですね」
「乱暴な人が皆大人しくなったなら……それでいいんじゃないの?」
「この子にはずっとピュアなままでいてほしいわ」
憑神と恭介の会話を聞きつつ、小栗が首を傾げる。
ただ大人しくなっただけならもちろんいい。ただ大掛かりな作戦などのために、尻尾を掴ませないように計画的に動いているかもしれない。なまじ今まで配慮のない、ただちょっと暴れたいだけの能力者達だっただけに、何もない状況下で自制がきいているとは考えにくい。
『街角女神』が船頭を取り、何か企んでいる。そうした可能性は捨てきれないでいた。
「情報収集のために、各自手分けして当たるぞ」
「「「了解」」」
「はいよ」「うん……頑張る」
今回は成子も加えての5人体制だ。
特に成子の能力『悪意の巣』には、広範囲の遠隔操作が可能な技能”怨恨の骸”がある。恭介達や感知能力者を苦しめた特異な能力だが、味方に加わるとこれほど心強いものはない。
前回活躍した小栗の能力『嘆きの華』にも頼る場面は出てくるだろう。事前の情報共有と確認をすまし、それぞれが役割を果たすため、最後の【A級案件】に着手するのだった。




